左眼の鴉 第一話
あらすじ
神の使いと自称するカラス、ルース。
主である神「オッド」が興味を持った人間の世界に訪れる。
ルースが見た興味深い人間の物語。
「困った人がいたら助けるように」と言われており、ルースが様々な薬を使って人助けするが・・・ルースはどんな人間達を観察するのか。
はじめまして、人間の皆様。
突然ですが、皆様は「ゾディアックリボルバー」という作品をご存じでしょうか?
皆様の世界で非常に御高名な漫画家先生によって描かれた、神々が暦を決めるために歴杯というレースで争うといった内容の物語でございます。人間と神々が共存する世界。その世界を創造した創造神アンマを初め、数々の神が登場します。
実はその世界がどこかに本当に存在すると申しましたら、皆様は信じますでしょうか?
「その世界が実在することを証明ができるか?」。この問いの答えは簡単でございます。この私が存在するのが何よりの証拠でしょう。
申し遅れました。私の名は「ルース」と申します。皆様の世界では「カラス」と呼ばれる鳥の姿をしております。私はゾディアックリボルバーの世界に存在する数々の神の一人、「オッド」様という神に仕えるカラスでございます。オッド様は神の王族の一人で、魔力と引き換えに左眼を失われました。私と相棒のルークは2羽でオッド様の代わりに世界を見ております。
私たちが見た物はオッド様にすべて伝わるようになっているのでございます。
最近、「カムイバース」というメタバースが皆様の住む地球に生まれたそうでございますね。そのメタバースはなんでもゾディアックリボルバーを元にした世界なんだそうで。オッド様は自分の存在する世界を、漫画を通して覗いてくる、そちらの世界の人間に大変興味をお持ちになられました。オッド様に人間がどんな存在なのか見てくるように言われ、私はこちらの世界に送り込まれたという次第でございます。
「困った人がいれば助けるように」
オッド様は大変お優しい方なので、私にそうおっしゃいました。こちらの世界に来てから、たくさんの人間を観察させて頂きました。時にはオッド様から頂いた物を困った方に渡しながら。
今日は私が観察した人間の物語の一つをご紹介したいと思います。
皆様はそのまま楽にして頂いて構いません、私の記憶をあなた様の頭の中に直接お届けしますから、目を閉じて頂けたらその映像が見られますので。
がらんとした部屋の真ん中にベッドが一つ。そこに男が寝ている。
「・・・もう朝か。」
カーテンから漏れる朝の光が顔に当たり、眩しさで目を覚ます。部屋の外からは、何やらさわやかな音楽が聞こえる。
「ん?ここはどこだ?」
眠い目をこすり、身体を起す。自分がどこで寝ていたのかわからない。
「皆さーん!もう少しで朝ごはんの時間ですよー!食堂に来てくださいね」
俺の名は高田幸三。年齢は47歳。仕事は普通の会社員で、14歳の娘と12歳の息子がいる。5歳年下の妻、美絵と4人家族だ。
昨日は仕事の鬱憤からたくさん酒を飲みすぎた。二日酔いで目覚めたら、見たことが無い部屋で目を覚ましたって訳だ。
「飲みすぎて、喧嘩でもして捕まっちまったかな・・・」
思い出そうとしても、頭がボーっとして昨日のことが思い出せない。
状況がつかめず混乱していると、ピンクのポロシャツとジャージ素材のスラックスを来た奴らが俺を迎えに来て食堂まで歩くように促してきた。
他にも何人か俺と同じような境遇と思われる奴らがいるようだ。中には歩けなくなって車いすに乗っている奴もいる。
「もしかして病院?酔って転んで頭でも打ったかな?」
手を頭に当てても包帯が巻かれているわけでもなく、特に痛い所もない。不調なところはなさそうだ。頭だけがはっきりせず、考えがまとまらない。
ポロシャツのやつらはこの施設の職員なのだろう。
訳も分からず、食堂に集められた俺たちは、声を出す練習だと歌を歌わされた。皆で手を合わせて「いただきます」のあいさつをして食事につく。ボトボトと食べこぼす奴、自分で食べられず他人にスプーンで食べさせてもらっているような奴もいる。俺は自分でちゃんと食べられる。あいつらとは違うのだ。おっと、よそ見をしていたらこぼしてしまった。俺としたことが。食事は少し薄味で量が少ないが、腹が減っていたせいもあり、すべて平らげた。
「あらー、幸三さん、きれいに食べられて偉いですね!お口、お拭きしますね。」
田辺と名札に書いてある若い女が俺を褒める。美人と言うわけではないが、愛想が良く感じのいい女だ。若い女に褒められて悪い気はしないが、タオルで俺の口まで拭いてくるのは少し子ども扱いしすぎだろう。それになぜ俺の名前を知っているのだろう。
食事が終わると、歯磨きだ。嫌がる奴もいるが、職員たちは慣れた手つきで歯を磨く。おれも歯磨きが苦手でやりたくないので、磨いてもらうことにする。本当はさっきの田辺に磨いてもらいたかったが、磨いてくれたのは瀬下という30歳そこそこの男だった。逞しい体つきをしているので何かスポーツでもやっているのだろうか、俺がちょっと嫌がって抵抗してもビクともしない。
食事の後は入浴だ。順番に風呂場に連れて行かれ、田辺や瀬下が手際よく体を洗うのを手伝う。俺は人前で裸になるのが恥ずかしく逃げようとしたが、どこに逃げればいいかわからずすぐに捕まってしまった。
「幸三さん、お風呂嫌いなんだね~でもさっぱりするからちゃっちゃと洗っちゃいましょう!」
横山という名札を付けた、ふくよかで中年の女が抵抗する俺をなだめながら、瀬下に手伝わせながら手際良くあれよあれよと俺の服を脱がし入浴させる。大きい風呂はなんだかんだで気持ちが良かった。
午後は習字の時間だ。それぞれ思い思いの字を書いていいと言われた。俺は今の気分を書いた。「家族に会いたい」と。
「幸三さん!お上手!」
田辺が大げさに褒めてくる。
褒められた嬉しさから俺は思わず顔がにやけてしまったが、チャンスを見つけ家族を探しに行かなければ。きっと美絵も心配しているだろう。
「1.2.3.4~はい、お上手に歩けてますよ~」
食堂の隅に目をやると職員に支えられながら、よちよちと歩く練習をする奴もいる。
「帰るからお母さんに連絡してってさっきから言ってるでしょ!」
職員の詰め所の前で家に帰ると言って聞かない女性が駄々をこねている。あの人もきっと帰りたいのだな。でもここの職員は帰りたくても帰してくれないらしい。その女性を横目に何かの記録を一生懸命書いている。大体、ここの出口は見渡してもどこにあるのかわからない。
夕飯が終わり、しばらくすると消灯の時間となった。こんな早い時間に床に就くことなんて無い。何時かよくわからないが。暗い部屋で眠れず、ベッドの上で寝がえりを繰り返す。
トイレに行きたくなり、起き上がる。
『ピンポーン』
ベッドから降りようとすると詰め所の方から音がするのが聞こえた。程なく職員が俺の部屋にやって来た。下を見るとマットのようなものが敷かれ、その上に乗ると音が鳴る仕組みらしい。
「幸三さん、どうしたんです?」
職員が懐中電灯で俺の顔を照らしてくる。
「あ、いや、トイレに・・・」
俺はしどろもどろになり答える。
「トイレならその脇にあるからそこで済ませましょうね」
ベッドの下に屈み、何かの機械を操作した後、俺のベッドの脇に立つ。暗くて顔がわからない職員が俺を立たせ、ズボンを下ろし、ベッドの脇にあるトイレと呼ぶものに座らせる。
「さ、どうぞ」
俺が用を足すまで見ているつもりだろうか。見られていると出るものも出ない。
「さっきしたばかりだしね。また出そうになったら言ってくださいね。」
ズボンを履かせ、ベッドに俺を寝かすと顔の見えない職員は部屋を出て行った。
さっきっていつだ。誰と勘違いしているのか。俺は消灯になってからトイレになど行っていない。出ないのはお前が見ているからだ。
「どうやったら家に戻れるのだろう・・・」
俺の大切な家族は今どうしているのだろうか。そもそも俺はどこにいるのだろうか。思い出せない。ずっと頭にモヤがかかっているような感覚だ。情けなくて、どうしていいかもわからず途方に暮れているその時、窓から見える松の木の枝にカラスが止まっているのを見つけた。月明かりに照らされ、目が怪しく赤く光っている。その目がじっとこちらを見ている。こっそりとベッドから立ち上がり、窓を開ける。脱走防止なのだろうか、窓は1/3程しか開かないようになっている。するとカラスがこちらに飛んできて、開いた隙間からするりと部屋に入ってきた。部屋の中をゆっくり一周飛んで、窓辺に止まる。俺は驚いて後ずさり、ベッドにストンと腰かけた。
「さっきの職員、センサーのスイッチ入れ直し忘れてますね。怒られますよ、後で」
カラスが人間の言葉を話すので思わず声を上げた。
「お、お前、話せるのか?」
俺は、カラスに声をかける。
「ええ、私はルースと申します。神の使いです。主から困った人がいたら助けるようにと言われております。あなた様はとても困っているように見えますね。」
どうやらカラスは俺を外から見ていて、俺を助けに来てくれたようだ。
「そうなんだ!俺をここから出してくれ!!俺はどうやらここに監禁されているらしい。家族に会いたいんだ・・・頼む・・・!!」
俺は、カラスに懇願する。
「あなた様は監禁されていません。病気で入院されているようですよ」
カラスは俺を見て話す。
「入院?どこも痛くも無いのに?なんの病気だ?」
俺は体中を触ってみるがどこも痛くない。どこが悪いと言うのだ。
「あなた様はどこも悪くない。そう思ってしまう病気なのでしょう。」
カラスは訳の分からないことを言う。
「どこも悪くないと思うのが病気?適当なこと言いやがって。訳がわからない!」
俺は意味が分からず少し興奮する。
「では聞きますが、ここがどこで、今日はいつでしょう?」
興奮する俺にカラスは質問する。
「ここがどこか?今日がいつか?そんなこと今どうでもいいだろう!俺は早くここから出たいんだ、何とかしてくれ!困っているんだよ」
ここがどこで、今日がいつなのかわからないので困っているのだ。
「・・・わかりました。主から困った人がいたら助けるようにと言われております。手を出してください」
首を傾げたり、もったいつけるように考え込むふりをした後、カラスはそう言うと、首に掛けた金色の筒から一粒の黒光りしたパチンコ玉ほどの丸いもの取り出し、俺の右手に乗せた。
「・・・これは?」
俺は黒い玉を眺め、においをかいだり観察したりする。
「あなた様の病気を治す薬でございます。オッド様は研究熱心で様々な効果のある薬を作ることができるのです。私が見た世界を通じてあなた様の症状を即座に見抜き、あなた様に合うお薬を私に持たせて下さいました。なんと慈悲深いお方でしょうか。」
カラスは天を仰ぐようなしぐさをしながら、それが薬であることを告げる。
「俺の症状・・・俺はどこも悪くない!こんな怪しい物飲めるか!」
怪しすぎる。言葉をしゃべるカラスが持ってきた黒い玉を飲めと言うのか。
「その薬をどうするかはあなた様次第でございます。このまま、安全なこの場所で穏やかに生活をしていくのも悪くはないでしょう。おっと、そろそろ見回りの時間のようです。それではごきげんよう。」
カラスはそう言うと翼を広げ、窓から飛んで行った。
「おい、ちょっと待て・・・」
立ち上がり窓辺まで歩き、カラスが飛んで行った夜空を呆然として眺める。部屋のドアが開き、懐中電灯を持った職員が部屋の様子を覗く。
「あらあら、幸三さんが窓辺に立っちゃってる。センサーが鳴らなかったから気づかなかったわ。センサーのスイッチを入れ忘れちゃったのね」
職員が慌てて俺に駆け寄る。
「ちょっと!幸三さん、今何か口に入れた?変な物拾って食べちゃダメよ」
急に人が部屋に来て驚いた俺はつい手にしていた玉を口に入れて飲んでしまった。
「何も食べてない。大丈夫だ。」
俺は口の中を見せるように言われ、口を開ける。職員は口の中に何も入ってないことを確認した後、窓辺に突っ立っている俺の脇を抱えベッドに寝かす。
「幸三さん、何か用事あったらちゃんとこのボタン押してね」
顔の見えない職員はそう言うと部屋から出て行った。
「あの玉、思わず飲み込んでしまった・・・大丈夫だろうか。まさか毒薬じゃないよな・・・。」
俺ははずみでその薬を飲んでしまったことを急に心配になる。程なくして、急に眠気が襲ってきた。
「あの薬の効き目かな・・・すごく眠い。あのカラス、変な薬を寄越しやがって・・・」
急激な眠気に襲われ、俺は眠りにつく。
がらんとした部屋の真ん中にベッドが一つ。そこに俺は寝ていた。
「・・・もう朝か」
カーテンから漏れる朝の光が顔に当たり、眩しさで目を覚ます。部屋の外からは、何やらさわやかな音楽が聞こえる。眠い目をこすり、身体を起す。
「皆さーん!もう少しで朝ごはんの時間ですよー!食堂に来てくださいね」
俺の名は高田幸三。年齢は78歳。仕事を引退して13年になる。娘は現在48歳で県外に嫁いで今は年に1回実家に帰ってくるかどうかだ。息子は46歳で子供が2人、男の子と女の子。かわいい孫だ。妻は73歳。息子が結婚し、孫ができるのをきっかけに二世帯住宅を建て私たち夫婦と一緒に暮らすことになった。73歳頃より物忘れが少しずつ現れ、徐々に症状が悪くなったので病院を受診したら「アルツハイマー型認知症」と診断された。荒木と言う中年の医者が主治医だ。去年の冬あたりから徘徊するようになって夜中に家を出ようとしたり、転びそうになるので目が離せなくなった俺を家族は初めは献身的に介護したが、徐々に疲弊していき、この春にこの介護施設に入所させた。・・・そうだ、思い出した。俺はアルツハイマー型認知症で介護を受けていたのだった。あのカラスがくれた薬のおかげですべて思い出した。あの薬は認知症を治す薬だったのだ!すごいぞ!あの神の使いのカラスが俺の病気を治してくれたのだ!もう病気も治ったのだから帰らせてもらおう。愛する家族の元へ。俺は今まで神など信じたことも無かったが、初めて神の存在に感謝した。
俺はベッドの頭上に設置されるナースコールを押す。程なくして職員が部屋に来る。
「はーい、幸三さん。おはようございます。どうしました?」
田辺は3年目の介護職員だ。美人という程でもないが、明るい性格で同僚や利用者からも評判がいい。
「今までありがとう。先生を呼んでくれないか。俺はすっかり病気が良くなったんだ。家に帰るよ。世話になったね。」
俺は穏やかな笑顔で今までの献身的な介護をしてくれた田辺に感謝し、頭を下げる。
「・・・やだー、幸三さん、病気良くなったんだね。良かった良かった。さあ、朝ごはんだから食堂に来て食べましょ!」
田辺は俺の話をちゃんと聞いていたのだろうか。家に帰ると言っているだろう。
「あ、だからもう入所生活を続けなくていいんだって!先生を呼んできてくれ!あんたじゃ話にならん!」
俺は認知症が治ったことを必死に訴える。
「まあまあ、ご飯食べながらまたお話聞きますよー」
必死に話す俺を食堂に誘導しようとする。
「何をするんだ!年寄り扱いするな!」
腕を持たれ、ついカッとなって田辺の手を払う。
「痛っ!ちょっと幸三さん興奮してますね。男性の職員呼んでこなきゃ」
田辺は首からかけた電話で応援を呼ぶ。程なく数人の介護職員と看護師がやってくる。
「あらあら、朝から興奮してるわね。幸三さん、大丈夫だからねー」
主任看護師の中田が俺を見て言う。
「大丈夫だ!認知症が治ったんだよ、俺は!家に帰してくれ。」
必死に訴える俺から少し距離を取りつつ、数人の職員が取り囲む。
「主任!荒木先生に連絡したら、鎮静剤の筋注してもいいって!」
ナースステーションの方から中田に呼びかける声が聞こえる。
「鎮静剤?いらん!俺は治ったんだ・・・」
俺を取り囲む職員をかき分けて病棟から出ようと試みるが介護職員の瀬下が止める。がっしりとした体格の瀬下に老人の動きはなすすべなく止められてしまう。そのまま押し込まれ、ベッドに横にされる。
「はーい、幸三さん、少しお休みしましょうねー。気分が落ち着く注射打ちますよー。」
慣れた様子の中田が瀬下に抑さえられ動けなくなっている俺の袖をまくる。
「やめてくれ!俺はもう大丈夫なんだ・・・!」
押さえつけられうまく動けず、なすがままの俺は左肩に注射を打たれる。
「失礼します」
診察室の扉をノックして初老の女性と中年の男性が入ってくる。
「どうも高田さん。わざわざお越しいただき申し訳ありません。お父さんの状況が少し変わったもので。あ、どうぞお座り下さい。」
白衣の胸ポケットに付いた名札には荒木と書いてある医者が入って来た二人に挨拶し、診察室の椅子に座るように促す。
「それで、父の様子はどうでしょうか?」
中年の男性が椅子に座り、医師に自分の家族の状況を質問する。
「幸三さん、最近興奮することが多くなってきました。最近では「病気が治った、早く家に帰してくれ」と暴れることが増えて、止むをえず鎮静剤の注射を打たざるを得ない日が増えてます。認知症の症状がどうやら進行しているようです・・・」
医者は腕組みをしながら眉間に皺を寄せる
「そうですか・・・。お父さんの認知症、また進んでいるんですね・・・。先生、どうか最後まで診て下さい。よろしくお願いします」
患者の妻と思われる初老の女性が医者に頭を下げる。
「大丈夫ですよ。ご家族が家に連れて帰りたいとおっしゃらない限り、我々が責任を持ってお父さんの生活をご支援したいと思っています。もちろん最後まで・・・」
医者は家族を安心させるように優しく語り掛ける。
「今更連れて帰りたいなんて言いませんよ。むしろ帰ってこられたら困ります。父は昔から仕事ばかりで家庭を顧みるような人では無かったですから。付き合いだなんて言って、遅くまで飲んで帰ってくることも毎日のようでした。認知症になってからも「仕事に行ってくる」って言って夜中に出かけようとしてたくらいですから。本人も家に帰りたいなんて思ってないはずですよ。ねえ、母さん。」
患者の息子と思われる男は母親の顔を見ながら家族の気持ちを医者に伝える。患者の妻も息子に言われて頷く。
「わかりました。お任せください。それではまた何か変化がありましたらご連絡させて頂きます。」
医者は家族の意向を確認し終わると、面談を切り上げる。
病院の外に立つ松の木の枝には一羽のカラスが止まり、診察室を見下ろしていた。
あの方は認知症になって困っていたと思いましたが、忘れた方がいいこともあるようです。どうやら、あの方を救うのはすべてを思い出す薬より、すべてを忘れさせてくれる薬だったのかもしれません・・・。人間と言うものの理解が足りていませんでしたね。非常に興味深い。
次の機会があればオッド様にお願いする薬はちゃんと考えなければいけませんね。
さて、次に観察する人間はどんな方でしょうかねえ。それでは。
カラスは翼を広げどこかに飛んでいく。