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自衛隊体験記その2 入隊式まで

2017年4月1日、第一空挺団を志したわたしは前期教育を受ける駐屯地の門をくぐりました。
 
前期教育とは、自衛隊の一番初めに受ける教育のことです。
 
4月〜6月までの3ヶ月間、自衛官として必要な基礎を学びます。
 
 そしてこの前期教育が一番キツイと言われています。
 
高校や大学を卒業したばかりの人が、隊舎という閉鎖的な環境におかれ、集団生活を送り、内務や消灯時間といった規律を守って生活しなくちゃいけないからです。
 
それに3ヶ月間で自衛隊員に育て上げなければいけないので超過密スケジュールです。
 
「自衛隊は最初3ヶ月を乗り越えればあとは天国」という言葉を聞いたことがありますが、あながち間違ってはいないでしょう。
 
 

同期、班長との出会い

書類を出したりや手続きを済ませたあと、自分が所属する班の部屋に連れて行かれました。
 
私は教育隊第2区隊1班でした。
 
1区隊2区隊3区隊あり、それぞれの区隊に約40〜45人ほどいます。
 
そしてその40人を10人単位で4班に振り分けてありました。

こんなイメージ。2区隊1班長の下の新隊員10名の1人に私がいます。

私は一番最初についたので、2区隊1班の部屋に誘導された後、ポツンと一人で待っていました。

あとから同期がぞろぞろと入ってきましたが、みんな初対面なのでよそよそしかったです。
 
同期は10人、私を含め11人の班でした。
 
年齢は下は18歳から上は25歳。
意外にも18歳は少なく10人中5人が18歳

3ヶ月間一緒に生活する同期をみて、「高校卒業後、自衛官になるなんてさぞ立派な奴らなんだろう」と思っていました。
 
 そして、班長が入ってきました。

「2区隊1班の班長、三浦だ。よろしくな」

班長は、爽やかでイケメンの24歳。職種は通信科の人です。

俳優のような顔たちで自衛隊の泥臭い感じが全くしないような方でした。自分自身のことをイケメンと言ってましたし。

しかし仮性包茎らしく気にされていました。班長との連絡簿に「野上、お前はズル剥けらしいがどうやったらズルムケになれる?」と書かれていたことがあります。「被ったら剥くを繰り返してたらいいですよ」と書くと「ならんぞ!」と返ってきました。

そして班付が入ってきました。(班付とは班長補佐みたいな感じです。副班長みたいな)

「班付の生田。よろしく」

私は、班長しかいないと思っていたので班付の存在に少し驚きました。

班付はバイクが好きの22歳。私の1つ上の歳です。

初対面の印象は、肌白で冷徹っぽい感じの雰囲気があり怖そうな人でした。

機甲科の偵察隊に所属していると聞くと「斥候かぁなるほど」という雰囲気の人です。

偵察隊としての意識を常に持っておられ、意識の高い自衛官でした。

食事後にテーブルに乗っている調味料のラベルの向きを必ず揃えられるので、「几帳面なんすね」と私がいうと「いや自分がいた痕跡を残さないという意識を保つため」と言われ、偵察隊としての意識の高さに驚いたのをよく覚えています。

私も空挺団に入るため優秀な自衛隊員になるという目標があり、周りと比べ意識が高い方だったので、生田班付とはなんとなく馬が合い仲がよかったです。

私は自分の班長を見て「え、この人が班長?こんな若くて大丈夫かよ」というのが正直な印象でした。
 
班長と聞くと、角刈りで、つねに眉間にシワを寄せているゴリゴリマッチョの30代のようなイメージがあったので、映画やドラマに出てきそうな爽やかイケメンの班長を見てなんだこいつ大したことなさそうと思いました。
 
さらに通信科所属(後方職種)だったので、戦闘職種の班長じゃないのかよとがっかりしました。

※戦闘職種とは普通科(歩兵)、機甲科(戦車)、施設科(工兵)、特科(砲兵)のことです。自衛隊知らん人はなんのことかわからんと思いますが、わかりやすくいうと戦争になったら銃や大砲をバンバン打ったり、銃を持って突撃したりして戦闘を行う部隊です。これ以外の職種は、後方職種といって戦闘職種を後方から援護する部隊です。

班付は機甲科の偵察隊(戦闘職種)の方だったので、班付の方が好印象でした。
 
しかし、班長は教え方がうまく、基本教練がずば抜けて綺麗で優秀な方でした。
他の班長と比べても厳しかったですし体力もありました。普段は厳しいですが班員が悩んでいる時など親身に聞いてくれる優しい方でした。
 
班付も優秀な方で前期教育をトップの成績で出ておられました。自分がいる偵察隊のことを誇りに思っておられ、自分がいる隊の話をよくしていました。偵察隊の方だったので内務がかなり厳しかったです。

「偵察隊は自分がいた痕跡を残さない訓練を受けているからな。逆に言えば自分以外の痕跡があったらすぐに違和感に気づく。だからお前らが甘ったれた掃除したらすぐに分かる、ホコリひとつ落とすんじゃねぇぞ!!」と言われやり直しさせられてばかりでした。


2日目くらいに1人ずつ班長に呼ばれました。

班長「野上3ヶ月間よろしくな。自衛隊に入った理由を聞かせてもらっていい?」

私「国家防衛のためです。そのために第1空挺団への配属を希望しています」
 
班長「なかなか変わったやつやな。今どき国の防衛で自衛隊に入る奴なんて珍しいよw空挺がどんなところか知ってんの?」

私「はい中央即応連隊に属しており、有事の際は最前線へ投入されるため国家防衛を肌で感じられる部隊かと思っています」
 
班長「なるほど目的意識高いな。国の防衛ね・・・わかった」

入隊したころの私は冗談抜きでこんな感じでした。着色一切してないお!
班長から後に「最初、殺人鬼が入ってきたと思った」と言われます。それほど殺気立っていたそうです。

「国家防衛」という信念と、なんとしてでも空挺団に入るという目標があったため、「気を抜くな、遊びにきてるんじゃないからな」と常に自分に言い聞かせていたからです。

 

入隊式まで 嵐の前の静けさか

駐屯地に着いて同期や班長に簡単に挨拶を済ませたあと、やることは縫物、基本教練、靴磨き、アイロンがけ、物品掌握です。
 
いきなり腕立て伏せなど体力錬成は行いません。班長、班付も優しいです。
 
その理由は入隊式を済ませていないからです。
 
入隊式で服務の宣誓して初めて、「自衛官候補生」となり教育を受けられるのです。
 
なので、班長からは丁寧に扱われます。丁寧というか自衛官候補生にもなっていない一般人なので当たり前か。

この入隊式までの間はお客様期間と呼ばれています。いきなり厳しくして辞められては困るので。
 
自分の使うジャージ、戦闘服、制服などにひたすら階級章や名札を縫い付けます。
ここで綺麗に縫っておかないと、班長に注意されやり直しです。
 
「うーんここが曲がってるねぇ」「ここはもう少し縫い目を細かくしようか」なんてやんわり注意してもらえます。

班長の注意もろくに聞かず適当に縫っていた同期は、入隊式を過ぎると「オラァアア!!なんだその縫い方はァ!!(ビリィ」と剥がされていました。

縫物をやりつつ、靴の磨き方やアイロンがけ、「気をつけ」、「敬礼」、「右向け右」「回れ右」などの基本教練を習いました。
 
そして、自分の持ち物にひたすら名前を書き入れていきます。
 
毎日縫物やら靴磨きやらでウンザリしていたわたしは、
 
なんだよ早く筋トレさせろ!!戦闘訓練させろ!!早く銃を撃たせろ!!と思っていました。
 
班長たちも優しいので、みんな自衛隊余裕じゃんみたいな空気が流れていました。
 
 

地獄の2区隊の序章

入隊式2日前に、体育館で体力テストのお試しみたいなものがありました。
 
今、腕立て、腹筋が2分間でどれくらいできるかみたいなことを調べられたのです。
 
みんな「おい何回できた?」「ヤッベェ俺全然体力ないわー」みたいにわいわいしていたところ。
 
我らが2区隊の3班長の「オラァアアアアア!!お前ら!!誰が喋っていいって言ったぁぁぁ!!!!!!」という怒号が響き渡りました。

この3班長、西部方面普通科連隊の人でレンジャーでした。

西部方面普通科連隊とは、敵が島に上陸した際、強襲揚陸艦やボートで上陸し奪還するという危険な任務を負う部隊で第一空挺団に並ぶ精鋭部隊です。空挺団同様に体力、精神ともに優秀な隊員でなければなりません。しかもそのレンジャー隊員です。並の自衛官とは訳が違います。なんか色々凄すぎて、他の班長たちが霞んで見えるほどでした。
(当時は西部方面普通科連隊でしたが、今は水陸機動団となっているようです)
 
「腕立て伏せの姿勢をとれぇ!!!!!」と言われ腕立て伏せの姿勢を取りつづけることに。

 8月から4月までの間、ジムで鍛えていたので体力に自信はありましたが、結構きつい。
 
他の班長、班付きから「腰あげんな!!」「そんなんで自衛隊やっていけると思うなよ!!」「お前着隊からずっと調子に乗ってんな!!自衛隊舐めんなよ」なんていう言葉があちらこちらから聞こえる。おお怖い。
 
とかいう私も三浦班長から「おい!野上!!腕プルプルしてんぞ!!そんなんで空挺いけると思うなよ!!!」と言われました。
 
そんなんで空挺にいけると思うなよ、というワードがめちゃくちゃ刺さりました。

(クッソがなめやがって!!何が何でも、体勢キープしてやる)
 
腕立て伏せの姿勢をとり始めて5分くらいでしょうか。「その場に立てぇえええ!!!」と号令が。
 
ものの5分間ですがかなり長く感じました。何分間やればいいとゴールが見えないのは精神的にかなりきつい。(いや考えてみればプランク5分って普通にきついわ)
 
きつすぎて立てなくなっている同期もちらほら。
 
「お前ら舐めやがってええ!!!!入隊式終わったら覚えておけよ!!!!」
 
3班長の声が体育館に響き渡り、みんな唖然としていました。

(こ、これが自衛隊…!)

というか区隊長や1区隊3区隊の班長も唖然としてました。

「お客様期間中なのにお前それ言っちゃう?」みたいな顔です。

おそらく、精鋭部隊のレンジャーからすると私たち新隊員の舐めくさった態度に我慢ならなかったのでしょう。

私が所属する2区隊はこの3班長を主にかなり厳しく教育を受けさせられることになります。同じ教育隊でも1区隊3区隊とは全然違いました。

1区隊3区隊からは「地獄の2区隊」「2区隊だけ軍隊」などと言われていました。

そうしていると「列を組んで隊舎に戻れぇぇ!!」という声が響き渡り
 
あたふた列を組んでいるうちに「何やってんだ!!遅い!!」とまた怒られる。
 
2区隊は、入隊式前のお客様期間から自衛隊の洗礼を浴びました。
 
同時にやっと面白くなってきたとワクワク。
 
そして入隊式を終え、晴れて自衛官候補生となりました。

地獄の2区隊生活の始まりです。
 
続く

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