某、日

裁判所からの帰り道、律は色んなことを考える。
裁判の傍聴が趣味である私は近くの簡易裁判所に休みが合うと行くのである。証拠写真にあった血がついたティッシュを思い出す。不倫相手に暴力を振るい、殺してしまった彼の髪型やスーツの色、思い出したあとに、裁判の傍聴に行ったことを後悔した。毎回落ち込み、次は行くまいと思う。今日は特にそう思う。律には3人の恋人がいる。妻子持ちだったり幸薄そうな独身男性だったりかわいらしい女の子だったりする。1人目のその人を想い胸が苦しくなる。いつか離れよう、そう決めてからもう1年が経とうとしていた。
帰り道に今日が給料日だったことに気がついた。就職して数年、律は貯金することに快感を覚えている。次は愛でも買えたらいいのに。2つの会社の代表取締役であったらしい被告人席に座る彼と自分に向けて思う。

實は今家で酒を飲んでいる。
顔を腫らし、倒れている彼女は愛人である。
實は、自分より2つ下の妻と成人した娘がいる。愛人である円香は娘と大して変わらない年齢をしている。私はこれからどうなるのだろう。刑務所に行くのだろうか。長年大人をしているものの、法に触れることなど1度もしたことがないのでよくわかっていない。会社に戻れないことは確かである。円香はうちの会社の事務員でもある。皆驚くだろうか。
めんどくさい。そう呟いて119番を押した。

円香は嘘をついていない。本当に浮気などしてないのだ。實は信じてはくれない。
今日あった会社の飲み会の帰り道、私は慎二さんと帰った。しかし帰っただけである。實はそれを目撃しただけだ。慎二さんと仲良くなったのは最近のことだ。彼は私と實の関係を知っている。慎二と實は義理のとはいえ親族だからだ。實がDV気質であることを私は相談したことがあった。すると彼は自分の家の合鍵を私に渡した。避難場所に使って、と。
家に帰ってきて着替えているとインターホンが鳴った。すぐに服を着て玄関を開ける。實はかなり酔っ払っていて、私に抱きついた。
「お前、浮気してるだろ。
最近はこればかり聞かれる。なにがあって不信感を募らせているのかわからないが浮気はしていない。
「カバン、貸せ、表のポケットに慎二の家の鍵があるだろ。どういうことだ
いつ見たのだろう。返事を考えていると頭に衝撃が走った。振り下ろされたのはイスである。そうか、私は今から死ぬんだ。

続く

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