デモグラの話はもうやめよう

仕事柄、人の趣味や嗜好について考えることが多い。

誰が?なんで?を頑張って考えることは、役に立つものや大事にしたいと思えるものを生み出していく上で重要だ。

その時に、個人的に気をつけようと思っているのが、いわゆるデモグラフィック情報というやつだ。

デモグラ情報とはつまり、性別、年齢、職業柄、家族構成、等々、人口統計的に収集可能なデータのこと。対して、価値観や行動心理に関わるやや主観的定性的に収集されるデータを、サイコグラフィック情報という。

「さあ、商品のターゲットを考えましょう」という時、「30代のサラリーマン男性で、独身だけど彼女がいて、年収はこのくらいで‥」なんてデモグラから考え出すことがあるけれど、ここまでの情報から、その人の行動特性や趣味嗜好についてわかることはなんにもないんじゃなかろうか。

だから僕はいつも「何が好きな人」とか、「何にお金をかける人」というのをなるべく大事にしようと思っている。特に後者。

何かを書くときも同じで、自分の中の小さな気づきや違和感や、怒りや喜びを出発点にしたいなと思う。糸電話のように誰かの心にぴーんと繋がるものが書けたら、とても嬉しい。

ただ、気を付けたいことは、あらゆるデモグラ情報やジオ情報は、サイコグラフィックデータを形作るための原因になっているということだ。

やや決定論的すぎるかもしれないけれど、個人の趣味嗜好や価値観は、身体的特性と環境特性の掛け算によるところが大きい。

だから、まあ、やっぱり「統計的に」いうと、年収200万の人よりは3000万の人の方が車にかけるお金は多いんだろうし、既婚男性より、独身女性の方がファッションにかけるお金は多かったりはするんだろう。

その、統計の、ヒストグラムを、別次元からスパッと切り裂くような作品を作ってみたいな。

平野啓一郎さんの作品とか、リチャードパワーズさんのオーバーストーリーとか、三島由紀夫の金閣寺とか、宮沢賢治の雨ニモ負ケズとか、名作と呼ばれる作品たちには、そういう意味での切れ味がある。


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