note甲子園_準々決勝_表紙

「不思議だった話。」(note甲子園、準々決勝参加作品)

1年くらい前のことでした。

その日、新宿へ行く用事があって家から駅へと急いでいました。

時間は夜の7時頃で、日の短くなった秋の街が、ちょうど夕焼けの名残りも消えて夜の暗さに馴染んだ頃でした。

駅に着くとちょうど電車が入ってくるところで、慌ててホームに向かいなんとか電車に乗り込むことが出来ました。

車内は10人か15人くらい乗っている程度で、席もだいたいあいていたのですぐそばの席に座り、目標の電車に間に合ったことにホッとして何となく顔を上げると、目の前に座っていた女の人と目が合いました。

たぶん年齢は21~22歳くらいで、細くて背が高そうで、見た瞬間にハッとしちゃうような人形みたいに整ったすごくきれいな顔立ちをしていて、落ち着いた雰囲気のすごく素敵な服装をしている人で、何かの作法のようなとてもきれいな姿勢で座ってまっすぐに視線をこちらに向けていて、一見して「女優さんとかモデルさんかな?」という印象でした。

まだちょっと息も切れてたし「どうしよう!綺麗な人に見られてた!」って思ったらちょっと恥ずかしくなっちゃって、こそこそ姿勢を正しながらバッグから取り出した本に視線を移して動揺を誤魔化しながら息を整えました。



 1駅、2駅と電車は夜の住宅街を新宿へと向かって行き、5分くらい本に集中してたんですけど、その間なんとなく、視界の端で目の前の女の人がまだこちらを見ているような感じがしてたんです。

まあでもそういう時って、顔がこっちを向いてるだけで別に視線は違うところを見てたり寝てたりするものだから、と思ってちらっと前の人を見てみたら、やっぱりその女の人はさっきのままの真っ直ぐな視線でこちらを見ていました。

內心「わ!」ってびっくりしたんですけど、目が合っても相手は目をそらさず、まばたきもせずにじっとこちらを見つめ続けているから、なんだか視線が外せなくって、たぶん2秒間くらいずっと目が合ってました。永遠のように長い2秒間。

金縛りにあったみたいに膠着したまま、ひょっとして知り合いかな?と思って、よく見てみたんですけど、心当たりはありませんでした。

見れば見るほど、黒髪で、あごの細いきれいな輪郭に陶器みたいにつるりとした肌と品のいい目鼻立ちをした人で、微笑むでもなく無表情でもないなんとも言えない不思議な表情のままこちらを見つめていて、本当に陶器の置物が息をしながらそこに座っているみたい感じで、目が合っても視線が揺らぐことすらありませんでした。


それでなんだかすごく気になってきちゃって、また本に視線を移して読むふりをしながら「やっぱりどこかで会った人なんじゃないかな…?」とか、いろいろ思い出そうと必死に頭の中をぐるぐる探っているうちに、4駅、5駅…と電車は進んで行き、その間も、相変わらず視界の端でずっとその人に見つめられているような感覚がありました。。。

 6駅目に到着して、ドアが閉まり、電車がゆっくりと動き出した時でした。

目の前の女の人がスッと立ち上がる気配がして、本から顔をあげると、次の駅で降りるのか、その人がドアに向かって歩き出したところでした。

まだ駅を出たばかりなのに降りる準備をするの早いなあって思いながら「結局知り合いだったのかな?それならただ黙って見てるのも変だし、やっぱり関係ない人かな?」とかもやもやと気になってあれこれ考えてるうちに電車は次の駅へと近づいてきて

結局わからずじまいかなって、少し残念なような気持ちで、ドアに向かって顔がつきそうなくらいの近さで綺麗な姿勢で立ってるその人の背中をなんとなく見た時にふと気づいたんですけど…

その人、真っ暗なドアのガラスの反射越しに、まだじっとこちらを見つめ続けていたんですよ。

まばたきもせずに、ずっと。


〜おわり〜


☂【おまけ】夜な夜な貞子☂

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☂湿度100%☂

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