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元気になったらしたい事7

ギターを弾きたい


高校の頃、ギター部に入っていた。

特に興味があったわけでもなく、ただ友達に誘われたからという、ありきたりな理由で入部した。

といっても、当時のギター部は壊滅的で、部員は3年生の先輩が1人だけ。部室もきちんとした部屋ではなく、縦長の狭い物置き場みたいな所で、その半分のスペースに棚が置かれていて、ギターやその他の道具が敷き詰められていた。
 
残り半分のスペースが必然的に活動スペースになるわけだけど、とにかく狭い。
縦長のスペースに椅子と譜面台を数人分横に並べると、もうそれだけでギュウギュウになった。

僕と友達が入部した後、他の生徒も3人入ったので、一年生時の部員は合計6人。これでもかなり少ないけど、顧問の先生は「一気に5人も入って来てくれた!」と喜んでいた。

埃だらけの狭い部屋に、ジャムおじさん似の先生と部員6人。そこに女子が1人でもいたら少しは場が明るくなるかもしれないけど、残念ながらその高校は男子高校だった。

申し訳程度に設置されている小窓を全開に開けて、埃が舞う中ジャムおじさんと部員はチューニングを始める。

ギター経験者は3年生ひとりで、一年生はみんなギターを触った事すらなかったので、なかなか先にすすまない。慣れない手つきで、先生に言われるがまま各々音を合わせていく。

ようやく全員分のチューニングが終わり、さあ練習開始と思いきや、そこからは先生の青春時代の昔話が始まる。

ポロンポロンと音を奏でながら、なんの面白みもない昔話が進んでいって、その指の動きは次第に“禁じられた遊び”に変わっていく。

どうやら先生は、この“禁じられた遊び”を練習してギターが上手くなっていったようだ。
何度も何度もその曲を弾き、必要以上にスピードも早くなっていく。

先生が疲れてきて指の動きを止めた後、「お前たちも練習すればこれだけ弾くことが出来る様になるから頑張れ!」と部員たちに声をかけた後、ようやく練習が開始されるわけだけど、その頃には活動時間のほとんどが過ぎていて、一曲、二曲練習すると、活動時間は終了してしまった。

これ、ギター部入部初日だけの出来事じゃないよ?驚くことに、“先生の昔話(禁じられた遊び付き)”は、毎日“カリキュラム”に組まれていた。

なので練習時間はほとんどなく、全然進まないので、野球部達が甲子園目指して戦っている頃、僕らギター部は“かえるのうた”を弾いていた。

この小さい窓から“かえるのうた”を弾く音が外に漏れていく…グラウンドで一生懸命走っている人達はどう思っているんだろ…考えるだけで切なくなる。もちろんそんな考えはすぐに消し去った。

夏になるとその部室はさらに地獄になる。
エアコンなんてないからだ。

狭い部屋に男数人、ギュウギュウになりながら汗だくでギターを弾く。

“これなんなん!”

何度もその状況にツッコミを入れながら弾いていたのを覚えている。

こういうのはね、我に帰ったら駄目なんだ。
どうしても心の中のツッコミは生まれてしまうけど、出来るだけ心を無にし、ギターを弾く。
もちろん“禁じられた遊び”の時も同様に。

ギターとは、精神を鍛えるための道具でもあるのだよ。

活動時間が短いのと、部員たちの壊滅的なモチベーションのせいで、(ほとんど禁じられた遊びのせいやけどな!)部員達の上達スピードはとてつもなく遅かったけど、それでも少しずつ“ギター部”らしくなっていった。

ジャムおじさん似の先生の口癖は、「コード進行よりもまずはアルペジオ!」

(アルペジオ…和音を同時に鳴らすのではなく、1音ずつ順番に連続的に発する演奏方法の事らしいです)

指先の動きの練習を怠って、形だけジャンジャン鳴らす事だけ覚えても、後々絶対につまずく日が来るらしい。

「卒業する頃には、みんないっぱしのギタリストになってるわ!頑張ろな!」

その先生の格言を信じ、アルペジオの練習の日々が続く。


そして、ジャンジャン鳴らす事なく、高校生活は終了した。

なんなん!

確かに入部した頃はギターに興味無かったけど、ジャンジャンくらいしたかった!

かえるのうたと数曲弾けるようになっただけやん!

はぁ、何だったんだ高校時代の僕の青春は…

まぁでもそんなギター部も、先生も、今となってはいい思い出(たぶん)

部活動最後の日、先生はみんなに一台ずつアルトギターをプレゼントしてくれた。

「これからはこうやって集まる事は出来ないけど、ここで練習した日々の思い出は色褪せる事ないから」

「たまにでいいからこのギターに触れて、一緒にいた時間を思い出してくれたら嬉しい」

目を潤ませながら、先生は一人一人にギターを渡していった。

しんどい事も多かったギター部の日々だったけど、なんだかんだ楽しかったな。
先生ありがとう。

きっと今でもこうやって覚えているという事は、先生の願いは少しは叶っているという事だろう。

ギター部のエピソードはもう少しあるけど、それはまた今度書けたら書こう。

ギター、また弾きたいな。

今度はジャンジャンしたい。

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