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ミッドサマー

【ディレクターズカット版はR18+、通常版はR15+です】
人間不信になると噂のミッドサマー、メンタル弱い私は見ない方がいいと言われてきましたが気になって仕方がない!
ということでついに見ることにしました。

※ネタバレ、グロテスクな表現あり。閲覧の際はご注意ください。


主人公のダニーはメンタルが弱い上に、物語の冒頭で家族を失います。
実の妹が両親を道連れにして自殺してしまい、ダニーの心はズタズタになってしまいました。このシーンは薄暗くてあまり見えませんが、ガスを使ったんでしょう。なかなかにショッキングな死に様でした。
ダニーの恋人クリスチャンはずっと別れたいと思っていたようです。
確かにメンタルの病気を持った人を相手にできるのは正しく理解してくれる人だったり、本当に愛してくれていて支えてくれる人でなければ難しいでしょう。経験談でもありますが。

友人のペレ、ジョシュ、マークと一緒にスウェーデンに旅行しに行くことになってから、全てが狂ってきます。
ペレは「共同体」出身だということでみんなでそこへ行きます。独自の文化と言えば聞こえはいいですが、みんな同じような白い服を着て儀式を行っている様は、確かにカルトのようです。入信するだとか、参加を強制するようなことはありませんが、なんだかんだ断りづらい雰囲気があることもあっていろんな儀式を見たり参加させられていきます。

最初の衝撃
共同体に来て初めて見せられた儀式は72歳を過ぎたおじいさんとおばあさんが高い崖の上から飛び降りるところ。おばあさんは顔から岩にぶつかり、頭がぐしゃぐしゃに潰れてしまいます。一方、足から飛び降りたせいでおじいさんにはまだ息がありましたが、杵で頭を砕かれトドメを刺されます。はっきり映し出されるのでかなりグロテスクです。友人に連れられて来た外部の人間は大騒ぎですが、共同体の人たちは黙って見ていました。
共同体の偉い人の話では年齢ごとに春夏秋冬に分けられ、その生命のサイクルを終えた72歳を過ぎれば儀式で自ら命を断ち、死んだ人の名を次に生まれてくる子供へ付けるということです。
明らかに異常な光景ですが、遥か昔から伝わる風習だと言われて仕舞えば…異文化のことは理解出来ないことも多いので、批難するべきことでは無いのかもしれないと思い至りました。
遺体は火葬され、遺灰を先祖の木と呼ばれる倒れた枯れ木の側へと撒かれましたが、共同体の人たちは彼らが亡くなったことを悲しみ、祝福するのだそう。ずっとそうして来たのだから、きっとそれがもう普通になっているんでしょう。…しかしそれにしても心の準備は必要なので、事前に教えておいてほしい内容ですよね。

小競り合い
クリスチャンとジョシュは論文テーマについて口論になります。ジョシュは真剣にこの共同体の夏至祭をテーマにすると、ここへ来る以前から決めていました。一方クリスチャンはテーマも決まっていませんでした。ジョシュが調べた内容を横取りして便乗しようとしているのが見え見えです。恋人のダニーの誕生日を忘れていたり、クリスチャンの嫌な部分が散りばめられています。後にダニーと口論になるシーンも出てきますが、それも喧嘩にしては酷い言葉で彼女を傷付けます。

恋の魔法
綺麗な赤毛のロングヘアーの女の子マヤ。話によればペレが友人たちの写真を見せた時からクリスチャンに目を付けていたようで、彼女はこっそりクリスチャンのベッドの下へ「愛情ルーン」と呼ばれるものを置いたところから始まっていきます。
共同体へ来て寝る場所へと案内される時「ラブストーリー」だと紹介された絵が映ります。そこに描かれていたことが、まさに恋の魔法のかけ方だったんですね。

二度目の衝撃
ミートパイを全員で食べるシーンがあります。一見リンゴジュースみたいな飲み物とミートパイはランチなんですが、クリスチャンの飲み物だけ少しオレンジっぽいのが気になります。そして、クリスチャンが食べたパイの中からは毛が出てきます。
恋の魔法の絵の通り、マヤは自分の陰毛をクリスチャンのパイに混入し、彼の飲み物に血(おそらく経血)を混ぜたのでしょう。
何かしらの毛が入ったパイも嫌ですが、普通ならみんなと色の違う飲み物は気持ち悪いですし、味も違和感があるはずです。でもクリスチャンは何か言うでも無く、毛を口から出しただけで飲み物も口にしました。
…強烈なインパクトのあるシーンでした。マヤはダニーからクリスチャンを奪うつもりなのか、それとも話したことは無いけれどもそんなことをしてまで手に入れたかったのか…この時点ではまだ分かりませんでした。

処罰
マークは先祖の木を知りませんでした。うっかりそこで用を足してしまい、とんでもなく怒った共同体の人に怒鳴り散らされます。困惑するマークをよそに号泣していました。彼ら共同体の人間にとっては墓石のようなもので、とても大切な木です。彼らの気持ちを軽んじたことが原因か、マークはどこかに連れて行かれて戻って来ませんでした。
ジョシュも悪いことをします。神聖な書を特別に見せてもらった時、写真を撮るのは絶対にダメだと言われていたにも関わらず、夜中に一人抜け出して写真を撮ってしまいます。マークかと思われる誰かが扉の前に立っているのに気が付きますが、下半身は何も身につけていません。異様な雰囲気です。そこで頭を強打されました。頭が割れて小さく痙攣するジョシュ。そのまま引きずられて、彼もどこかへ消えていきました。
共同体の掟やマナーを守れないと、きっと処分されてしまうんでしょう。

ダンスバトル
体力が尽きて倒れるまで踊り続けるというものですが、渋々参加させられたダニーも楽しそうに笑いながらたくさんの女の子たちと踊ります。辛いこともたくさんあった中、ダニーの笑顔が見られて少し安心しました。
しかし時々ダニーは頭がぼんやりしたり幻覚のような物を見て来ましたが、この辺りから視聴者を不安にさせる奇妙なものが映っていることに気付き始めます。
そして仕組まれたようにダニーがダンスバトルに勝利し、女王になります。
ダンスバトルの最中、クリスチャンだけに不思議な飲み物が渡されます。これも恋の魔法を成功させるためのものでした。

奇妙なもの
女王になったダニーは花の冠を被せてもらい、全員から祝福されます。
しかしこの冠、彼女の右目の上の花が…まるで呼吸しているように息衝いているんです。花の中心が縮んだり広がったり、気味が悪くて仕方ありません。
ダニーが座った草の椅子も、ゆっくり茎や葉がうねっています。
ペレがダニーの絵を描いているシーンでも、花冠の部分がぐにゃりと動きます。
女王決定の祝いの食事シーンですが、クリスチャンの様子が明らかにおかしくなってきています。さっきの不思議な飲み物のせいなのか、今までの魔法が効いているのか…そもそも魔法というよりは呪術のように思いますが。

クリスチャンとマヤ
ダニーがしきたりに従って女王のするべきことをしている間、ついにクリスチャンは導かれるままある部屋の中へ通されます。
様子のおかしいクリスチャンはそこで精力を強める煙を嗅がされ、13人の裸の女性たちがいる室内へ。部屋の中心で誘うのはマヤです。
クリスチャンの気持ちがどこにあるのか、まともな状態なのか、トリップしたような感じなのかはよく分かりませんが、12人の裸の女性の前でマヤと体を重ねます。周りで歌ったりして、これも奇妙な空間です。
全てが終わった後、マヤはお腹の中に赤ちゃんを感じると言って喜んでいますが、クリスチャンにはもう興味が無さそうです。なるほど、と思いましたね。
外部からの人間が来た時にはこうして妊娠する機会をつくり、必要な時以外の近親交配を避けて来たんでしょう。

ダニーと共同体の姉妹達
クリスチャンとマヤ達がいる部屋へ行こうとするダニーを共同体の姉妹は止めますが、ついにダニーはクリスチャンとマヤの交わりを見てしまいました。
逃げるように出てきたダニーを姉妹達は慰めるように囲み、一緒に泣きます。
このシーンの違和感は、まるでみんなダニーの呼吸や泣き声、表情を真似しているように感じたことです。不自然なほど同じタイミングで息を吸ったり声をあげたりしていますが、ダニーにどう見えていたかは推測でしかありません。
一緒に悲しみを共有してくれているように感じたかもしれませんし、辛い時にみんな傍に居てくれる安心感を感じたかもしれません。

クリスチャンの運命
マヤとの交わりの後逃げ出したクリスチャンは薬で気を失わされ、目覚めた時には話せず動けない状態で車椅子に乗せられています。
人間の命を捧げる儀式が行われ、共同体の数人と外部の人間が捧げ物になると告げられます。最後の一人を選ぶのは、女王であるダニーです。
薬や魔法のせいであったとしても、マヤとのことを見たダニーはクリスチャンを最後の一人に選びました。冒頭から上手くいっているようで上手くいっていなかった二人。仲直りする努力も垣間見えましたが、ペレからクリスチャンは支えになっているか、というようなことを言われたこともクリスチャンを選ぶ要因になったかもしれません。
一つの場所に集められた既に死亡している人たちは目や口に草や木、花などを詰めて飾られ、生きている共同体の人は生きたまま。クリスチャンは内臓を抜いた熊の皮を着せられ、同じく生きたまま焼かれてしまいました。

そして最後、焼け落ちる建物を見つめていたダニーは、笑顔でした。

最後のダニーはどういう気持ちだったのか考えて見ました。
恋人を生きたまま焼き殺したのに。
今までに感じてきた怒りや憎悪、裏切られた悲しみでしょうか。
きっと、彼がいなくても支えてくれる「家族」と自分の居場所を見つけたからなんじゃないかと思います。
家族を失ったダニーにとって、そばにいてくれるのはクリスチャンだけでしたね。離れようとする彼を必死に引き止めるシーンもありました。
でも、もう今のダニーには彼は必要なくなったんでしょうね。

何もかも全部、ペレを含む共同体メンバーによって考えられたシナリオ通りなんでしょう。
奥が深くて面白い作品でした。
聞いていたように誰も信用できなくなったり胸糞が悪いようなこともなく、意外にもさっぱりしていたように思います。
人間ってこんな感じだよなって妙に納得しました。

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