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長年の相棒

去年、25年間愛用した私の自転車がパンクた。
これまでも何度かパンクをしていたが、さすがに最近はパンクするサイクルが早い。


修理に持っていった自転車屋さんはとても熱心な若いお兄さんたった。

「もう、溝がないっすね。このタイヤ。パンク修理でもいいですけどまたきっとすぐにパンクしますよ。」

と言うので、
「じゃ、タイヤ交換でお願いします。一番安いタイヤで」

すると、
「あぁ、チェーンもだいぶ緩まってますね、よく外れたりしませんか?」

と言うので、
「うん、確かに、、最近よく。そのたび頑張って直していますけど、それって当たり前のことなんじゃないんですか?」

「自転車のチェーンは長いこと使っているとどんどん緩んでくんっすよ。だからたまに締め直したりして油をさしたりしてあげないといけないんです。どのくらい乗っているんですが、この自転車。」

私は、指を折り始め、、、

「かれこれ、、20年?結婚する前からだから、25年くらいかな?」
「四半世紀じゃないです!天然記念物ですね。自転車の寿命はだいた10年ですよ。よっぽど大事な自転車なんですね。」

いやいや、そんなことはない。
自転車なんて乗れればいいって思っているし、私にとって自転車は消耗品ではないので買い換えることなんて考えたこともない。

でも確かに、この自転車はその昔「ビビットカラー新発売!」とイトーヨーカ堂の店頭に並んでいた綺麗な真っ赤な自転車で、一目惚れで衝動買いしたものだったから、そんな思いもあるのかな?


30分もかからないうちに自転車は新しいタイヤに変わっていた。
お兄さんは私のチェーンの緩みも直してくれて、そのほかのメンテナンスもしてくれた。

この人は本当に自転車が好きなのかな?と思った。別に自分の店で売っている自転車を進めるわけでもなく、ただ油まみれの手を素早く動かして、夢中になって私のオンボロ自転車を修理していた。

「もしかしたらまたすぐにチェーン外れちゃうかもしれませんけど」

そう言ってお兄さんは私のわからない専門用語を並べ始めて、私の自転車の悪いところを並べ出した。

パンクの修理だけにいったのに、なぜだか、小一時間ほど自転車屋さんにとどまっていた。


それから1年後。

私の自転車はついに寿命が来たようだった。

チェーンの外れる回数は増え、ブレーキの掛かりも悪い。
去年変えたタイヤではない方の、前輪のタイヤはよく空気が抜ける。そして。


「パンク修理お願いします」
と、あの自転車屋さんにいった。

お兄さんは相変わらず油まみれの手で別のお客さんの自転車を直していた。

「ちょっと待っててください」

というので、私は店においてある自転車を見ながら待っていた。

お兄さんは相変わらずうんちくがすごい。接客中のお客さんにもいろんなアドバイスをしていた。
聞く人が聞けばうるさがられるほどだった。


「お待たせしました」
「前のタイヤなんですけどね」

そう言って私の自転車を見ながら「やっぱり、こっちももう溝がないですね」

「こっちも?あ、私、去年後ろのタイヤ直してもらったんですけど」
「覚えてますよ、でもあれから1年も乗れたんですね、でももうそろそろ限界かもしれませんよ、ここまで来ると事故になることもあるかもしれないし、タイヤ交換でいいですか?」

「じゃ、一番安い自転車って、どれですか?」

「えーっと、これっすかね」

営業なんて言葉を知らないかのような簡単な対応で進めてくれたのは、なんの変哲もない9,800円の自転車だった。

「今まで乗っていたのは、ギアがついていたから、こっちはついていないんで結構いろいろしんどいと思いますけど」
「大丈夫だと思います。ギアとかよくわかんないので。使ったこともないし。」
「一回も⁉︎」
「回してみたことはあるけど、どう言う意味かわからなかから、そのまま」
「坂道とか楽になるのに」
「そうなんだ、でも坂は坂でしょ?」


そんなこんなでいろいろと説明を受けているうちに一つ気に入った自転車があった。

「24インチってなんですか?」
「タイヤの大きさっすよ。うん、これならギアもついているしいいんじゃないですか?お客さん小柄だし。これまでよくこの27インチの自転車に乗れてましたね?」

「色が気に入っただけなんで」
「でも、自転車のタイヤが小さいと、足、グルグルと一生懸命回すことになるから疲れるかな?」

お兄さんはちょっと笑いながら
「そのためにチェーンがついてるんっすよ。ギアもあるから、調整してくれるし、その辺で言えば今までのもと乗り心地は変わんないと思いますよ」


こうして私は26年、愛用した自転車に別れを告げた。

お会計の時、置いていく私の自転車の写真を撮って、油まみれの手でお兄さんが渡してくれた。

この人本当に自転車好きなんだ、と思った。

帰り道、新しい自転車ってこんなに爽快なんだ!と
まるで映画の一片にいるかのような気分で、風を切りながら走った。

スイスイ走る自転車に乗りながら、思い出して、ギアとやらを回してみました。

でも、やっぱりなんのことわからないのでそのままして、

ずっと、このギアはこのままで、いつか来る買い替えの時を待つのだろうと思った。


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