ルビの話
小説書きというよりは編集の領分に入るのでさほど一般的な有用性はないかもしれないが、noteにルビ機能が実装されたことだし、同人誌制作の役に立つかもしれないので、ルビの話でも。
以前『小説の書きかた私論』の余談として、こんなコラムを書いた。
以下、一部加除修正のうえ抜粋。
小説の「登場人物名のルビ(ふりがな)」に着目したことがある人は、果たしてどのくらいいるだろうか。
少なくとも私が知っている何社かの出版社では、フィクションの登場人物名のルビは、基本的に「作品全体の初出のみに振る」。
社によっては「章の初出ごとに振る」としているところもあるだろうし、それぞれ独立した連作短編集では「短編の初出ごとに振る」かもしれない。著者の意向があればそれに従うのが当然であろう。
しかし、本則を「作品全体の初出のみに振る」としている社には、その理由があると聞いたことがある。
ルビは「その人物が作品の中で最初に登場しましたよ」ということを示す目印になる――というのである。
言われてみればなるほど、あまり記憶力の良い読者とはいえない私も、学生時代から、この傾向は肌でなんとなく感じ取っていた。ルビの振られていない、しかし印象の薄い名前が当たり前のような顔をして出てきたりすると「あれっ、こんな人物、前に出てきたっけ」と首を傾げてページを戻した経験が、一度ならずある。
ウェブ小説ではルビを振りすぎても煩くなるだけだろうから、振るのはほとんど固有名だけでよいのではと思う。その場合に気をつけたいのが、二度目、三度目に出てきた固有名をどうするか。
あまりに特殊な読みの人物名の出番がだいぶ空いたときには、二度目、三度目に振るのも大いにありだろう。たとえば中山礼都とか土田龍空とか。ちなみに彼らは『デスノート』の登場人物……ではなく、実在するれっきとした現役プロ野球選手の名前だ。しかも、ともに将来を嘱望されたホープ。これからの活躍が楽しみである。
閑話休題。これほどの特殊な読みならばさておき、通常の人物名なら全体の初出に振るのがちょうどいいだろう。その人物に関する主要なプロフィールや描写は、初出のルビを振った前後の段落で示してあげると、より親切だ。
ちなみに、さるベストセラー作家は、異なる読みが想定される名前はなるべく用いないようにしていると仰っていた。たとえば淳と淳などのように。
そうすると誰でも読める平々凡々な名前ばかりが並んで印象が薄くなるというデメリットはある。そこはプロの腕の見せどころで、ありふれた名前など苦にせずに、読ませる作家は難なく読ませる。
一方、昨今のライトノベル系に多いように名前で目立とうとしても、煩くなってしまえば逆効果だ。阿良々木暦くんのような名前をつけ、かつ絶妙なバランスを保つには、それなりに文体を選ぶし、筆力を要するのだ。悪目立ちすればいいというわけでもない。
ところで、私の編集画面はこうなっている。
手打ちでルビを振るのはなかなかに面倒くさいが、それはさておき、基本的には「文字ツキ」であり「ナミ字」としている。どういうことかというと、どちらの名前も当て字とはいえ各文字に音が割り振られているように思われるので、礼都と均等ルビを振るのではなく、一文字ごとに分けて「文字ツキ」で振っているのだ。かつ、ルビというのはただでさえ小さく読みづらいので、紙の出版では多くの場合、拗促音を小さくせずに普通の大きさ=ナミ字で書く。龍ではなく龍のように。とはいえ、ナミ字にするのは活版印刷の名残という話もあり、本来の読みを重視したいなら小さい字を使っても悪くはないと個人的には思うし、フォントの大きさにもよるがウェブならばナミ字にこだわる必要もないのだろう。
紙の本においては文字ツキといってもいろいろあって、文字の真横中央にそれぞれ振られる「中ツキ」や、文字版面の右上からそれぞれ下に向かって振られる「肩ツキ」がある。
見た目はこんな感じ。読みやすさにはそれぞれ一長一短がある。この辺りのルビ振りの方法は版元によって微妙に異なるので、気になる方は見比べてみると面白いかもしれない。
基本は文字ツキだが、均等ルビにする場合もある。たとえば、複数の漢字で特殊な訓読みを形成する「熟字訓」の場合。
「のれん」は「暖簾」
「のろし」は「狼煙」
といった具合だ。
なぜか? 暖簾はもともと「のう・れん」の音変化であり、熟字訓ではない。一方、狼煙は固有の熟字訓だ。
熟字訓の一覧は、たとえば下記のサイトが便利だ。
このサイトを眺めていると、ずいぶん知らない熟字訓があって勉強になる。これらの語にルビを振る際は字ツキにはなりえないので、均等ルビにするとよい。
なかなかに編集って面倒な仕事でしょ?
ウェブ投稿の参考になるかどうかはわからないが、とりあえず思いつくままに挙げてみた。いつか誰かの役に立てば幸いだ。
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