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【WACK】零街の片隅へ2

先ほどまでの喧騒が嘘のように辺りは静まり返っていた。

ここはもはや人々の記憶から忘れ去られようとする場所、零街。始まりの街であり、終わりの街である。

は慣れた足取りで、生き物の気配さえ希薄な、入口を固く閉ざした店々の前を進んでいく。

幾つの筋を数えただろうか、ある扉の前に立つと不可思議な紫色の光を帯びた扉の一部分に、覗き込むような形で視線を合わせた。

その目前に、あたかも以前から存在していたような確かさで下り階段が現出する。深い闇の向こうにある微かな光の源に向かって、前足を踏み出し、は闇へと溶けた。

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「やあ、ゆきみん。空間の連結に成功したって?」

無造作に虚空に話しかけると、光の粒子が緩やかに集積を始め、いつしか人型を取り始める。

「さすが耳が早いのね。」

薄いローブを纏い、にっこりと笑みを浮かべた女性、志彌-ゆきみ- の涼やかな声が響いた。

「ああ、面白い実験をしていると聞いて、矢も盾もたまらず、飛び出してきたよ。」

「あら、それで狼の姿なのね。」

「この方が早いし、ゆきみんなら言葉もいらないからな。」

志彌の笑い声が響き合う。

「…じゃあ、時空巡りいっておいで!」

志彌は、ルーンダイスを数個左手に持つと、それを虚空に放り、詠唱を始める。

空に留まったダイスは紫の光を放ちながらゆっくりと円を描きはじめ、それとともに円の中心に力場が発生する。

「んじゃ、行ってきまーす♪」

は遠足でもいくような気軽さで、その力場に飛び込む。そのまま空間に吸い込まれるように姿を消した。

「…ただいまぁ!スタンプラリーとあみだくじとはね笑新しい世界に連れて行ってもらって、ゲーム要素もありとは、やるなあ。(ステマ)」

「あみだくじで副賞もらえるってワクワクするでしょ」

「もうすぐ、ゲート閉じちゃうんだな。…あと3、4日といったところか。また誰か連れてくるとしよう。…ところで、ゆきみん、時間があるなら、また君の話も聞かせてくれないか。」

紫光の残滓が、狐火のように微かに揺らめいていた。

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この記事はこちらの記事と世界観が連動しているよ。




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