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うしろからこっそり

いつもと少しちがう道を通って
近くの商店街まで行く途中
ある細道のところに差し掛かった時に

よろよろと歩くようになった
今は亡き父が、転んだりしないか心配で
見つからないように、こっそりと
後ろから父を見守りながら
歩いた道だったことを思い出した

父の足腰が段々と衰えてきて
歩くスピードもゆっくりになり
はたから見てもハラハラするくらい
よろよろしながら歩いたり
自転車にも乗っていた時期で

近所のおばさんに
どこかで転んだみたいで
お父さんが血まみれになって帰ってきたよ、とか
聞かされるようになってきた頃の
ある夜の出来事

自宅から5分ほどのその細道にある場所に
父は用事があるから出かけるといったので
私は、もう暗いから明日にすればと言ったが
それにかまわず父は出かけていったので

私は心配になり
父に気づかれないくらいの距離をあけて
後ろからついていくことにした

父の歩行は本当にゆっくりで
すぐに追いつきそうになるので
私は途中何度も立ち止まり
少し距離を保ちながら
倒れたり、転んだりしないか
心配でハラハラしながら
父を見守っていたが

そうこうしているうちに
どうにか父は無事に用事を済ませて
自宅に帰りついたので
やっと一安心した

父に見つからないよう気を使ったりしなくても
夜の暗さと
歩くのに精いっぱいであったであろう
その頃の父は
私がうしろからついてきていることには
全く気付かなかったので

別にこっそり気づかれないように
する必要も特になかったけれど

その時はなんだか
そうするのがいいように思えて
こっそり後ろから見守ることにした


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