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【質問箱】 センス

 有難いことにいくつか質問をいただいているので、今日もお答えします。

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 センス。
 いやはや、抽象的で言語化しにくい、難しい質問ですね。

 個人的には、前回の回答と重なる部分があると思っています。

「文章」といってもさまざまな文章がありますが、こと「小説」に限った話であえて「センス」なるものを言語化しようとするとするならば、

(1)「作品内時間」が違和感なく、心地よく流れていく文章

 これを私は「センスあるな」と感じます。
 とにかくセンスある人の文章は、時間の演出が上手いんですよね。通読する流れのなかで引っかかったり、淀んだり、逆に目が滑ったり行き急いだりすることがない。
 このバランス、リズムを生み出すのは、ほんと難しいんですよ。自分で書いていても、いつも苦吟します。そして満足いくほど成功した試しがありません。プロの仕事を間近で見ていると、凄いなあと唸ります。

 あとふたつ「センスを感じる文章」の要件を挙げると、

(2)ツカミが面白い文章

(3)伝わる文章

 この2点は必須ですね。
 冒頭から面白くて引き込まれること。そして最低限、破綻なく書いてある意味が伝わること。
 基本的な要項かもしれませんが、これが案外、難しいんですよ。冒頭、目立とうとして奇を衒い過ぎても悪目立ちして逆効果になることはあるし、逆にさりげなく普通のことを書いていても不思議と読者を引き込む文章は存在する。ツカミはセンスによるところが大きいと思います。
 そして、文章でなにかを伝えるということの、いかに難しいことか。文章とは、所詮は代替物、記号の羅列でしかありません。音楽や絵画や映像のように、聴覚や視覚の刺激そのものを直接伝えることはできない。わかりやすい文章とは、ただ易しくて親切なだけではありません。「なにかを伝えることの難しさ」を身をもって痛感している人だからこそ抱きうる必死な足掻きを、こっそり裏にしのばせている文章。そういう文章を、私は尊敬します。
 いま、いままさに私も、こうやって「センス」という抽象的で言語化しにくい、胸の内にモヤモヤしたままハッキリ姿を現わさない厄介な概念のかたちを、なんとか、なんとか自分なりの言葉で象ろうと必死に抗っています。こんな泥臭い焦りをあけっぴろげに書いてしまうのだから、正直、センスないです。上手い人はサラリと片づけます、きっと。裏では必死な足掻きをしているはずなのに、その努力をいっさい感じさせず、表向き肩の力を抜いた自然体で、洗練に洗練を重ねた文章。そういう文章を書くセンスのある人には、とてもじゃないけど敵わないなあと脱帽します。

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