「キュロキュロ」を探す日々

母は擬態語をよく使う。肌寒い日に風をよく通すような寒々しい格好をしていれば、「またスラスラした格好して!」と言い、煮物の根菜が固ければ「ごぎごぎしてる」という。出身が東北某県なので、割りに最近まで方言の一種だと思っていたが、どうやら造語らしい。幼い頃からそんな母の言葉を聞いているからなのか、確かに歯応えの良い根菜などを食べるときは「ごぎごぎ」している気がするし、「スラスラ」に至っては肌と衣の間を冷たい風が通り抜けていくような様子が思い浮かぶ。非常に理にかなった擬態語だと思うのだ。

そんなこともあって、母が使う擬態語はたちまち脳裏に焼き付いて、知らぬ間に家族全員が使っていたりする。母が長い文章を書いているところは一度も見たことがないが、キャッチーでユーモラスな言葉を創造することに長けているというのはある種才能だと思う。例えば旅先で食べたものの食感や味を伝えるときに、どうにも既存の言葉では表現しきれず、真に迫る伝え方をすることが難しい。母のように五感を精一杯使って的を得た表現を考えられたらどんなにかいいだろうと考える。自分であれこれ考えてもなかなか思い付かないものである。

そんな母がとある郷土料理のお店に行った時のこと。料理の口上を述べる店主が、締めくくりに「唐辛子は、尾の方がキュロキュロしているのが辛いんです」と言ったそうである。店主がいう「キュロキュロ」していない唐辛子を食べると、確かに甘唐辛子だ。逆に、「キュロキュロ」したものは、一口で火を吹くような辛さだったらしい。目利きの料理人である。

とはいえ問題は、私がその「キュロキュロ」の定義を解読できないことである。実際に講義を受けた母でさえ、「多分先が尖っているのが…」「多分先が渦のように巻きかけているのが…」というような曖昧さである。一度家族で甘唐辛子の網焼きで挑戦したところ、結果は五分五分という感じだった。

いつになっても解明されない「キュロキュロ」。擬態語の造語職人にも上には上がいるのである。いつか私も件の郷土料理屋に行ってご教授願いたいものだが、手探りで研究する行程を心から楽しんでしまっているというのが本音である。

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