睡蓮は艶やかに嗤う(原本版)

 好奇心は猫を殺すとも言うが、どこまで本当の事なのだろうか。日常の延長でしかない単なる好奇心が命の危機にまで発展するなどそうあることだろうか。日常が何時の間にか非日常へと変質している、それは一見楽しげでありながら実のところとてもとても恐ろしい事象なのではないだろうか。

 「この子のエロ画像ください」

 発端は、これだった。投下された画像は……どことなく奇妙なものであった。 可愛らしい少女が微笑んでいる。だが既存の二次元キャラ、または有名人の画像とも違う。イラスト、には違いない。だが背景含め質感等に違和感が付きまとう。一見手描きイラストだが写真を劣化させたような、コラージュと言うべきか?

 「とりあえず画像はいただいた」「コレなんのキャラ?オリジナル?」「画像検索には引っかからないんだが……なんだ?」

スレッドの参加者の誰もが同じように感じたらしく、投稿者へ質問が続いたがそれから回答らしい書き込みは無かった。
 私はとりあえず画像を保存、他のスレッドも眺めつつ、他愛の無いやりとりを続けていた。

 寝落ちしていたらしい。先程の画像が気になり再度確認しようとして…………愕然とした。画像が消えていた。いや、保存したフォルダ諸共消えていたのである。他のフォルダに間違えて移したか?いや違う。OSのアップデート?ならば起動画面に戻っている筈。それとは違う。セキュリティソフトは?異常無し。変なCookieすら踏んでいない。となると?

 私は一つの可能性に思い至りPCをシャットダウン、ルーターのLANケーブルを抜き、携帯端末で無線通信の有無を確認した。良し。ネットワークからは隔離できたと思われる。PCを再起動。有線の外部メモリを接続。私は安堵した。画像が残っている。
 違和感、というのが重要だ。もしくは好奇心だ。「引っかかるもの」は適当に流してはいけない。日頃資料的なものや、こういった違和感を感じた画像は本体とは別に外部に転送する習慣をつけるようにしていたのが幸いした。勿論即隔離状態にするのを忘れない。これで画像そのものがトラップである可能性は消えた。
 そしてまた新たな可能性に気が付いた。ここまでで何時間ロスした?あのスレッドには何人参加していた?画像が消されたのは何を意味する?そもそもあの投稿者が「攻撃」してきたのか?画像を保存したのが実際何人いるか判らないのに?全員に?
 いや、投稿者が攻撃者だなどと何故言い切れる?

 まずは画像の詳細を調べるべきか。背景の建築物なども気になる。「攻撃者」が不特定多数を同時、かつ精緻に監視できるとは思えぬ。それに対して実際攻撃を受けた以上、どこまで侵入、情報を抜いていったか。ひとまずは別の場所でネットワークから隔離されたPC環境を探さなければならぬ。
 私は携帯端末と手持ちの小型メモリに画像をコピーし、手早く身支度を整えると部屋を出た。

【続く】

 

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