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生活していく


6月19日(月)

桜桃忌。

傷つけないように慎重に言葉と語気を選んで励まされながら仕事を催促された。そっちがその気なら3時間睡眠でやってやるよ。


6月20日(火)

結局5時間寝た。

昼食はコンビニでも行こうと思っていたが、全然外に出る気にならなかった。冷凍うどんを温め、醤油をふた回しくらいかけてみた。一応冷凍うどんの袋には讃岐うどんだと書いてある。なるほど、醤油はだし醤油のほうがよい。冷蔵庫に寿司用のだし醤油の小袋が1つあるので、明日はそれを試してみる。

定時を過ぎてすぐ、会社の端末にアクセスする遠隔操作ソフトウェアが落ちた。同僚も全員落ちているようだった。こういうことはままある。15分ほどしても復旧しなかったため、リーダーが、もう明日にする、と言ってオフラインになった。我々はその遠隔操作ソフトウェアが起動しないと一切の仕事ができない。私もあきらめてPCの電源を切った。昨日の帳尻合わせだとぼんやり思った。18時前はまだ明るく、明るいうちから作った夕食を明るいなかで食べることができた。いい気持ちだった。

洗濯して外に干しておいたマットがふかふかになってうれしい。


6月21日(水)

わかりそうでわからないことが数日続いていて早く解決したい。仕事以外のすべてが滞っている。

髪を伸ばしている。暑いので髪を後ろで1つに束ねることが多い。ハーフアップでもローポニーテールでも、鏡の自分にあまり違和感や抵抗がなくなっている。去年までは確かに、髪を結えた自分のことが好きではなかった。まったくいいと思えなかった。もうすぐ26歳になるというところで、外見に変化がなんとなく表れている。化粧が似合うようになったり、服が似合わなくなったり。でも、具体的にどこがどう変わったのかはまったくわからない。とはいえ、ひとまずは安心している。なんだ、私って高校生のときが1番かわいいと思ってたけど、今も全然かわいいじゃん。


6月22日(木)

久しぶりに6時前に起床した。顔を洗ってすぐにコンビニ行き、朝食用のレーズンマーガリンロールパンを買ってきた。マーガリンのことが全然好きではないのに、たまに食べたくなって困る。実際に食べても、うまいかと言われると……である。なんなんだ。

わかりそうでわからなかったことが、ついにわかった! このとき確かに出る快楽物質に私は一生を狂わされていくんだろうな。わかりそうでわからないことはずっと頭の中にいて、私はずっとそれを考えている。その時間も嫌いではないが、今はそれが頭の中に一切ないことが清々しい。清々する。あー!
ところで、わかりそうでわからなかったこととは、異常終了するプログラムの、そのバグのことだった。異常終了の理由は出力されないし、なんなら原因は異常終了したところから離れたところにあった。マジわかんなくて大変でした、とリーダーに報告したら、「そんな肝臓みたいな壊れ方するんだ……」と言われ、めちゃくちゃツボだった。

粛々と仕事をしていたら19時半ごろに急に疲れた。わかりそうでわからなかったことがわかって気が抜けたのかと思ったが、なんのことはない、今日は7時半から働いていたのだった。知らなかった。


6月23日(金)

有給休暇。遠き地に住んでいる恋人に会いに行くのだ。

さっさと空港に乗り入れ、お土産を買い、荷物を預け、お手洗いに行き、空弁を買い、保安検査場を通り、搭乗口の近くで飛行機を見ながら空弁を食べ、すべてこなして出発時刻30分前である。毎度のことながら空港での身のこなしには惚れ惚れする。あ、今大好きな航空機が着陸した。
妙に満席だ、と思っていたら、どうもツアー客がいるらしい。隣に座っている人が眺めている地図をちらと横目に見ると、地元の人間に言わせてみれば何もないところである。そ、そんなところに行ってどうするんだ。しかも集団で。

到着した空港で恋人と落ち合った。恋人は仕事を午後休にして来てくれていて、だけど仕事着から着替えて迎えに来た。私は恋人のこういうところが好きだ。

夜は恋人の部屋でテイクアウトしてきたものをいろいろ食べた。すなわち刺身、寿司、天ぷらである。これは恋人の実家スタイルである。ハードな実家だ。刺身と寿司は同一の店でテイクアウトしたのだが、うには未開封のパックのままくれたし、なぜかおまけでポテトサラダもくれた。ありがたくうには後日食べることにした。ポテトサラダに明太子が混ざっていたことで、恋人があまり明太子を好まないことを知ることができた。私、この人と月島で明太チーズもんじゃを食べた覚えがあるのだが……

恋人は上機嫌でじゃんじゃんお酒を飲み、へばるように眠った。


6月24日(土)

朝は恋人の卵焼き。

○×ゲームの進化版のような知育ゲームで小1時間遊んだ。

顔がかわいい。わあ、という顔をしているので、わあ、わあ、と言いながら遊んだ。

道端に私の好きな花が咲いていたので、恋人に教えておいた。

サッカーを観に行った。恋人はサッカーが好きなのに、スタジアムでは観たことがないと言うので、行ってしまおうというわけだった。初めてJ1の試合を観た。私はJ2の試合を観たことがあったが、J1はJ2と違って応援が厳しく、修羅の世界だった。サッカーのことを全然知らないので、どうしてこの人たちはすぐライン際に行ってしまうのかしらと思っていた。恋人はアウェイチームを「守備がうまい」と言っていた。私でも知っている有名な選手がゴールを決めたとき、恋人が「おしゃれなシュートだ」と言っていて、それが一番良かった。

スタジアムから出て電車を乗り継ぎ、恋人についていくがままに焼肉屋に入店した。店内が満席とのことで、店外に七輪を出してくれることになった。突然のビアガーデンである。初めて恋人と焼肉を食べた。「ホルモンっていつ食べていいかわかんないね」「ね」と言いながらビールを飲んだ。サガリを焼いているとき、好きな肉がサガリで一致していることは幸いだと思った。

帰りにドラッグストアでマニキュアを選んでもらった。今回はアイスブルーだった。恋人によれば、チョコミントのミントの部分らしい。

風呂上がりに2人でできる簡易麻雀のようなもので遊んだ。恋人は「徹マンだ!」などと言って盛り上がっていたが、2人とも倒れるように眠った。


6月25日(日)

金曜日の夜から保存していたうにのパックを開封し、朝からうに丼にして食べた。おいしいうにだった。それから恋人が作った卵焼き。

かねてから気になっていた、恋人の住む街の銘菓を買って食べた。2人で1箱をすぐに食べた。

恋人がおいしいと言うラーメン屋で醤油ラーメンを食べた。恋人はラーメンにうるさいので、恋人がおいしいと言えば、そのラーメンはおいしいのだ。そして本当においしい。柑橘の香りが立ち、三つ葉の風味が合う。久しぶりにきちんとおいしいラーメンだなあと思っていたら、あとで恋人に「驚くほどスープを飲んだね」と言われた。そうなんだ。知らなかった。

あっという間に帰りの空港だった。保安検査場の前で、またね、とハイタッチして別れた。私が保安検査場を通ったあとも、恋人は私の姿が確認できる限り手を振るので、私もずっと手を振っていた。名残惜しいとはあまり思わない。今回もやるだけやったと思う。またそれぞれの生活をやっていこうじゃないの。




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