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メル友のアカネちゃん 3

アカネちゃんからのお誘いは青天の霹靂のようにタイラの六畳の子供部屋を駆け回った。というのも、先日金比羅神社の縁日にアカネちゃんを誘ったメールに、なんの返事も無かったからだ。

金比羅神社は鳴海ニュータウンのすぐ近く、鶴浦の港を見下ろす山の上にある。アカネちゃんは市街地に近い大手町に住んでいるから、ここまで来るのは遠かったのかなと、タイラは少し反省していた。

「友達のプレゼント選びたいから、付き合ってもらえない?」

そんな中でこんなメールが飛び込んできたのだから、タイラはもう大喜びだった。特に何度も見返したのは、「付き合って」の5文字。意味が違うことは百も承知ではあるけれど、それでも、やっぱり、勘違いさせたくないならこの言葉は避けるはずだよな、とか、余計なことばかり考えてしまう。

ひとつ懸念があるとすれば、長崎駅のアミュプラザだということだ。さすがは清順の女の子。長崎で一番新しいおしゃれスポットで友達のプレゼントを選ぶらしい。

野球部の友人たちからウワサは聞いていたけれど、タイラはまだアミュプラザには行ったことが無かった。というかそもそも、バスで40分以上かかる長崎駅まで行くのは、家族で出かける用事がある時くらいだった。何を着ていけばいいのか、何を持っていけばいいのか。昼飯は奢った方がいいような、でもそんなお金どこにもない。親にお小遣いをねだるにしても、「何に使うの?」と聞かれたらどうしよう。

そんなことを考え始めたら、タイラは嬉しいはずのお誘いがなんだか億劫になってきて、ベッドへ大の字に寝転んだ。

俺には何も無い、とタイラはいつも思っていた。ピンやケイスケみたいに頭がいいわけでもないし、コウキのように野球ができてモテるわけでも無い。音楽や芸術の才能もまるで無いし、アニメやマンガも別にそんなに好きでは無い。趣味は?なんてもし聞かれても、何も答えられることは無い。体はでかいから一生懸命がんばればそれなりの選手になれるかもしれないけれど、コツコツと努力をするのもなんだかダルい。

そんなやつに彼女なんて、と冷静な頭では思うのだけれど、それでもタイラは自分の本能が熱く求めるものを、どうすることもできなかった。部活は楽しい。何がというわけでは無いけど、毎日バカみたいに大笑いしながら過ごせている。それでも、足りない。ずっと足りない。中学生の頃はこんなことなかったのに、いったい自分はどうしてしまったんだろうと怖くなることもある。

目を閉じてそんなことを考えているうちに、眠気がタイラの全身を満たしていった。コウキにちょっと相談してみよう。そうしよう。何度か心の中でそうつぶやいて、タイラは幸福な眠りに落ちた。

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