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詩誌「光」特集! 平成の山頭火 大原鮎美の世界

Painter kuro

しろねこ社の最初の詩誌の最初の特集で、大原鮎美さんを取り上げることができて嬉しい。
平成の山頭火などといささかありきたりに捉えてはみたが、僕にとっては、彼はアリスクーパーであり、フラワートラベリングバンドなのだ。
要するに時代を超えてカッコいい!

彼の文字の配置は、文学的でありながら音楽的なものを感じる。
イメージが、音に乗って押し寄せる感覚だ。これはセンスであり、また彼が生きた時代の音楽を彼が飲み込んだ所以かもしれない。


こんな詩がある。

「あ」

これが
抒情の正体か
と夜
ベーゴマの火花がちった夜
線路の夜
転移した夜
流星雨がやってきた夜
洗面器を抱えて泣いた夜
戦争の夜


旗の夜

夜は一枚一枚剥がれ落ちて
古井戸のなかへ
役に立たなくなって
あなぐらの底をのぞいてみようよ

おおおい
おおおい
おおおい
おおおい
 
どうか
なにひとつの灯りでもみえたか
(詩集 ロッキングチェア しろねこ社)

 
フラワートラベリングバンドのsatoriではfreedom、freedomを繰り返す。
一つの自由。あらゆる自由。
陽は僕たちを照らすけど、自由は見えない。
大原さんにとっての夜は、まるで見えない自由のようだ。

「学校」

夏休みに入った日の夜
校庭に一台のバスがやってくる
子供たちを乗せて
夏休みの学校には誰もいないわけじゃない
君の机にも君の知らない子供が座っている
もちろん授業なんて無いみんな遊んでいるんだ
鉱石標本を並べたり音楽室のピアノを弾いたり
ブランコを漕いだり体育館でドッチボールをしたり
でもその姿は誰にも見えない

夕暮れが近づいても子供たちは学校で遊び続ける
彼らには帰る家が無い夏休みの間この学校で暮らすんだ
そしてひときわ赤く夕陽が燃える日
いくつもいくつも
彼らは硬く手を握り合い
そらの一点を睨んでいる
爆音が過ぎると
女の子たちは海の歌を歌い
それに返すように男の子たちは山の歌を歌う

それはどこの言葉かよくわからない
でもとても悲しい歌なのはわかる
夏休みが今日で終わる夜
学校に銀河が降りて来る
星に囲まれた学校その星の中から
あのバスがやって来る
運転手が敬礼すると次々子供たちはバスに乗り
星と一緒に空に消えていく
また来年夏休みになれば帰ってくる
ここは彼らの学校でもあるんだから
     (詩集 ロッキングチェア しろねこ社)


大原さんの詩はまるで宮沢賢治のようなメランコリックを表面で保ちながら実は洋楽の翻訳詩のようなカッコよさが言葉の羅列や選択にあり、まさにそれこそが大原鮎美の詩の特徴であり、大原鮎美たる由縁である。

アリスクーパーの歌にSchool's outという曲があって、夏休みについて歌っているのだが、大原さんのこの「学校」という詩は、共通する感覚が多い。(興味ある方は是非聴いてみて下さい)まあ、歌詞の内容は違うのだけど、アリスクーパーの感覚と大原さんの感覚は凄い似ているような気がする。

これは詩のどんな賞よりも僕にとっては褒め言葉です。
海外出版も早いうちにやりたいと思います。絶対合うと思う。海外は。

ではもう一つ。 

「猫」
 
僕は猫に飼われたい
絶望のとき 
失意のとき
不思議といつも一匹の猫が
僕のところへやってきた
あの住みなれた部屋を去るときも
かたづけられた畳の上に
いつのまにか小さなブチが座っていた
あの猫たちは
一つの意思であったような気がしてならない 

僕は最近
シンクロニシティとか
生まれ変わりとかいった事を
よく考えるんだ
僕は猫と一緒にこの世の中に
小さな日向のような場所を見つけて
そこで静かに
つぐなうように生きていきたいと思うんだ
     (詩集 ロッキングチェア しろねこ社)

音楽をしていた大原さんの詩は、僕が貪るように聴いていた中学生の頃のLP版に入っていた歌詞の紙の文字のインクさえ思い出される。
あの頃世界は僕の頭の中で無限に繋がり、そして始まった。

最後に平成の山頭火と僕が勝手に呼ぶ大原さんの自由律俳句を何編かご紹介したい。

ただ一本の桜眺めに小舟出す
   
車イスの軽さに驚く
 
トルソーという裸体があって明るい部屋
 
白黒写真の夕日が赤い

つばめ飛ぶ真昼の月
 
おにぎりを作って下さい海へ行きます

ゆっくりとゆっくりと流れて鰯雲のまま

彼岸花咲くまだ新しい位牌  

エレベータいくつ抱えて都市は雨

裸で生まれ母親に抱かれ裸で死んだ母親を抱く

坂の町を海に向かって帰る

歩いて歩いて夕焼けだけが本当だった

無口な女と浜にいる

カンカンと荒野に踏切の音渡る

釣具屋の老犬死んでしまった

    (自由律俳句集 港亭 しろねこ社)


   
 


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