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折り紙作品「マタマタ」について

今回は「マタマタ」という作品についてお話したいと思います。

はじめに 創作の動機

今回の創作は、購入した紙を使いたい!という意欲の元始まりました。モチーフがなにか無いかなぁと考えていたところ、twitterにダイナミックな捕食をする亀の動画が流れてきたのです。
僕にとってマタマタは既知の存在でした。枯れ葉に擬態する扁平で大きな頭部、川底に溶け込むゴツゴツした甲羅。非常にユニークな形態を持つこの種は、どこか可愛らしさを感じさせます。また、その独特な形態ゆえに、創作するにおいて有り難い生物でもあります。
生物の創作をするにあたって問題になるのが、その生物の特徴です。例えば、スイギュウの巨大なツノなどです。それらを表現できれば、鑑賞する際にクリティカルな印象を与えることができるのですが、それは特徴が少ない動物の創作の難しさも示唆します。この意味で、マタマタは創作に適した動物でした。

展開図

展開図はこんな感じです。対角線に沿って、同様の構造が鎖状に繋がっているのが分かります。

創作過程

頭部の試作

マタマタの最大の特徴は、ユニークな頭部です。突き出した鼻、小さな目、横に張り出した後頭部。それらを表せば、とりあえずは「マタマタである」と主張できそうです。僕はこの造形に見覚えがありました。

これは、折り紙において、角度系作品を中心にかなり一般的に見られる構造です。僕は、この展開図での左上のカドを鼻に。中心を後頭部にすれば頭ができそうだと考えました。

これが最初の試作です。突き出した鼻、張り出した後頭部。一見完璧に見えますが、この試作は重大な欠点を抱えています。それが、接続の難しさです。
折り紙の世界には、一値性(一軸性)という概念があります。ざっくり言うと、折り畳んだ際に、紙の縁が一直線に集まる性質です。代表的なものは、魚の基本形でしょう。

魚の基本形の折りたたみ予測。裏が出ず、縁が一直線に集まっている。

この性質を持つ構造は、おおよそ一概に接続が非常に容易です。最初に挙げた見覚えのある構造も、少しいじれば一軸性を持つために多用されます。しかしながら、件の試作は一軸性を持ちませんでした。よって、一軸性を持つために、簡略化する必要があります。

これが第2試作です。このパーツは、接続に関連する場所はすべて一軸性を持っています。これで良いでしょう。

甲羅の試作

マタマタのもう一つの大きな特徴として、ゴツゴツの甲羅が挙げられます。折り紙作品の亀の甲羅は、もはや一般的にテッセレーション(空間充填)によって表現されます。代表例としては、さくB氏の作品や神谷哲史氏の作品が挙げられるでしょう。しかし、テッセレーションは(その殆どが)蛇腹によって行われます、僕は蛇腹が苦手ですし、頭の構造はどちらかというと角度系に近かったので、今回はそのテッセレーションはパスです。

閑話 折り紙の魅力ってなんだろう?

折り紙的な造形の魅力ってなんでしょうか?リアリティにおいて、折り紙という強い制限を受ける創作では、彫像や3Dモデリングに対抗するのは厳しいでしょう。
折り紙の特徴は、その再現性にあると思っています。何も作品という単位だけの話ではありません。折り紙においては、同様の構造を幾度も繰り返して、パターン化した模様や構造を折りだすことがしばしばあります。神谷氏の龍神や、ベス・ジョンソン氏の羊などです。シンプルなパターンなら、工具やモデリングソフトのブラシ機能で何とかなるでしょう。しかし折り紙では、所謂「平織り」のような技法のように複雑なパターンでも、一切の工具無しに作り出せるという特徴があります。これは非常に魅力的に思います。

閑話休題 甲羅の検討

せっかく創作するならば、折り紙の良さを最大限活かした創作をしたいものです。僕にとって興味深い一つの考えに、角度系空間充填というものがあります。一般にカドを折りだすことを目的とした角度系でもって、蛇腹が主流の空間充填を行えば、面白いのではないか?という発想です。それを目標に、一つの案がありました。

この展開図は、頭で用いた構造を繋げたものです。この通り、接続に鶴や魚を用いれば、非常に簡単に接続することができます。これを今回は、甲羅に用いようと考えたわけです。

3つ構造を繋げたところ。どうやら面白そうな造形になりました。これはいいぞ!

頭−甲羅の接続

頭と甲羅の接続に当たって、決めることがありました。頭と甲羅の比率です。とりあえずGoogle画像検索でマタマタの頭と首、甲羅のおおよその比率を取ります。それから展開図上で色々操作を行い、折りやすさと見た目の兼ね合いを試みます。

結果的に、比率が全くわからなくなるのです。なんでぇ?
こんな時は、頑張って近似を探します。勘と根性です。

色々線を引いてみて、6等分で妥協しようということになります。1+√2でも良かったかもしれませんが。もとより厳密な構造ではないので、まぁ良いでしょう。

5等分と勘違いしていた試作。

これにて創作は終了です。

本折り

今回は使いたい紙がありました。玉虫紙という冒頭でも触れた紙です。だから、紙選びに悩む心配はありませんでした。

本折りの際に使った小技なのですが、今回のマタマタは、首が完全立体となります。そこで首の下に糊代を設けることで、安定的な立体化を実現しています。少しでも蛇腹っぽい構造があれば実現できる技です。

ギャラリー

この作品、実は鼻の穴があります。写真3枚目がわかりやすいです。最もシンプルなカドの変形でも、とても面白い造形が得られるのですが、流石にこれは細かすぎた感もありますね

おわりに 折り紙の作品について

今回は、マタマタの創作過程を記事にしつつ、少し折り紙の魅力を考えました。

これは僕個人の持論なのですが、現実性を極端に求めた「それ」は、どこまで芸術、あるいは創作となりうるのだろうか?という命題があります。もちろん、生物を精密に描いた絵画に美しさを感じることはありますが、その美しさは絵画の美しさなのでしょうか?ドイツの哲学者ショーペンハウエルは、芸術は芸術家がイデアを描いたものであり、一般人は天才の作品を介してイデアを見る、としました。この観点からすれば、イデア≠現実であり、現実を描いた芸術は無意味であると言えます。当然彼は古い時代の人間であり、後にはギュスターヴ・クールベを筆頭とする写実主義が現れますので、彼の説いたことが完全なる真実であるとは露ほども思いません。しかし、写実主義であっても、当時の社会の鍍金を剥がす、という意味でショーペンハウエルの言説に従うと考えれば、無下にできるものでも無い事は確かでしょう。

さて、なんだかとても長い記事になった気がします。稚拙な文章ですが、ここまで読んでいただき、誠に有難うございます。この記事が少しでもなにかの役に立てば、僕にとっては最上の喜びでございます。

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