娘たちへ
いつかこれを読む三人の娘たちへ。
母はいま、授乳の合間の虚ろな夜のなぐさめに
急に思い立ってこんな場所にものを書き散らすことを思いつきました。
どうしてかって、最近母はねーねの質問に全然答えてあげられないからです。
「おかーさんって、どんな子だったの」
「どんな遊びしてたの」
「なにが好きだったの」
さあ、どんな子だったんでしょう。
どんなふうに遊んでいたんだっけ。
どこで、だれと、どんなふうに
……。
わかりません!忘れました!
あなたたちは信じられないでしょうが、母は本当に、真剣に覚えていないのです。
あなたたちと同じ年の頃、
自分がなにをしてたかこれっぽっちも覚えてないのです!
だって、もう二十年以上前のことなんですよ。
二十年。
想像できるでしょうか?
まだ十年も生きていないあなた達には、きっと途方もない時間でしょう。
なんて大げさに言ってみましたが、本当のところ、母はいつでも自分がどんな人間か分かっていません。
覚えることも苦手ですから、どんどん忘れていってしまうのです。
だから就職活動なんか、とても苦労しました。
(どうして苦労したかは、もっと大きくなったら分かるでしょう。それまでどうか、分からないでいてください)
じゃあ、どうしようとウンウン唸って、母はようやく自分が何が好きだったか思い出したのです。
本です。
ねーねと同じくらいの年の頃の母は、お勉強よりも本を読むのに夢中でした。
小学校の図書館には素敵な本がいっぱいありました。
文字を覚えはじめると、もう楽しくて楽しくて。
知らない世界があって、知らない言葉があって、
知らないもの、見たことないもの、想像もしなかったものがたくさん。
そんな本に、母は夢中になりました。
(もちろん、漫画もその頃から大好きでしたよ)
大お婆ちゃんには、友達と遊んだお話より今日読んだ本のことばかりを話していました。
子供の頃からそんなでしたから、本に囲まれたところで働きたくて、非常勤の司書(図書館にいるお姉さん)だったこともあるんですよ。
確かに母は、自分がどんな子だったか、今現在どんな人間か上手に説明できません。
でも、今まで読んできた好きな本、そして今読んでる本のことならお話できる気がします。
思い出話も交えながら、ゆっくり話していこうと思います。
難しい字や言葉があったら、辞書をひくこと。
母には聞かないでください。
照れくさいから。
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