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事故物件の寮生



「寝ている時に、首を絞められました」



 ある日そんな相談を受けた。
 寮に住んでいるのは彼一人だけ。

「最近仕事忙しいから疲れてるんじゃない?」と流した。
 彼の仕事はとび職である。朝五時に出発し、現場に向かう。帰宅の時間もまちまちで、その日の内に帰れない事もある。忙しい肉体労働者なのだ。精神に不具合が発生する事もあるだろう。
 彼の雇用主に健康診断やカウンセリングについて打診して、その話は終わった。

 そして半年後、彼は国に帰り、新たな労働者が来た。

「寝ている時に、首を絞められました」

 君もか。

 更に話を聞くと、部屋にいると視線を感じたり、夜中にベランダの窓がノックされたりするとのこと。
 雇用主には既に相談していたらしく、盛り塩をしてみたのだという。
 寮に行ってみると、盛り塩が器の中でぐずぐずに溶けていた。毎日塩を新しくしているらしいのだが、溶けてしまうのだそうだ。

 これはもしかすると心霊現象かもしれない。もしできる事ならお祓いをしてもらうよう雇用主に薦めた。霊には効かないかもしれないけれど労働者の気休めにはなるから、と。

 数週間後、労働者の彼から写真つきのメールをもらった。

「社長が神社で御守りを買ってきてくれました」

 添付画像を開くと、そこには玄関先に飾られた破魔矢が写っていた。破魔矢からぶらさがっていた木札には「開運」と書かれていた。
 勿論そんな物では霊を祓えるわけもなく、それ以降も霊障は続いた。

 時に、外国人労働者管理には霊を祓う能力が必要である。

 ……かもしれない。

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