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詩誌「光」大山 いづみ

「命の籠」

宙から星が降ってくる
野の花は時を越え
思い出の場所へと飛ぶ
沢山の星は太陽の光にまぎれ
大地に吸い込まれ育まれる 命

宇宙を汚すのは誰だ
命のリズムが崩されていく
宙(そら)は苦しがっている
宙(そら)が痛みに喘いでいる
静かな時間は掻き消される
大地の痛みは地球の痛み
地球の痛みは宇宙の痛みとなって
鼓動は急かされ乱れ打つ
時の嵐はめまぐるしく動き
命の籠は安定を崩し
太陽の光に紛れ飛べなくなる
私たちは何処から産まれたの
宇宙へのこだまは返らない

「割れた鏡」

君が振り向けば僕も振り向く
君が笑うと 僕も笑う
何気ない日常が穏やかで幸せだった
ある日一変させた出来事
苦しみの涙を流したまま立っている
枯れてしまうことが恐くなる
痛みの実感がわかないくらい
無表情の仮面も剥がれず
僕らを映した鏡は割れたまま
幾つもの姿を映し出し
見えてはいない物まで映す
君の心が割れた鏡のように
幾つにも分かれ
黙ったまま動かない
窓の外にはバラが咲き
香りだけが家の中を漂い
僕らの鏡を包み込んでいる
澄んだ瞳は閉じられ
高い空から
見下ろされた風の声は
君の胸に届くのだろうか
遠き瞳を抱き寄せて

「君と雲」

何層にも重なった雲の中
そこに入りたくなる
そこはどんな匂いがするんだい
どんな色があるのかな
どんな丘が見えるのだろう
花は咲いているのかい
お腹が空いたら雲を食べるのかい
そんな疑問を
君は受け取ってくれるだろうか
君は隠れたまま出てはこない
見上げ涙零れ堕ちて

「防潮堤」

海と暮らし海と遊んだ
大好きだった海との生活を奪った 津波
守るための防潮堤は
海と共に生きた生活を引きちぎっている
海は防潮堤で見えない
海を見て天気を判断した時代は消えた
高く積み上げられた防潮堤に
人の知恵は生かされなくなった
守るための防潮堤
海が見えなくなって判断が遅れる
複雑な考え方の分岐点が始まった
大地の揺れは
心の揺れとなって
不安は拭いきれてはいない

「秋の風」

小鳥の声を聴きながら
落ち葉の中を歩く
寂しくて 寂しさでもなく
心細くて 心細さでもなく
文明の音が少ない中 
ドングリの落ちる音
小鳥の会話に耳を傾け 
遠くに聞こえる
人間のいやらしさを感じながら
森の小道をカサッカサ
暑い日差しから護られていた森も
秋に日差しが弱まり葉が落ち大地に光が届く
見上げて枝の隙間から見える空に
ホッとして微笑む
落ち葉を踏む静かな時間を
ヘリコプターの音が邪魔をして


大山いづみ

2011「ボクと大地」詩小説出版、2015詩集「心の風景と地下室」出版、福島県現代詩人会会員、日本詩人クラブ会員、令和元年福島県現代詩人会詩集賞受賞

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