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箇条書きの功罪

『小説の書きかた私論』は、noteの返金機能実装を受け、返金しても一向にかまわないけれど、
「一読して返金しただけでは身になりにくい記事」
 を目指して書きました。


 そのため、箇条書きなどの「パッと見てわかりやすくする編集作業」を、あえて極力しないようにしました(その代わり、強調したい部分は積極的に太字で示しています)。
 だらだらと長文を続けてしまうことになり、読みづらいかもしれません。が、箇条書きにすると要点が端的に抜き出されているので勉強しやすい反面、そこだけを見てわかった気になってしまうのが問題だとも考えています。

 箇条書きで示したのは、あくまで些末な例を挙げるときだけです。たとえば、密室トリックのパターンを私なりに十六種類挙げてみた部分。

【犯人による密室構築】
・犯人が、既にできている密室の外から遠隔的な方法で殺害する方法
・犯人が、既にできている密室の外から、殺害後の死体をなんらかのトリックを用いて、密室の内へ移動させる方法
・犯人が、殺害後に部屋の外に出て、物理的なトリックを用いて密室を完成させる方法
・犯人が、殺害後に犯人だけが知っている秘密の抜け道を通って脱出し、密室を完成させる方法
・犯人が、殺害後も部屋の内に隠れていて密室を完成させ、密室が密室でなくなった死体発見時以降にこっそり外に出る方法
・利害の一致した共犯者を用いて密室を完成させ、互いの証言により容疑を逃れようとする方法
・よしんば犯人が出入りできたとしても、現場の外を行き来した形跡(足跡など)がないために実質的な密室殺人と看做される場合において、なんらかのトリックを用いて形跡を消すか、残さない方法
・犯人が、なんらかのトリックを用いて死亡推定時刻を誤認させ、殺害時に実際は密室ではなかったのに、あたかも殺害時に密室であったと見せかける方法
・実際には現場はずっと密室ではなかったが、死体の第一発見者に、あたかも密室であったように誤認させる方法
【外的要因による密室構築】
・犯人も密室の内側で被害者と刺し違えて一緒に死んでしまうが、現場の状況から両方とも殺害されたと誤認されるケース
・死に際にある被害者が、意図するしないにかかわらず死亡する前に密室を完成させるケース
・第三者が、部屋の内にある死体に気づかず、別の目的で密室を完成させたまま自供しないでいるケース(たとえば、部屋の内に貴重品や後ろめたいものを隠しておくために)
・第三者が、部屋の内にある死体に気づかず、意図せず偶然に密室を完成させたまま無自覚でいるケース
・風などの自然現象が意図せず密室を完成させるケース
・そもそも犯人など存在せず、被害者の自死が殺人に誤解されるケース
・叙述トリックとの併せ技により犯行場所を誤認させ、そもそも犯行現場が密室ではなかったケース

 あくまで「密室トリック」の項を書いている小一時間で思いつくだけ挙げてみた例であり、個人的に悪くない分類ができたと思っていますが、頭を絞れば、この例に留まらない新しい類型は、ほかにもまだまだあるはずです。『三つの棺』の「密室講義」に始まり、古今東西さまざまに研究されてきた事項だし、これからも新しいパターンが創作されるであろう分野。そういう意味でこの箇条書きは未完成だし、要点ではなく些事に過ぎません。

 ちなみに、密室トリックについては個人的な興味があって、いつかそれなりの認知度を得られてnoteの売り上げがまとまった額になったら、賞金つきの「密室テーマ競作」みたいなコンテストをやってみたいという腹案もあります。ただ、以前「選ぶという行為は、その構造上、必ず選ばないという行為を伴う」と書いたように、私なんぞが選ぶのはおこがましいので、躊躇いはありますが。


 この情報化社会において、本質を捉えるスピード感は重要かもしれません。しかし、小説とはもともと迂遠な表現形式です。箇条書きなどで簡潔にまとめられてしまう本質からは少し離れた、文章の端々に潜んだ含意や、全体の文脈から得られる大意にこそ、ヒントが転がっていることもある。そう考えて書きました。

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