インドネシア語のこと #2:朝鮮語に似ているところ?
この記事はまつーら先生の企画された「言語学な人々 Advent Calendar 2021」の一環で、21日目の記事として執筆しています(この番組はご覧のスポンサーでお送りしています、的な)。
朝鮮語文法をメインに研究しているわたしが、なぜインドネシア語を勉強しているのかについては、過去の記事をご覧ください。今回は朝鮮語とインドネシア語に共通する点について気付いたことを紹介します。まったく研究のようなものではないので、その点はご了承ください。
インドネシア語の基本語順はSVO(主語—述語—目的語)で、形容詞などで名詞を修飾する場合も、「花 赤い」のような語順になります。朝鮮語は日本語と同じくSOVで「赤い 花」という語順なので、インドネシア語とは全然似ていません。(1) では「わたし 読む 本 これ」となり、「これ」が後から「本」を修飾しているのがわかると思います。
特にインドネシア語と朝鮮語で似ているところもないかと思っていたのですが、ひとつ妙に似ているところを見つけました。それがインドネシア語の接頭辞 ter- と朝鮮語の接尾辞 -(a/e)ci- です。インドネシア語の接頭辞はいろいろな意味機能があって、勉強しているとなかなかやっかいなんですが、ter- によって派生される動詞はだいたい次のような意味を持ちます(ter- は他にも形容詞の最上級を派生させたりもして、明らかに過重労働です)。
① 非意図的
② 完了
③ 可能
朝鮮語の -(a/e)ci- は基本的に自動詞を派生させます。朝鮮語の -(a/e)ci- も形容詞に付き「〜くなる」(よい→よくなる)という意味を表したりしますが、上の①〜③の意味を表すことができます。ただ、インドネシア語の ter- も朝鮮語の -(a/e)ci- もどんな動詞に付くかがある程度決まっているので、重なるところとそうでないところがあります。詳細に見るとあまり重なっていない気も…。ものすごく似ているというわけでないところが、むしろわたしには混乱ポイントです。
① 非意図的
ある動作を自分の意図とは異なり、うっかり行ってしまったことを表します(これ以降、グロスでは ter- を TER、-(a/e)ci- を CI と表記します。グロスは全て引用者によります)。
実は、この例はたまたまインドネシア語も朝鮮語も同じようなことを表している例を持ってきただけです。インドネシア語のほうは他動詞に ter- が付いて「うっかり踏んでしまう」なども言えるんですが、朝鮮語の -(a/e)ci- ではそのようなことは言えません。
② 完了
ある事態が完了していることを表します。
この例にしてもたまたま同じようなことが両言語で表現できているだけです。インドネシア語は jual(売る)に ter- が付くと「売り切れている」になるんですが、朝鮮語では -(a/e)ci- が付いてもそんな意味にはなりません。一筋縄ではいかない感じです。
③ 可能
「〜できる」という可能の意味を表すこともできます。
この例の場合は同じような例を朝鮮語で作れなそうだったのでちょっと違うパターンですが、可能という意味を表しているのは共通していそうです。これまでの例と同様、インドネシア語と朝鮮語は接辞が付く動詞があまり重なっていなかったりします。
これまで朝鮮語の -(a/e)ci- の意味分類については若干懐疑的なところもあったんですが、インドネシア語を見ていると、それでもいいのかなという気もしてきました。おそらくどちらの言語もある動作の結果に焦点があるところから上で見たような意味が出ているんだと思いますし、他の言語でも似たようなことはありそうです。例をご存じのかたはぜひ教えてください。今のわたしのインドネシア語レベルでは到底朝鮮語との対照研究なんてできませんが、なんか微妙に違う、というぐらいが対照するにはおもしろいので、今後研究できればな、とは思っています。 -(a/e)ci- に関しては北海道方言の「〜サル」と対照されることもあったりしてそれはそれでおもしろいんですが、その話はまた別の機会に。
(この記事はなかなか書かさらなくて苦労しました…)
参考文献
原真由子 (2020)『インドネシア語』大阪:大阪大学出版会.
Sneddon, J. N., Adelaar, K. A., Djenar, D. N. & Ewing, M. (2010) Indonesian: A Comprehensive Grammar, 2nd edition. London: Routledge.
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