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~アニメにおけるキャラクターデザインの変遷について~

※大学のデザインの授業で書いたレポートをnote用に公開しました。自作なので文章の著作権は自分にあるので大丈夫です。


①まず初めに

今日、アニメーションは日本の文化と言っても差し障りないくらい、メジャーなコンテンツへと成長して、我々の生活に浸透している。膨大な量の作品が存在し、毎クールごと新規アニメも制作、放送され、そして消費されていっている。作風やジャンルも多岐にわたり、それに応じたシナリオや声優の演技、主題歌、絵柄が存在する。今回はその中から「絵柄」、すなわち「キャラクターデザイン」に焦点を絞って、取り扱っていこうと思う。今や多様化したジャンルや作風、コンテンツにおいて様々なキャラクターデザインが混在し、なかなか一概に時代性や傾向を見出すのは難しいように思える。しかしその裏には、アニメの長い歴史におけるキャラクターデザインの流行の積み重ねがある。本稿ではそれを時代順に紐解いていくことにしよう。

②60年代~70年代におけるアニメーションの絵柄

60年代を代表するアニメと言ったら、なんといっても「鉄腕アトム」だろう。鉄腕アトムの作者は言わずと知れた手塚治虫である。この頃の絵柄の特徴としては、全体的に丸っこいデザイン、大きな目、そしてデフォルメが効いた、顔のパーツが誇張されたデザインである。この時代のアニメや漫画も基本的に子供向けということもあって、老若男女が分かりやすいデザインが採用されていると言っていいだろう。また、手塚治虫はディズニー作品が非常に好きで、影響を受けていたという。彼の漫画に登場する動物のデザインにもその影響が見て取れるだろう。

鉄腕アトム(1963年)
ジャングル大帝レオ(1966年)
手塚治虫の描いた動物たち

70年代においては、松本零士の作品群や「ベルサイユのばら」等の少女漫画が代表的だろう。松本零士は「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」を書いた漫画家として知られる日本を代表するクリエイターの一人だ。この時代は、まつ毛が強調されたデザインが非常に多い印象を受ける。60年代は難しかった海外旅行が解禁になった影響で、海外への憧れが現れているとも言える。少女漫画などが特にそうだろう。髪の色も金髪や派手で華やかな髪型が見られる。目鼻立ちもくっきりしており、顔の彫りなども深く、西洋風の理想的な女性像、男性像が描かれている。

銀河鉄道999(1978年)
ベルサイユのばら(1979年)

③  80年代~90年代+2000年代

80年代に入ってから、アニメのキャラクターデザインや作風はより多様化してくる。俗に言われる「80年代っぽい絵柄」と言うと、「らんま1/2」や「ダーティペア」のような絵柄だろう。この辺の絵柄は、「昭和レトロ」、「エモい」として若者にも時代を超えて広く親しまれている。顔の曲線が特徴的だが、女性が肉感的に、若干ふくよかに描かれている。一方、「シティーハンター」のような劇画タッチの作品も制作されるようになってきた。80年代において、アイドルもそうだが、女性が「母性」の象徴として描かれている事がわかる。

ダーティペア
らんま1/2
シティーハンター

90年代に入ってからは、キャラクターデザインはよりエッジの効いた方向へとシフトしていく。その最たる例が「スレイヤーズ」や「セイバーマリオネットJ」だろう。顎や頬が直角的に尖っており、目も三角形のような形をして釣り上がっている。色も割りと原色に近いような、ジャギーな塗り方をしている。そして輪郭の線も太く、くっきりと描かれている。セル画という手法の技術的限界も相まって、色合いは全体的に暗い印象を受けるが、バブル崩壊や地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災が立て続けに発生して社会不安が増大しつつある中、陰鬱とした作風が一世を風靡し、作品の雰囲気作りに一役買っていたと言っても過言ではないだろう。

スレイヤーズ
セイバーマリオネットJ

「スレイヤーズ」や「セイバーマリオネットJ」もメジャーだが、90年代の世相及び作風の全体的傾向を代表する象徴的な作品は「新世紀エヴァンゲリオン」だろう。貞本義行がキャラクターデザインを手掛け、眉毛と目の間の線や、目尻の黒いライン、鼻の描き方等、後世のアニメーション作品の絵柄のスタンダードに多大な影響を及ぼした。エヴァンゲリオンは放送当時、視聴率が芳しくなかったが、最終回が放送された後、その内容が物議を醸し、一躍話題となった。エヴァンゲリオンのヒットは、それまで日の目を見なかったコアな視聴層、いわゆる「オタク」人気を獲得し、深夜アニメの確固たる地位を確立した。エヴァンゲリオン以降、アニメはよりニッチな作風が増加していく。

新世紀エヴァンゲリオン

1998年はそういった面では特にエポックメイキング的なパラダイムシフトと言えるだろう。陰鬱な作品郡が目立つ90年代の中でも、ひときわ尖った実験的な作品が多い。この年はノストラダムスの大予言を翌1999年に控え、世紀末ブームでヴィジュアル系バンドやコギャルなど退廃的なカルチャーが流行し、暗澹たる空気が世を覆っていた。 また95年の「Windows95」の発売から、しばしば「インターネット黎明期」とも表されるこの時期は、インターネット文化を扱った作品も多く見られる。「BLAME!」や「攻殻機動隊」などがいい例だ。その中で「serial experiments lain」は不安定な作画や背景の電柱、全体的に暗いトーンの画面、奇抜で難解、かつ哲学的な内容で、サブカルチャーの代表格として今でもカルト的な人気を誇っている。98年以降、アニメは「サブカルチャー」としての地位も確立し、「青の6号」や「ガサラキ」のようなシリアスでアングラな作品の流れが90年代後半から、2000年代前半まで続く。

青の6号
ガサラキ
Serial experiments lain
灰羽連盟
TEXHNOLYZE
ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom

しかし、90年代後半は陰鬱な作品ばかりのように見えるが、足元では新しい動きを見せつつあった。そう、いわゆる「萌え」の概念の登場だ。「セラフィムコール」や「To heart」、「デ・ジ・キャラット」、「ときめきメモリアル」などが代表的だ。ピンクや赤等の目を引く髪色に、ツインテールのような個性的な髪型、それでもって愛くるしい、癒やされるような、あざとい仕草・言動をするキャラクターが少しずつ増えてくる。PCの普及により、ビジュアルノベルやサウンドノベルといった新しい媒体が登場し、ゲームを通して架空の美少女との交流を楽しみ、愛でるという、ある意味今のオタクに通ずる楽しみ方が確立されてきた。だが、こういった作品は後の2000年代ほどメジャーな流れではなく、一部の「オタク」のみによって消費されてきた側面もある。それでも、90年代前半や前年の98年と比較したら、革新的なデザインの進歩と言っても過言ではないだろう。面白い事が、これらの作品が揃って1999年制作という点だ。

TVアニメーション下級生
デ・ジ・キャラット
エフィカス この想いを君に…
セラフィムコール
To heart
ときめきメモリアル

④2000~2010年代にかけて

2000年代に突入すると、アニメ史は激動の時代を迎える。初期は90年代後半以来の陰鬱とした作品群も若干数軒を連ねているが、一方で新しい潮流である「萌え」がよりメジャーコンテンツに昇格していくことになる。「宇宙のステルヴィア」や「ストラトス・フォー」、「円盤皇女ワるきゅーレ」など、美少女アニメもジャンルが多様化し、学園モノや日常系が増えてくる。しかし、「萌え」の研鑽もまだ過渡期にあり、やや荒削りな印象を受けなくもない。90年代と違う点は、ノストラダムスの大予言にあるような「終末」は訪れず、新世紀の幕開けという点もあって、比較的明るい作風になった事だろう。また、デジタル作画の普及によってアニメ制作の負担が減り、作品を量産しやすくなった点もある。映像処理技術が向上し、より高度なエフェクトや効果を施すことが可能になった。

ストラトス・フォー
宇宙のステルヴィア
円盤皇女ワるきゅーレ

中盤あたりになると、京都アニメーション制作の「涼宮ハルヒの憂鬱」の大ヒットをきっかけに、一気にアニメブームに火がつく。涼宮ハルヒの憂鬱は京都アニメーションによる圧倒的な映像美と、安定した作画で話題になった。

涼宮ハルヒの憂鬱

2000年代初期の絵柄と比較すると、全体的なバランスもだいぶ安定してきたようにも思える。また、「ツンデレ」や「ヤンデレ」といった性格の概念も登場し、ツンツンとした表情や見た目でもそこに可愛さを見出す、逆に「萌え」の中にも、狂気を身にまとった表情だが、どこか憎めない等の雰囲気を持ったキャラクターデザインが現れる。「未来日記」や「ひぐらしのなく頃に」は、その狂気的、あるいはスプラッターでショッキングな作風で人気となった。

ひぐらしのなく頃に
未来日記
灼眼のシャナ

一方で有名なイラストレーターやデザイナーを起用する流れも、この頃になるとできてくる。「コードギアス反逆のルルーシュ」では「カードキャプターさくら」や「魔法騎士レイアース」などで有名なCLAMPを招聘し、独特なキャラクターデザインと完成度の高いストーリーで人気を博した。2009年の「けいおん!」ではアニメのキャラクターデザインを、イラストレーターの白身魚こと堀口悠紀子氏が担当し、2011年の「ギルティクラウン」はイラストレーターのredjuice氏がキャラクターデザインを務めた。また、2018年の「色づく世界の明日から」ではフライ氏が起用されている。60年代や70年代ではある程度固定化されていた絵柄も、イラストレーターの起用によって、その個性が生かされるようになってきた。

コードギアス反逆のルルーシュ
ギルティクラウン
けいおん!
色づく世界の明日から

2010年代のアニメのもう一つの特徴としては、SDデジタル制作からHDデジタル制作に切り替わり、映像処理技術と画質が圧倒的に向上したことにあるだろう。細部まで鮮明に映るので、より細かい描写がしやすくなった。「萌えアニメ」とも言うように、女性キャラをどれだけ可愛く描くかに重点が置かれるようになったと言える。目の虹彩や髪のツヤ、頬の赤みが、ケバケバした印象を受けるが、忠実に丁寧に描写されている。「ラブライブ」などがいい例だろう。京都アニメーションの涼宮ハルヒの憂鬱のヒットにより、作画重視の傾向になった事で、よりキラキラした画面が求められるようになった。

ラブライブ!

2010年代も後半になると、派手できらびやかなデザインから、若干淡白で抑え気味なデザインへと少しずつ転換していく。輪郭の線も細くなり、全体的によりスリムになっていく。

ダーリン・イン・ザ・フランキス
SSSS.GRIDMAN

⑤2020年代以降

2020年代を代表する出来事といったら、やはりコロナであるが、アニメの作風も少なからず影響を受けているのだろうか?一番考えられるのは、「コロナによる日常の崩壊」と、ジェンダーレスやLGBTQ等の新しい価値観の台頭だろう。過激な描写、主に性的な描写などがSNSを通して「炎上」する事態もそう少なくない。コロナの影響も依然として残っているが、自粛期間を経たことによる一般層へのアニメの普及やニーズの多様化、「推し活」のブームにより、非常に幅広いコンテンツが展開されている。
そんな中、「異世界転生モノ」や性転換、同性愛を扱った作品が数を増やしてきた。「明日ちゃんのセーラー服」は既存の価値観に縛られない、新しいアニメの方向性を模索したとも言える。この作品に登場するキャラクターは皆それぞれ個性やコンプレックスを抱えており、それと面と向き合って生きている。ぽっちゃり体型の子もいれば、同じ性別の子に初恋をする子に、変わった性癖の子もいる。まさに「みんな違ってみんないい」を地で行くスタイルだ。

明日ちゃんのセーラー服

絵柄はより線は細く、色合いもよく言えば淡白、悪く言うと地味な感じに移り変わってきた。「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」や「アークナイツ」、「リコリス・リコイル」などはその典型だろう。いずれにしても目に優しいデザインではある。

アークナイツ黎明前奏
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
リコリス・リコイル

⑥まとめ

60年代から順にアニメの絵柄を見てきたが、時代を象徴する出来事と作風が結びついているパターンが多く、またアニメも50年の激動の歴史と共に駆け抜けて進化してきたと言っても過言ではない。変化の流れとしては、時代が不安定な時は淡白で地味な絵柄、景気が良いときはフレッシュな作風にシフトすると言う感じだろうか。そして新しい価値観や外的要因によって、大きな変革を受け入れるという点だろう。「萌え」の概念の登場と、LGBTQの台頭はやはり大きい。
これから、アニメがどのように進化していくかは、昨今の目覚ましい技術革新を見ていると未知数の領域である。しかし、変化を逐一追っていくのもまた一興だろう。アニメーションの今後さらなる発展を願うばかりだ。

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