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2つある木造の新耐震基準

 先日の一般向け耐震セミナーで話してきた内容と重複するのですが、木造耐震診断では、旧耐震基準の建物を重点的に補強していくために、国や自治体は補助金をつけてるケースが多いです。これは阪神大震災のときに、新耐震基準の倒壊が旧耐震基準に比べて少なかったことからと言われています。

 被害が少なかったのは、阪神大震災時(1995年)は、新耐震基準施行後14年ほどしか経っておらず、比較的新しかったという側面もあります。また当時はインターネットもなく、法施行後にきちんとした知識が広がるまでに時間がかかり、新耐震がきちんと施工されていたのか?は疑問が残ります。まあそれでも被害が少なかったのは事実のようです。

さて、新耐震基準は実は2つあります。

1つは1981年の新耐震基準です。これは宮城県沖地震(1978年)で家屋被害が甚大だったことから大幅な基準強化が行われました。具体的には、

・必要壁量をが増えた
・耐震上有効な、構造用合板や石膏ボードなど面材の耐力壁の追加

 木造住宅の耐震性は、基本的に壁量で決まります。その基本となる壁量が多くなったのだから耐震性が上がるのは当たり前です。具体的には、重い建物の1階で、24cm/㎡から、33cm/㎡、軽い建物の1階で21cm/㎡から、29cm/㎡と劇的でした。基本的に面積あたりの筋かい等の耐力壁の量が1.3倍以上上がりました。また構造用合板など耐震性に極めて有効なものが壁量に加えられることによって、手軽に耐震性アップの手段が増えたことも大きいです。

もう1つは、2000年改正です。壁量計算などは変わらなかったため、新耐震基準内の変更と捉えることが多かったのですが、今となっては非常に大きな改訂だったと感じます。

阪神・淡路大震災で木造住宅は多く倒壊したのですが、その多くは旧耐震の古い木造住宅でした。しかしながら新しい住宅の被害もありました。詳細に調査していくと、以下のことがわかったといいます(話を単純化しています)。

・基礎土台から柱が引き抜けて倒壊する新しい形の倒壊が増えた
・柱、梁、土台などの接合が不十分で抜けて損傷することが多くなった
・建物のバランスが悪く倒壊した建物が多かった
・地盤が悪くて倒壊した建物が多かった

 実は新耐震になり、構造用合板や筋かいを多く使った建物が増えました。これで耐震的には安心、と思われたのですが、その結果として、柱が引き抜けて倒壊するケースが増えました。これは建物が弱いうちは目立たなかったのですが、耐力壁が強くなったために、柱梁などの接合部の仕様が耐力壁が壊れるまで保たず、引き抜かれてしまったことによります。皮肉にも耐震性のアップが新たな木造住宅の倒壊のケースを作ってしまったことになります。基礎土台からの引き抜きは、建物の倒壊に結びつくことが多くクローズアップされました。梁と柱、筋かいと梁柱土台なども引き抜かれており、金物の重要性が再認識されたのです。

 次に平面的バランスの悪い建物の倒壊が目立ちました。建築基準法施行令では、バランス良くという言葉はありますが、具体的な規定はありませんでした。バランスが悪ければ耐震性が悪くなることは既に明白でしたが、これも建物が強くなったからこそ顕在化されてきました。

 そして地盤です。被災地は旧河川などが多く、そのように地盤が悪いところの建物が倒壊する事例が多くありました。上部構造が良くても地盤が悪ければということが再認識されました。

 震災後、すぐに接合金物を奨励されましたが具体的な法改正は2000年となりました。ここで

・地盤調査の事実上の必須化、地盤による基礎の選定
・継手・仕口の金物の仕様を制定
・バランス計算が必須になる(4分割法、偏心率)

でした。上記の被害を受けて、定められました。そのため新耐震基準でも2000年改正を受けていないそれ以前の建物は耐震性が劣ると考えられています。新耐震が安全と一口に言えないのはこういう理由です。

 最近では耐震等級3が必須では?などとネット上で力説される方々が増えました。建築基準法は「最低の基準」を定めているので今の基準は概ね妥当だと考えられていますが、今後どうなるかはわかりません。構造計算が必須化するのか?耐震等級が更に4,5とか増えるのか?先のことはわかりませんが、自分なりにどれくらいの強さの家に住みたいか?くらいは考え、選ぶことは必要な気がします。

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