丸山穂高氏に国会として下す処分はどれが適当なのか~戦後唯一の参院除名処分の例を添えて~

 お久しぶりです、シタサンです。先日から大きな問題となっている、丸山穂高議員の「戦争」発言。その不当性、議員としての資格のなさに関しての批判は他に譲るとして、ここでは今維新の会や他野党を中心に検討されている「辞職勧告決議」を国会として採決すべきなのか、考えたいと思います。
(長いです、ごめんなさい。忙しかったら目次の最後の章に目を通すだけでもいいです)

1 なぜ辞職勧告は怖いのか

 まず、維新の会が除名した時点で丸山氏は無所属となったわけですが、議員を辞職する気は全くないようで、このまま活動を続行すると宣言、批判にさらされています。こうなると、維新の会としては何も出来ることはなく、あとは大阪19区の有権者の民意によってえらばれた丸山氏の判断次第という状況となっています。
 ただ、身内の維新、マスメディア、ネット上からも辞職を求める声は圧倒的に多く、国会としても何らかの対応をすべきではないか、という意見があります。
 その中で考えられるのが、「辞職勧告」と「除名」です。
 辞職勧告は強制性はなくあくまで勧告であり、除名は強制的に議員の座からひきずりおろすことが出来ます。ただ、除名に関しては院内の秩序を乱した者にしか適用できず、今回の場合それに当てはまるかはなんとも微妙です。(沖北特の委員としての今回のビザなし交流の参加ですので、院内とすることも可能ではないか、という声もあります)
 となると現実的なのが「辞職勧告」ですが、これはこれで問題があります。どういうことかと言えば、過去に犯罪性が疑われるわけではない議員の言動に関して辞職勧告決議が出されたことはなく、これはいわゆる「言論の自由」を脅かすものではないか、またこれをきっかけに特定政党が辞職勧告を連発するのではないか、という懸念があります。

↑これについては丸山氏自体もこのように主張しています。

 そもそも公人に無制限の表現の自由があるのか、という疑問もあるのですが、ここでは本題から逸れるためにおいて置きます。本当に前例がないのか、そして言論の自由が危ぶまれるのか、ということを検証していきたいと思います。

2 小川友三事件 戦後参院唯一の除名処分を振り返る

国会議員には免責特権と呼ばれるものがあり、院内での発言において院外で責任が問われることがない、というものです。なので院内での発言によって訴追されることがない、ということになるので、院内での活動が対象となる除名に逮捕や有罪判決などが原因でなるわけがないというわけです。なので、有罪判決を受けたのに辞職勧告で済んで、別に罪になっていないのに除名となり強制的に議員じゃなくなる、と言う少し不思議な現象が起こることになります。
 では、ここで有罪判決より重い(?)除名処分を受けた例はいったいどんなものなのか見ていきましょう。戦後除名になった議員は衆参一名ずつおり、衆院に関しては共産党の川上貫一氏が議会において社会主義的革命を肯定する発言を行い、それへの陳謝を拒んだため除名となりました。
 そして参院で除名処分となったのは小川友三という方なのですが、この人は予算案の討論で賛否を明らかにせず、議長に促されてようやく「反対」と明言したものの実際は賛成票を投じた意味不明な行動が問題視され、除名となりました。
 確かに意味不明かつ擁護する気もないんですが、どうにもこれで除名は重い気がします。その他にも問題行動が多数あったようですが、

↑詳しくはここを参照

それでも疑問が残ります。なので、ここで当時の審議状況を振り返ってみましょう。

小川氏の奇妙な弁明は丸山氏のツイートと似た匂いを感じ非常に面白いのですが、読んでいると頭がおかしくなってきそうな不思議な文体だったので、興味のある方はリンク先から一連の審議の流れを追ってみてください。(読むのが面倒であれば、目次の3まで飛んでください)


 ここでは、小川氏の除名に関しての懲罰委員会の最後に行われた各委員の討論を前文載せてみます。読んでみてください。

本事犯は、その主義主張の異なつて、そうして人間の感情として行き過ぎがあつたということで、先般参議院、当院におきまして懲罰事犯を惹起したことがあつたのでございまするが、そういつたような通例感情を持つておりまする人間の集団において行われた行過ぎのごとき懲罰事犯とは、凡そ趣きを異にしておるのであります。
 只今院外におきましては、暴力団狩りがございまして、新聞紙等は、善良なる市民生活にだにのごとくくつついて生活をしておるその暴力団の行為を、紙面を通じて書いておるのでございまするが、私達がこの新聞の紙面等を通じて見まする街のだにと言われておりまする暴力団の行為も、小川議員の行為は顔負けするような行為ではなかろうかと思うぐらい、凡そ国会議員にあるまじき行為であると断定して言い過ぎではないと思うのであります。二日間に亘りまして小川議員をこちらに喚問をいたしまして、彼の答弁中にも現れておりまする通り、私達は彼の精神状態を疑うのでございまするが、併し彼の発言中におきまして、青票を投じても白票を投じても自分は殴られる運命にあつたのだということは、みずから自分の不正を物語つておる一つの証拠でございます。新憲法は国会議員の、これは旧憲法時代におきましてもそうでございましたが、国会議員の自由なる意思の表明を保障しておるのであります。それにも拘わらず、而も新憲法に基いて民主国家建設のために国会の席を占めておりまするところの議員が、この精神に基いて立法の最高機関としての職責を果さなければならん議員が、いずれの方に片寄るも危害を受ける地位にあつたのだということは、私達の聞き捨てならないことだと思いまして、これは誠に議会史上に残しまするところの一大汚点であると痛恨に堪えない次第でございます。併しながら、そのことを私達は取上げましてそれを究明しようといたしまするには、懲罰事犯の調査の外でありますからして、そのことは又他の機関におきまして適当に調査を願うといたしまして、それはいずれであろうといたしましても、小川君のやりましたるところの行為は、これは天人共に許さざるところの行為であると私は断定して憚らないのであります。苟くも国会に席を持つ者は、議会政治が何であるかということぐらいの基本的なことは勉強もし、基本的な行動を誤らないで、而もそれから深い專門的な知識に入らなければならないということがこれ常識でございます。例えば、日本の刑法におきましては光を独占する者、或いは空気を独占する者は刑罰に付するというようなことは規定しておりませんが、併しながら光等のごとき、空気等のごときは当然において万人がこれを享有しなければならないということが大常識である、人類が生きるために空気を独占しても、独占する者に対して刑罰が規定されていないのであります。從いまして、それと同様に、議会政治を行わんとしまする者は先ずデモクラシーの基本的な行為を誤つてはいけないということは、これは大原則でございます。小川君のやりましたところの行為というものは、このデモクラシーの大原則を踏みにじつておるのでございますからして、これは罪万死に値すると私は断定して憚らないと思つております。そういつたような論拠からいたしまして、私は小川君を有罪にすべきである、かように確信をしておりまするし、そういつたような立場におきまして意見を申上げておるような次第でございます。
 そこで有罪であるということを私は只今申上げましたが、その有罪は只今委員長から四つの項目を示されてございまするが、私は小川議員に対しましては襟を正して国民に謝罪をするという意味におきまして、極刑(筆者注=除名のこと)を以て臨むべきものであるという考え方を持つております。願わくば他の委員諸君におかれましても私と同様な御意見を以ちまして全会一致を以て、議院の品位を高める意味におきましても、この小川議員に対しては断乎たる措置に出られることを切望いたしまして、私の討論を終ります。

  私は民主党を代表いたしまして、本懲罰事犯に対しまして、小川君を国会法第百二十二條の四によつて、除名すべきものであるということを申上げたいと思うのであります。議長の宣告によりまして懲罰事犯の内容は明瞭になつておるのであります。更にこれに加うるに、議院運営委員会の総意によつて、小川君があの醜態を演ずるに至りました内面の調査を要望せられておつたのでありますが、私共は、この点に深く留意いたしまして、あらゆる角度から事犯の調査に努力いたしたのでありますが、残念ながら短時日の間にその真相を究明することができなかつたのであります。これは甚だ後味の惡いものが残るのでありまするが、いずれ他日他の方法によつて、或いは他の機関によつて、これが明確にせらるる時があろうかと思います。そこで私共は、この委員会においてはこの程度において質疑を打切り討論採決すべきものと考えて賛成をいたした次第であります。表面に現れました事犯は、本会議におけるところの小川君の行動によつて多く説明を加えるところはないのであります。これだけの本会議の小川君の問題が、直ちに私共が主張いたしておりまするような除名に価するものであるか、ということはこれは愼重に考えなければならん。議員の職を奪うことであり、小川君と雖も国民の投票によつて、国民の代表として国会に出ておられるのであります。この大事な職責を奪い、議席を奪うということにつきましては、私共あらゆる方面から愼重なる調査研究を進めなければならないと考えるのであります。そこで私はいろいろの方面から考えたのでありまするが、小川君につきましては、過去三ヶ年に近い間の政治行動、議員生活においてあらゆる醜聞と惡事とを振撒かれておつて、議院の面目保持の上に大きなる支障を來たしておるということは、これは何人も認めるところである。私は今回の問題に加うるに、小川君が過去におけるいろいろの問題を加味してこれを考えることが相当ではないかと思うのであります。更に又小川君は、本件を捲き起しましてから、どういう態度であつたか。委員会に二日出ましたが、何ら反省の色もなく、みずから戒めておるような状況も見受けられんのであります。全く申しますことは支離滅裂であり、でたらめである。何らの改悛の情も見ることができなかつたということは、私共の甚だ遺憾とするところであります。これらのことを考えますると情状においても同情をすべき余地は非常に少い。この際私は、個人の情においては三年の間お互いに公私の間相知るところも多かつた、多少の感慨なきにあらずでありまするが、政治の浄化のため、議院の名誉を保持するため、断乎としてこの際小川君を除名することが私共の與えられたる職責を全うする所以ではなかろうかと考えて、以上の如き意見を申上げた次第であります。ただこれに私は付加えて申上げて置きたいことは、この三カ年の間に我が参議院においては二つの懲罰事犯を出しておる。先には国会の議場において問題を起しました二、三の人が懲罰に付せられ、更に又今回小川君が懲罰事犯にせられたということは、決して私は参議院の名誉ではないと考える。私はこの懲罰事犯というものも、一般の刑事問題と等しく、いわゆる一般の輿望ということに重きを置いて考えなければならんのであります。お互いに自粛自戒をして、再びかくの如き問題が起らないということを念願する意味においても、私はお互いに反省するところがなければならんのではないかと考えるのであります。
 以上簡單でありまするが。私共の意見を申上げて、小川君を除名に付するという強い意思表示をいたす次第であります。

私も遺憾ながら、前二名の委員の仰せられた結論、即ち除名に賛成せざるを得ないのであります。
 本会議の壇上、これは議員の生命であり議会の生命であると言つてもよろしうございましよう。その壇上において、天下に約束いたしましたことを即刻飜えし恬として恥じないということは、即ち国民を瞞着いたし、議院の名誉と権威を傷つけたものでございまして、苟くも政治道徳の上から言つて許さるべきものではありません。議員としての自殺行爲であると私考えるのであります。日本の政治道徳がまだまだ先進諸國の程度に行つておりませんことは、これは止むを得ない点がございまするが、併しながら今回の事犯のようなことは過去にも聞かず、ましてや將來も決して起り能わざることであると存ずるのであります。前之園委員からも申されたように情において忍びざるものあり、又その議員を選出いたしましたる選挙民に対しましては全くお氣の毒であるのでありまするが、苟くも除名という制度がある限り、これ以上の事犯を考えることができない。除名亦止むを得ないと言わざるを得ないと思うのであります。米国におきましては常任委員会といたしまして懲罰委員会というものがないそうであります。日本に常設の懲罰委員会があるということを聽いて、向うの議員連はびつくりいたしておるそうであります。全く恥かしいことでございまするが、一時も早く常設の懲罰委員会のごときは、この日本の国会制度の上からは抹殺いたしたいと思うのであります。アメリカにおいてはずつと昔のことでございましよう、今の議員の記憶に残らないずつと昔のことでございましようが、除名という案件があつたことが記録上証明されておるのであります。民主政治の進歩の過程において、除名が必要であるということも、これ亦止むを得ないことであつて一日も早くこの除名制度が必要のない事態にいたしたいと私は考えるのであります。
 この際附け加えまして申して置かなければならんことがあるのであります。緑風会におきましては、今までの小川氏の行動、人格というものを考えてなら別だが、この事犯だけでは除名というのは少し重いのではないかという意見の方が相当数おられるのであります。勿論尊敬すべき方々なのでありまして、その御意見も、その御意見としての根拠があるものと私は存ずるのでありますが、併しながら懲罰委員たる私は、その論拠を伺つても到底納得できないのは、これは止むを得ないことでございます。私はやはり私の信念に從つて除名ということに賛成さして頂くものであります。

私は緑風会を代表してではなく、ただ一議員の小杉イ子として除名に賛成せざるを得ないものであります。理由といたしましては、数名の方々が申されたことと全く同感でございます。私が最も痛感していることは、国事国政を司る者が虚僞を軽々しく言つたり、虚僞な行いをするということは、今後も国政上このような事件を起されることになるという予言をできると私は思います。そうして最もこれは国政に対して大きな損害となり、危險となり、目の前近くは議事の進行を妨げることも甚だしいものと思います。それで除名ということは小川氏の身にとつては却て仕合せではないかと思う程でございます。重ねて除名に賛成申上げます。

(ちなみに懲罰委員会では全会一致で除名に賛成となりました)

 3 悪しき前例を作った小川議員の除名

これらの賛成意見をまとめると、除名の理由は

民主主義の原則を踏みにじった

この行動に至った理由はよく分からなかったけど、過去数年の言動も含めて考えるべきで、加えて反省の念もない

議会の名誉と権威を傷つけた

これからこういう事件を起こさないようにするため

となります。

 これ、怖くないですか?

 この件とは関係ない過去の言動も考慮に含め、この行動に至った原因も分からず、その他の理由も抽象的で他の件にいくらでもあてはめられるようなもので除名処分を下しているのです。(この件に関しては)変な行動をしただけで民意を得た議員から地位を奪ったのです。確かに理解しがたい奇行ではありますが、これがのちの時代の除名の基準になると考えると、その時の嫌悪感情だけで除名させるべきではなかったのではないでしょうか。

4 まとめ 丸山氏に国会はどのようにすればいい?

 これは先例となるので、これで除名処分となるのなら、丸山氏の行動も完全に院外の行動といいきれないことも含め辞職勧告にあてはまるものになるでしょう。既に先例がありますし、その先例で示された基準に丸山氏の言動は見事に当てはまります。過去の問題行動もばっちりです。
 もちろん除名と辞職勧告、衆院と参院の違いはあります。ですが、議員を言動によって懲罰する時の先例に小川事件はなるのではないかと考えます。

 そして、丸山氏が予告している委員会等での弁明時の態度次第では「除名」まであり得る状況です。なにより前例がここまで曖昧なので、やろうと思えばいくらでも除名できてしまうでしょう。それこそ強行採決のように。

 だけど、それでいいのでしょうか? これをきっかけに院内の名誉を傷つけたという曖昧な理由でそれこそ内閣不信任案のような手軽さで嫌いな議員に除名や辞職勧告決議を出させるきっかけになる可能性もあります。もう既に危険な前例がある以上、国会の秩序が崩れつつある今では悪用があり得る状況です。ただ、本人が反省の態度を見せていないことに加え、国民世論、解散や参院選を見据えた政党間の打算、ロシアへの対応、国会としての誠意、など様々なことを考えると何らかの決議は必要となると思います。

 だからこそ、私は強制力のない辞職勧告決議に留めておくべきだと考えます。辞職勧告に関しては今後こういうことが起こった場合への「辞職勧告決議としての」先例を作っておくことは無駄ではないと思いますし、元所属会派が主導する形であれば悪しき例にはならないでしょう。こういう議員は今後増えるでしょうから、国会としても毅然とした態度を示すべきです。
 ただ、既に危ない前例がある除名に関しては、今後基本的に行うべきではないと思っています。前例の根拠があいまい過ぎて、いくらでも悪用できるからです。これはパンドラの箱に閉まっておくべきです。そうしないと、嫌いな野党議員を次々除名があり得てしまいます。それくらい危ない先例なのです。
 国会の矜持として、除名はすべきではないと思います。

5 丸山穂高氏に伝えたいこと

そもそも丸山氏が素直にやめればこんなことを考える必要もないのです。氏への処分はどんな形であれ国会の歴史に刻まれるものになるでしょう。それは勿論負の意味でです。

言いたいことは山ほどあります。ですがひとつだけにしときます。

国会に少しでも愛着があるなら今すぐやめて下さい。あなたがずっと活躍してきた場所をこれ以上土足で踏みにじるのはやめて下さい。維新に恩義があるのなら辞職してください。大阪をよくしようと必死に動いている維新支持者の皆さんへの裏切りでしかありません。あなたの馬鹿な行動とつまらないプライドで大阪の維新関係者の皆さんの頑張りに泥が塗られようとしているのですよ。

 国会も維新も、あなたに無茶苦茶にされるほどひどいことはしてません。あなただけです、ひどいのは。

 あなたに良識が少しでも残っていることを期待しています。

最後に、丸山氏に 小川事件の賛成討論の一節をおくります。


米国におきましては常任委員会といたしまして懲罰委員会というものがないそうであります。日本に常設の懲罰委員会があるということを聽いて、向うの議員連はびつくりいたしておるそうであります。全く恥かしいことでございまするが、一時も早く常設の懲罰委員会のごときは、この日本の国会制度の上からは抹殺いたしたいと思うのであります

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