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アバレザル

「クローン技術の発展が永久の富を産む」と宣言した大統領は、自らをクローン培養し全世界に派遣。人的資源の充実、食糧危機の根絶に身を以て貢献し、六大陸を瞬く間に統一せしめた。世界国家ガイコクの誕生である。

労働力の5割、軍事力の8割を養殖大統領が担い、食用大統領肉のハンバーガーは今や国民食である。職務を捨てて市井に紛れた大統領も多く現れ、時と共に一般国民と大統領の区別は曖昧となっていった。

今日も大統領の血肉は人々を巡り、世界を回している。

青年は大統領の亡骸を貪りながら、その仕組みをぼんやりと実感していた。その異様な食欲は大柄な大統領を余さず飲み込んでいく。美味だが、まだ空腹は満たされていない。

「オウ、シット」
暗い路地の向こうから声。警官が銃を構えている。
「なんでこの平和な国にゾンビーがいやがる?」

虚ろな瞳、血の巡らぬ青白い肉体。青年の腹がぐうと鳴り、警官は目の前の異人をひどく恐れた。

【続く】

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