【UCA北西部、地下シェルター基地 ① :アズール、アウェアネス】ア・モーメント・オブ・ニンジャ・ライフ

『ア・モーメント・オブ・ニンジャ・ライフ』。ニンジャの生活のワンシーンを切り取った短編です。

「ここまで慎重に進んできてなんだが……」

 アウェアネスは首を巡らせ、後ろを歩くアズールに声をかけた。彼女のターコイズブルーの瞳がサイバネ・アイを見据える。彼は進行方向を指差して言葉を続けた。

「そこのフロア。1ダースほどの……これは……クローンヤクザだな。お出迎えの準備をしているらしい」アウェアネスは両腕のサイバネ機構を展開させ、扇じみた奇妙なアンテナ状の装置を起動させる。「派手にやっても構わんか?」

「いいよ」アズールは平然と返す。「そっちの方が慣れてるし」

「頼もしいかぎりだ」

 肩を竦めてみせ、アウェアネスは先を進む。冷たく分厚い金属の扉、備えられた電子ロックを容易く解錠し……押し開く。

「イヤーッ!」

 身を乗り出して室内にエントリー。一斉にチャカ・ガンがアウェアネスに向けられる!

「「「ザッケンナコラーッ!!」」」

「イヤーッ!」フォワウフォワウフォワウ!展開された扇アンテナから特殊音波が放たれ、クローンヤクザ部隊のニューロンを沸騰させ……爆ぜさせた!

「「「アバババーッ!?」」」

 一斉に爆発する頭部、吹き散らされる脳髄のカケラと血肉!コワイ!喧騒は静寂へと置き換わった。アウェアネスはザンシンし、アズールを手招く。

「まぁ、こんなもんか……直に騒がしくなるだろうが」

 足を踏み入れたアズールは死屍累々の様を一瞥し、彼に話しかけた。

「ニンジャには効くの?」

「試してみるか?」

 言いながら腕を彼女の方に向けると、既にアズールの手に持つ大口径のリボルバーがその銃口を彼の方に向けていた。

「どっちの頭が弾け飛ぶかを?」

 無表情のままにアズールは言う。アウェアネスが苦笑しながら腕を下ろすと、アズールも銃を下ろした。49マグナムを。それはライトウッドの奥地で手に入れた、彼女の今の得物。以前アウェアネスがアズールと共同で依頼をこなした際は、まだ彼女はそれを手にしていなかった。

 その威力の凄まじさは……ここに至るまでの道中で、アウェアネスは充分に理解している。

「冗談!そんなことすりゃ、アンタのリボルバーが俺の頭を吹っ飛ばすだろうさ。……で、このテックだが……ニンジャには実際、効き目が薄い。世の中、うまくはいかんものだ」

「そう。死にはしないのね」

「……どう捉えるかは自己責任だ。まぁ、あまり前に出んように、とだけ言っておこう」

「死にはしないのなら、別に。私に構わず、使ってくれていい。堪えるから」

「……頼もしいかぎりだ」

 アズールが肩を竦めてみせた。アウェアネスは彼女に顎で進路を指し示し、感知を続けながら先を進む。アズールもそれに続く。

 ……暫くしてからアウェアネスが彼女を制止した。緊迫したアトモスフィアをもって。

「ニンジャ?」アズールが訊ねる。「ああ、ニンジャだ。アズール=サンは、カンがいいんだったな」アウェアネスはニンジャ集中力を高めた。ここまでの歩行距離、見てきた施設内の構造、ニンジャ以外の人員の感知とその配置、それらから地下シェルター内の全体図を予想し、感知したニンジャソウルの位置と照らし合わせる……。

「正確な場所がわかるの?」「ン?ああ……そうだな」「そう」

 アウェアネスの隣りで、アズールが片膝をついて屈み込んだ。そしてリボルバー持たぬ方の手を床に向け、人差し指を突き出す。アウェアネスが眉根を寄せると、彼女は言った。

「そのニンジャまでの道のりを教えてほしい」アウェアネスは訝しむも、言葉を紡ぎ出した。「……ここから……10メートルほど直進……」アズールは眼を閉じ、人差し指を真っ直ぐに動かして床をなぞる。

「……T字路に突き当たる……今のアズール=サンから見て左に曲がって……6メートルほど進む……」指の軌跡が左に曲がって進む。「……L字角を曲がって8メートル進んで……左に扉……そこに空間がある……今さっきのクローンヤクザのところと同じくらいの広さ……」指が進路をなぞっていく。「……その中央にニンジャがいる……これは……扉から背を向けて……ザゼンでもしているのか?動きがない……」指が止まる。閉じていた眼が開かれる。その空色の瞳には、神秘的な淡い光が宿っている。

 アズールは虚空に向けて何かを呟いた。

「……これは……」アウェアネスの感知していたニンジャソウルが……消えた。彼はアズールの方へ視線を向けた。彼女がもう一度呟くと、開かれた空色の瞳に宿った光は薄れて消えていった。

「随分と恐ろしいジツを使うんだな」

 アウェアネスの言葉に少女は淡々と返す。

「普段ならこういう使い方はしない。あなたの恐ろしい感知能力のおかげ」アズールは彼の方を見やった。「頼もしいかぎり」

「そりゃドーモ……」

 アウェアネスは嘆息混じりに返答するのだった。

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