見出し画像

ペンネームについて

 少々愚痴めいた話になる。

 本が売れないというのは折に触れて書いてきたことですが、売れないというその厳然たる事実を前に取りうる対策として、売り上げの減少とは対照的に刊行点数はこの20年で明らかに増えました。一時的にでも売り上げを立てて、返品が来る前にまた新刊を出す。つまりは自転車操業です。ペダルを漕ぐのをやめたら死ぬ。

 それで一発でも大きな当たりがあれば儲けものですが、言ってしまえば粗製濫造です。制作の現場は疲弊し、ますます首が絞まっていく。

 だからネットに溢れる異世界ものの書籍化の流れも、傍から見れば途方もない賭けのようにも映りますが、ある意味では当然の流れなのかもしれません。ユーザーが勝手にランキング付けしてくれて一定の需要が見込めるならと、乱発していく。それでペイできるのかは寡聞にして知りませんが、賭けは賭けなので、アニメ化などに漕ぎ着けられれば、大きく跳ねることもあるのでしょう。とはいえ、ほんのひと握りかもしれませんが。

 ふと「異世界もの」の文体模写をしてみようと思い立ち、キャラクター設定とプロットをあらかた揃えてみたはいいものの、そこでふと考えたのは「ペンネームをどうしよう」ということでした。

 前述したように、ともすると粗製濫造にもなりかねないほど新刊の刊行点数が増えている現状です。当然、埋もれる作家のほうが比率としては圧倒的に多い。それでもファンになってもらって二作、三作と読み続けてもらうためには、その記号たるペンネームは目につきやすくしなければなりません。

 実際の統計を取ったことはありませんし真偽のほども不明ですが、新しくペンネームをつけるならば五十音順で早いほう、なるべく「あ行」にするといい、という噂も、編集の現場で聞かないわけではありません。書店では棚挿しになると、多くの場合は著者名の五十音順に並びます。これも統計を取ったわけではないからただの印象論ですが、人間は「あ行」から順に見ていく割合が多いのではないかと推測されるので、自然「あ行」のほうが目に触れやすくはなる、というわけです。

 まあ、エンカウント率が上がったところで、そこは当然ながら激戦区となるわけですから、隣にビッグネームがいたりすると悲惨です。一長一短あるでしょうね。

 私の場合は手慰みと現実逃避と勉強を兼ねるので、べつに絶対に書籍化を狙ってやろうと意気込んで書くガチ勢ではないのですが、せっかくなら最大限、なんとか読まれる方法論はないものかと、現在ペンネームを含め検討中です。形から入ってしまうのは、ある意味では編集の悪い性癖かもしれませんが。

 こういう研究をしてみると、つくづくエンターテインメントの本質は拡大再生産なのだと痛感します。「拡大再生産」については『私論』でも書いたとおりです。ペンネームもキャラクター造型もシノプシスも、過去の先行作品と無関係ではいられない。それこそ「異世界」は傾向と対策まみれで、記号の集合体みたいなところがあります。


「誰も読んだことのないまったく新しいものを書いてやろう」
 と意気込むその心意気やよし、ではありますが、実際のところはペンネームもキャラクターもシノプシスもなにもかも、拡大再生産と捉えて流れに身を任せるほうがラクですし、多少なりと打率は上がるのだろうと考えています。だからこそ、異世界ものも毛嫌いしているばかりでなく、自ら書いてその流れに飛び込んでみようかと。

 

サポートは本当に励みになります。ありがとうございます。 noteでの感想執筆活動に役立てたいと思います。