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【短編小説】舞うイチゴ #シロクマ文芸部


舞うイチゴ。

桃色の小さなキャンディをぽいっと宙に放る。
大きく口を開けて「あーん」と構え、ぱくりとインすれば大吉。オンが中吉で、アウトなら凶である。
ちなみに20回投げてやっと1回口に入るレベル。私のイチゴ占いに滅多に当たりは出ない。

ところがある時、この占いが劇的な大当たりを魅せた。
親友がクラスいちのイケメン灰谷くんと無理めの恋を実らせたのである。女子たちはこの奇跡に熱狂し、沸きに沸いた。

以来、占い希望の女の子がイチゴのキャンディを持参しては私に祈りを捧げてゆく。大吉が出たら恋が実るから、って。
しかし、親友に幸運を呼んだ奇跡の大吉の後から、私の占いにはぱたりとアタリが出なくなってしまった。投げても投げてもハズレばっかり。軒並み凶で、たまに中吉が出る程度。

そんなある日、隣の席に座る白石くんがおずおずとキャンディを差し出してきた。
「ねえ、俺のも占ってよ」
「いいけど無理だと思うよ。最近ちーっとも入んないから」
彼から受け取ったキャンディの包みをひらいてつるりとまあるい飴玉を取り出し、背筋を伸ばして正面を向く。くんっと顎を上げてから、私はキャンディを目の高さに構えた。

「頼む黒沢、入れてくれ!!」

ぽいっと放り投げたイチゴが宙を舞う。

ひゅーん、ーーーーぱくり。

「マジか! 入った!」
「白石くん、大当たりだよ。ヨカッタね」

その翌日、白石くんはクラスいち大人しいテニス部の繭ちゃんとつきあいはじめた。
これが私の第二の伝説となる。

ごろんとベッドに横になり、顔の真上にピーナツを構える。
ぴん!と弾いた豆が高ーく舞い上がり、ある程度高度を稼いだところで勢いを失って向きを変えた。

ーーーぱくり。

まっすぐに落下してきた豆を私は難なく口の中へと収めてしまう。

ああ、今日も絶好調。

一度目は大好きな親友のため。
二度目は密かに恋をしていたひとのため。

次に恋をしたら、自分のためだけにイチゴを投げよう。


おしまい

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