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【オカルト】Jasper, Canada【旅記】

私は何でもかんでもオカルトやスピリチュアルに結びつける人が苦手だ。

あなたの周りにもいないだろうか?
細長いだけの雲を見て「私には竜神がついている!」と言い張る人。
不倫の理由を「亡くなった義父が私のこと嫌いだったのよね……不倫相手と私を引き合わせたのは義父の仕業に違いない」と故人になすりつける人。
真夏の昼間、炎天下の中、山の上の神社に行き体調が急に悪くなって倒れた挙句「神社の神様が僕に与えた試練だ」と主張する熱中症患者。

それまでどんなに仲良くしていたとしても、そんなことを言われたら距離を置きたくなる(ちなみに上記の人達も元々親しかった。機会があれば一人ずつ詳しく書きたい)。

しかし一度だけ、オカルト的な、スピリチュアル的な出来事がこの身に起こった。それ以来ちょっとだけ盲信オカルト民に対して寛容になった。

▽ジャスパーの奇跡

数年前、まだ私が人身売買の片棒を担いでいた頃。

年末の休みにカナダのジャスパーに住む友人を訪ねることにした。関空からエドモントンまで飛行機で(バンクーバーで乗り継ぎ9時間)、エドモントンから長距離バスで5時間かけてやっとジャスパー。

そんな感じの旅だったので、約1週間しかない休みのうち、ジャスパーに滞在できたのはわずか4日だった。

4日のうち2日はスキーやスケート、残りの2日は町を散策するのに費やした。

ロッキー山脈に囲まれたジャスパーはとても綺麗で、どんなに適当にシャッターを切ってもすごくいい写真が撮れた。


また、自然が豊かなので野生動物を見る機会もたくさんあった。山に登った時にはビッグホーンシープに遭ったし、珍しい鳥にも遭えた。

だが、エルク(ヘラジカ)だけには一度も遭遇できなかった。

友人は「どこにでもいる。街中にもいる。見ても大声出さないこと」なんて言っていたのに、私の滞在中は一度も姿を現さなかった。

スキーの帰りにケンタッキーに寄った日なんて、店の目の前にエルクの新しい糞が落ちていたのに、遠目にすら見ることができなかった。きっと近くにいたはずなのに。

私は帰国する日の朝、

エルクを見るまで日本に帰らない

と駄々をこねた。

友人は呆れながらも「大雪で空港までの高速バスが運休になったから戻れませーんて連絡したら?」と笑っていた。もちろん冗談だったのだが、私は上司宛にメールを作成した。

というのも、毎年年明け最初の出勤日に社員総出で初詣をしていたからだ。社長命令で、その日は1日初詣に始まり験担ぎのための大掃除で終わる。何とも無駄な出勤日である。そもそも、年1回の参拝でお前の業が消えるわけじゃねえんだぞ、と社長に対して常々考えていた。

そんな無駄なことに1日使うならジャスパーでぼんやりエルクを待つ方が有意義だと思ったのだ。

が、結局そのメールは下書きに入れ、私は渋々空港までの長距離バスに乗り込んだのだった……。

▽言霊

帰りの飛行機のスケジュールは行きと違ってぎりぎりだった。乗り継ぎの時間も2時間程。だからバスでゆっくり寝ようと思い目を閉じた。

どれくらい走っただろうか、消えていた車内の明かりがついて、乗客たちが騒ぎ始めてから目が覚めた。

隣に座っていた人が「エルク!」と叫んでいるではないか。

慌てて窓の外を見ると、エルクが暗闇の中へと去って行くところだった。
念願のエルク。
見えたのはお尻だけだった……。

どうやら、私が寝ている間にエルクがバスにぶつかったらしい。ものすごい衝撃だったそうだが、気が付かなかった。

それから運転手さんが外に出て車体を確認、何やら修理の人を呼ぶらしい。前に座っていた人達が「これはもう運転できないから新しいバスが来るはず」と言っていたのでちょっとだけ荷物を片付けたりした。

……1時間ほど待っていた気がする。

修理の人は来ないし新しいバスも来ない。

うとうとし始めて、気がついたらエドモントンに着いていた。

どうやらバスの乗り換えはしなかったようだ。

やれやれ、と時計を見ると何とすでに飛行機の搭乗時間1時間前だった。

エドモントンのバスターミナルから空港まで、どんなに急いでも間に合わない。諦めて飛行機のキャンセル手続きと別の便の予約をしてから、下書きにしまっておいた上司宛のメールを軽く手直しして送った。

斯くして、私の「エルクを見るまで日本に帰らない」という言葉は現実のものとなった。

言霊ってあるんだなぁと実感した出来事である。

▽ジャスパーのお土産

熊がいる地域では定番のお土産。

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