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【拡散希望】人を探しています。

本記事は「インドネシア旅記③」にあたりますが、を読んでいなくても問題ありません(もちろん読んでくだされば嬉しいです……!)。

インドネシア旅記は実はこの記事のために書き始めたものでした。本当はジャカルタでのエピソードやコモドドラゴンツアーのエピソードなど、他にもまだまだたくさんありますが、この話を先に書かせてください。

そして、できればあなたのお力を貸してください。


前回までのあらすじ・・・私は中国の職場で共に働くヨンア(韓国人)と一緒に元同僚のシャンティ(インドネシア人)に会うためジャカルタを訪れていた。無事にシャンティとの再会を果たし、私とヨンアはバリ島へと出発した。


▽バリ島でサーフィン


インドネシア滞在3日目。私とヨンアはバリ島にいた。

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ここではスムーズにタクシーをつかまえ、ホテルへ向かう。私たちが選んだのはサヌールビーチから徒歩1分という好立地リゾートホテルだった。

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バリ島に来た目的は2つ、1つはコモド島ツアーに参加すること、もう1つはサーフィンだ。バリ島で一番有名なのはおそらくクタビーチだが、インドネシア人のシャンティが「クタは人が多くてビーチが汚い」と言うのでサヌールに決めた次第である。

早速ホテルのフロントで「この辺でサーフィン教えてくれるところない?」と聞いてみる。

ビーチ沿いを歩いて行くと何軒もサーフショップがあるから、きちんとライセンスがあって高すぎない値段のところを探してみて

どうやら予約も何もいらないらしい。とにかく行って話して来いと。そういうわけなのでホテルを出てビーチ沿いを歩く。

まず見つけた一軒目。具志堅さんみたいなおじさんが1人でやっているお店だった。「君たち初心者?いいよ、今は誰もお客さんいないから3時間教えてあげる!料金は1人300ね!」

300。

1ルピアは0.007円(2020年4月30日現在)、300ルピアだと2円ほど。

なのでもちろんドル。日本円だと3万ちょっと。

ちょっとぼったくり価格。

「他にも見てみたいから、またあとで~」とそそくさとその場を後にする。

それからさらに歩くこと数分。大きなウミガメやマンタの写真が目を引くショップ。ダイビングやスノーケリングツアーのお店のようだったが、隣にたくさんサーフボードが立てかけてある。「ここもサーフショップかな?」ヨンアと話していると奥からドレッドヘアの男の人が出て来た。

サーフィンしたいの?


これがランガとの出会いだった。



▽海の男ランガ


年の頃は40代、真っ黒に日焼けしていて(少しお腹は出ているものの)健康的な、笑顔が可愛い人。それがランガの第一印象だった。

値段はというと、さっきの具志堅さんのお店の4分の1ほど。他にインストラクターがいるので私とヨンアそれぞれ一人ずつ教えてくれるという。おまけに時間は無制限で、シャワー施設もある!私たちは迷わずここに決めた。

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動物に寛容なところもまた良かった。ちなみにジャカルタは猫が多かったがバリ島は犬が多い。

もう一人のインストラクターも合流し、簡単に説明。主に波に乗ってからの話。

波に乗ったら体の重心を下に、膝をちょっと曲げたまま立つんだよ

そんな簡単に言われても……。

少し不安なまま海へ。

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この時、私もヨンアも携帯を防水ケースに入れて持っていたのだが、ランガが「きっと写真撮る余裕ないだろうから、僕が撮ってあげる」というので、私の携帯を彼に預けることにした。彼は「Galaxy!いい携帯!」と言ってケースのストラップを首にかけていた。


さてサーフィンだが、いざやってみると「重心を下に」というアドバイスほど的確なものはないと実感した。アドバイス通りに動けるかは別として。
しかし時間が経ち、ボードから落ちることへの恐怖心が薄れた頃、少しだけだが立てるようになった。

その間ランガは波の状態を見たり、私たちの写真を撮ってくれたりしていた。

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ところが何度目かの大きな波は、防水ケースのストラップをちぎって携帯を攫って行った。すぐそれに気がついたランガが慌てて潜る。ところが見つからない。

その後はサーフィンどころではなく、4人全員で日が沈むまで探した。ランガはお店からスノーケルまで持って来て必死に探してくれた。しかしそれでも見つからなかった。

本当にごめんね……これからサーファー仲間を呼んで船を出してもらう。絶対に見つけるから

すごく申し訳なさそうな顔のランガ。

私もヨンアも彼を責める気にはならなかった。彼はカメラマンではなく、サーフィンのインストラクターなのだ。私たちは写真なんかではなくサーフィンに集中すべきだった。だからあなたのせいじゃない、携帯はまた日本に帰って新しいのを買うから。
そう言ってもランガは「ごめんね、必ず見つけるから」と繰り返すだけ。

彼にホテルの名前をとりあえず教えて、私たちは部屋へと戻った。

何だかヨンアも元気がない。
そりゃそうだ。友達の携帯がなくなったのに楽しくできるわけがない。私は「携帯の保険に入ってるから大丈夫だよー!」と明るく振舞った。本当は入ってないけど。
誰のせいでもない。
ただ携帯を持って行ったことをすごく後悔した。


それからしばらく部屋でだらだらしていると、フロントから「ロビーにお客さんが来ている」と電話があった。
ランガだ。
もしかしたら携帯が見つかったのかも!
私とヨンアは足早にロビーへと向かった。


……が、ランガはしょんぼりしていた。
遠目にもその背中が落ち込んでいるのが分かった。

近づくとランガが振り返る。今にも泣きそうな顔だった。

ごめんね、見つからなかった。でも明日の朝、陽が登りきる前にまた探すから。今は真っ暗だけど、夜明けの海なら海底が見やすい。だから、きっと見つけるから


わざわざそれを伝えるためだけにホテルに来た彼を見て胸が痛くなった。



▽果たされない約束


そして、翌日。
その日私たちはコモド島ツアーに参加するため、バリ島を早朝5時に発った。
間近で見たコモドオオトカゲやスノーケリングスポットでの恐怖体験などはまた別の機会に。

ツアーでは一生忘れられないような経験をしたが、頭のどこかでずっと「携帯見つかってたらいいなぁ」と考えてもいた。
見つかっていたらもちろん嬉しい。しかしそれ以上に、ランガが申し訳ない気持ちから解放されることの方が大事だった。


そして午後4時頃ホテルへと戻る。
ルームキーを受け取るためフロントへ行くと、スタッフが私たちに「このままロビーで少し待っていてほしい」と言い、どこかに電話をかけ始めた。

待つこと約10分。

ランガが来た。


見つけたよ!ほら!


高く掲げられた私の携帯。


約束通り、夜明け前の海に潜って探してくれたそうだ。2時間もかけて見つけたそれを早く届けたくて1度ホテルに来てくれたらしいが、その頃私たちはすでにコモド島へと向かっていた。
一刻も早く私に知らせたかった彼はFacebookとInstagramで検索したのだという。

"Japanese girl Shiso"

そのワードでは私は絶対に見つからないし、見つかったとしても携帯がないので彼からのメッセージを読む術がない。
彼も後になってそのことに気がついたと言っていた。それほどまでに必死だったのだろう。

それで……明日マンタウォッチングツアーの日なんだけど、まだ空きがあるからどうかな?2人で参加しない?

そう、ランガのお店はサーフィンではなくスノーケリングやダイビングが専門なのだ。
そしてこの提案はきっとランガなりのお詫びだろう。

実は昨日もホテルまで来た際に「晩ご飯をご馳走したい」「どこか行きたいところがあれば車で送り迎えする」「お土産で欲しいものはないか?」等々、たくさんの申し出をしてくれていた。私とヨンアは、誰の責任でもないからそんなことしなくていいと断った。

だが、マンタツアーには参加させてもらうことにした。ただしお詫びとして受け取るのではない。きちんとツアー代金を払うことが条件だ。携帯だって無事に戻ってきたのだから(電池が切れていただけで中のデータも何もかも全て無傷で戻ってきた)。

最初はお金を受け取るのを渋っていたようだが、最終的に「お友達割引」適用後の料金を受け取ってくれた。


そうしてもう1日、ランガと過ごすことになった。
ツアーには私とヨンアの他に15人ほどの参加者がいたのだが、彼はずっと私たちの横にいてあれこれと世話を焼いてくれた。
4ヶ所のスノーケリングスポットを廻るツアーは3時間にも及んだ。昨日のコモド島ツアーでも散々船に揺られていたため少し疲れていたが、それ以上に楽しかった。


最後は皆でランチを食べてツアー終了。
その時も彼は私とヨンアのテーブルに来て、色々な話をした。

日本人観光客が多いから日本語を勉強していること、忙しくて途中でやめてしまったけど本当はまだ勉強したいと思っていること、そしていつか日本に旅行したいこと。

「絶対日本に来てよ」

そう言うと、

またバリに来る?

とランガは言った。

絶対来る。またヨンアと来るかもしれないし、ハネムーンかもしれない。一人旅で来る可能性だってある。誰と来るか分からないけど、またランガとサーフィンがしたい。


するとランガは携帯を取り出し、Facebookのアプリを開いて見せた。
検索バーにはまだ"Japanese girl Shiso"の文字が残っている。私はそれを消してフルネームを入力した。検索結果の4番目か5番目辺りに私がいた。
ランガはその場で友達申請を送ってくれた。

今回はさすがに私もヨンアも携帯はしっかりホテルに置いてきていたので、ホテルに戻ったら友達追加するね!と約束し別れた。

ところが、私の携帯は全く充電されていなかった。
防水ケースの僅かな隙間から水が入り、それが充電ポートにまで入ってしまっていた。どうやらこうなってしまうとワイヤレス充電器でしか充電できなくなるようだ。
携帯が使えないのは不便だが、幸い帰国が次の日だったので我慢することに。



そして帰国後、しっかり充電して数日ぶりにFacebookにログインする。

……ない。

あの日目の前でランガが送ってくれた友達申請が来ていない。


そして気がつく。

友達申請を「友達の友達のみ受け付ける」設定にしていたことに。
つまり私と共通の友達がFacebook上にいないランガからの申請は私には届かないのだ。
一時期怪しげなビジネスをしている見知らぬ人たちからの申請が相次いだ。それにうんざりして設定を変えたのだった。今回の件は完全に自業自得なのだが、その見知らぬ人たちへの怒りが静かに湧いた。


怒っていてもどうしようもないので、今度は私がランガを検索した。
ランガ、サヌール ランガ、サーフィン サヌール ビーチ ランガ……思いつく限りの単語を並べて検索したが見つからない。
ランガという名前はインドネシアでは一般的らしく、膨大な数の検索結果からは彼を探し出せなかった。
プロフィール画像はざっと見たが、ランガはその中の誰でもなかった。白ブリーフ1枚で微笑む筋肉男がランガなわけない(検索結果の1番上がこれだった)。

ランガとの繋がりは断たれてしまった。

これが、今年1月の話。

その頃は悲しい気持ちになったものの、「まぁいつかまたバリに行ったら訪ねてみよう」と楽観的に捉えていた。

しかし今の状況はどうだ。
同じ国に住む身近な人たちにさえいつ会えるか分からなくなってしまった。
毎日のように連絡を取り合うヨンアにすら、もしかしたらもう会えないかもしれない。

「ホテルに戻ったらFacebook追加するね!」
といって別れたきりのランガは今どうしているだろうか。
いつまで経っても追加されないことに傷ついていないだろうか。
それよりも、彼は元気に過ごしているだろうか。
バリ島での感染者数はそれほど多くないけど、仕事は大丈夫なのだろうか。
彼の家族は、友達は、サーファー仲間はみんな無事だろうか。

彼は日本語を勉強していたと言っていたけど、話せる日本語は「かわいいねー」「ちょっといそがしいねー」「あなたにほんじん?」「わたしはランガです」大体この程度。このnoteが彼に届くとは思っていない。

ただ、ランガを知っている誰かには届きますように、と願っている。
ドレッドヘアで、あまり背は高くなくて、お腹が出ていて、笑顔が可愛いバリ島のランガ。

彼をご存知でしたら「あなたが海の底から携帯を拾ってあげた日本人は元気にやってる。彼女はちょっと抜けた奴で、あなたからの友達申請を受け取れなかった。もう一度申請を送ってあげて、あなたのことを心配している」と伝えて欲しいです。

いや、ちょっと長いかも。

「あなたが海の底から携帯を拾ってあげた日本人にもう一度申請を送ってあげて」

「あなたが海の底から携帯を拾ってあげた日本人はあなたのことを心配している」

……

伝えたいことは色々あるのにどれも違う。

とにかく元気でいて欲しい。
また会いに行くと、もう一度約束をさせて欲しい。

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