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緑のおはぎ



「こんにちは」

トンボ眼鏡に古い自転車
荷台に巻かれた漆の箱

お爺ちゃんは
緑色のおはぎを届けてくれる

世間話もそこそこに
母はその箱を持って家に入る

私はこのおはぎが大好きだった



緑色のきな粉に粒の粗い餅
中にはたくさんのあんこが入っている

このおはぎは何故緑色なのか
スーパーに並ぶ物と何故違うのか
その時の私にはわからなかった



「こんにちは」

焦茶色の縁側
白いふわふわと優しい笑顔

「よくきたね
おはぎはおいしかったかね」

人見知りの私は
そのお婆ちゃんの問いかけを
母で受け止めた

そんな私に母は呆れながら
世間話もそこそこに
漆の箱を失った車へ戻った


※※※


「このお米、
冷めるとお餅みたいになるのよ」

久しぶりに帰った実家で母が言う

「おはぎにしたら?」

あなたが作ってと言われたので
勘を頼りに作り始める
工程を重ねる毎、作る難しさを知る


あのお婆ちゃんのおはぎが食べたいな


ふと緑色のきな粉を思い出した
私が作ったものはあまり上手ではなかったが
両親は美味しいと言ってくれた


ああ、そうか
あの時美味しかったよって
一言言えたらよかったのに


「またあの緑のおはぎが食べたいね」

お婆ちゃん、おはぎ美味しかったよ
お爺ちゃん、届けてくれてありがとう


もう食べられないあの味を
崩れたおはぎで噛み締める

 

小さな後悔のお話

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