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乃木坂10thバスラの余韻〜「おかえり」と「行ってきます」が交差する場所で〜②

【DAY1】5月14日(土)

17曲目「ここにいる理由」で、卒業生・伊藤万理華がステージに登場。選曲がシブい。彼女の卒業(2017年 東京ドーム公演)以降、この曲ももちろん歌い継がれてきた。

けれど、オリジナルメンバーの登場は、楽曲本来の意味を思い出させてくれる。“ここにいる理由”というタイトルそのものが、奇しくも彼女が戻ってきた理由を示してくれる。

オリメンのセンターは、生駒ちゃんしかり、まるでステージに大樹が屹立しているような圧倒的な存在感を示してくれる。楽曲が今もちゃんと生きていて、呼吸していて、なお成長し続けていることを教えてくれる。

「おかえり」

手を伸ばせば届きそうな距離にいる彼女に、そう声をかけたくなる。

胸の内に込み上げてくるのは、懐かしさや郷愁の気持ちばかりではない。もっと別の感情だ。それは一体、なんだろう?何がこんなに心を揺らしているのだろう?

DAY1のセトリは、半数以上が2016年発表までの楽曲で構成されている。初めて乃木坂を知った頃の楽曲ばかりなので、当然懐かしさに溢れている。気のせいか、この頃の楽曲にはどこか切ないノスタルジックな魅力がある。1期生・2期生のメンバーの多くが、まだ幼かったこともある。ミッション系の学校の登校風景や放課後を垣間見ているような、あどけなさと不器用さ、背伸びをしたような初々しさが合わさったセピア色なのだ。

それがふと変わるのが、2016年ブロック。23曲目「ハルジオンが咲く頃」。24曲目「サヨナラの意味」。MVの美しさは随一だと思っている、僕が一番好きな選抜メンバーの楽曲。この2016年ブロックのイントロダクションとなるVTRは、ナレーションを窪田等さんが読んでいた(と思う。間違っていたらごめんなさい)。

「あの人はなぜ、いつまでも愛されるのだろう」

深川麻衣、橋本奈々未。2016年に卒業を発表した2人の卒業生にスポットが当てられる。ナレーションの声が、じんと心に沁みる。本当に沁みるのだ。嘘じゃない。卒業のその瞬間に、燦然と光を放った2人。その光が今も尊いから、6年近くを経た今でも、少しのきっかけで当時に立ち戻れる。記憶は蘇る。

もちろん、一瞬、ひょっとすると2人が登場してくれるのではないかと期待した。2人が登場することはなかった。会場のどこかにいてくれたかもしれない。いなかったかもしれない。どちらにせよ、「登場しない」ことが正解だろうと思う。あの最後の光が尊いから、そのままにしておきたいと願うから。

心の中で「おかえり」と言ってみる。

「ただいま」

◇                      ◇      ◇

27曲目。ここから周年ブロックへ入っていく。「絶望の一秒前」。最新シングル「Actually…」に収められた今年の楽曲だ。ラップを織り交ぜた、メロウなナンバー。ステージには加入したばかりの5期生11人が上がる。

それまでの円熟した魅力とは趣が全く異なる、清廉で真っ直ぐな(原色の絵の具をパレットに並べたような)眼差しが客席に飛び込んで踊る。

不思議な感覚だった。一瞬、感情が追いつかなくなる。懐かしさの中に、突然、新しい萌芽を見出す。夢の中で、別の夢を見るということが時々あるけれど、それに近い浮遊感が心を捉える。

さっきまでステージを覆っていた卒業生たちのイメージが、消え去るのではなく、色と形を自在に変えていく。その中心に、僕は放り出されている。

◇                      ◇      ◇

駅のホームに僕は立っている。とても寂しいプラットホームだ。電車が大きな車体を震わせて、車掌は信号機が赤から青に変わるのを待っている。

大きなトランクを持った彼女は客車に乗り込むと、こちらに眼差しを向けている。

出発を告げるベルが寂しげなプラットホームに響く。時間だ。もう行かなければいけない。

遠くで犬がキャンキャンと鳴いた。行き交う人々の声がさざ波のように寄せては返していく。

「行ってきます」と彼女は言った。

僕はその言葉に込められた意味を探ろうとする。その「行ってきます」は、もうここには帰ってこないという「行ってきます」なのか、いつか帰ってくるという意志のこもった「行ってきます」なのか、にわかに分からない。

僕がまごついている間に、電車のドアは低いピストンの音を響かせて閉じてしまった。

一瞬の静寂。

「いってらっしゃい」と言葉をかけたが、僕は彼女の言葉の意味を本当に理解しているだろうか。彼女に向けて告げたことだけは間違いない。

走り去っていく電車。僕は置き忘れられたようにプラットホームに取り残された。

同じ電車から、誰かがプラットホームに降り立った。真新しいトランクを重そうに抱えて。不安げにきょろきょろと見慣れない駅を見回す姿は、かつての彼女と瓜二つだった。時計が12時を指した。新しい一日の始まり。

◇                      ◇      ◇

ただいま、おかえり、いってらっしゃい、さようなら。

乃木坂46という場所では、いくつもの挨拶が交差する。ターミナル駅のプラットホームのように、巨大な交差点のように。出会って、別れて、再会して。

10周年ライブの初日、僕の胸を震わせ、揺らし、締め付け、さまざまな感情を呼び起こしたものの正体は、流れ星のように行き交う彼女たちの軌跡だった。

(③に続きます)

【DAY1 セットリスト】

OVERTURE
01. ぐるぐるカーテン
02. おいでシャンプー
03. 走れ!Bicycle
04. 指望遠鏡
05. せっかちなかたつむり
06. 狼に口笛を
07. 制服のマネキン
08. でこぴん
09. 他の星から
10. バレッタ
11. 君の名は希望
12. ロマンティックいか焼き
13. ガールズルール
14. 気づいたら片想い
15. 夏のFree&Easy
16. 何度目の青空か?
17. ここにいる理由
18. 命は美しい
19. 僕がいる場所
20. 今、話したい誰かがいる
21. 太陽ノック
22. 悲しみの忘れ方
23. ハルジオンが咲く頃
24. サヨナラの意味
25. 裸足でSummer
26. きっかけ
27. 絶望の一秒前
28. ごめんねFingers crossed
29. インフルエンサー
30. 他人のそら似
31. I see…
32. スカイダイビング
33. 君に叱られた
34. ジコチューで行こう!
35. 夜明けまで強がらなくてもいい
36. 僕は僕を好きになる
37. Sing Out!
EN1. 会いたかったかもしれない
EN2. ハウス!
EN3. 乃木坂の詩


*冒頭サムネイル画像の出展:乃木坂46公式twitterより
2022年5月18日

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