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CHAGE and ASKA「ひとり咲き」はデビュー前後でこんなに違った

CHAGE and ASKAがついにサブスク解禁し、名曲揃いのベストアルバム『VERY BEST ROLL OVER 20TH』がフリーで聴けるようになっています。

CHAGE and ASKAは今は活動を休止しているものの、動いていた時代だけでも活動の年数が長く、だからこそファンは自分の好きな楽曲を抜き出してプレイリストを作っていたりするので、こういった年代順に並んだベストアルバムを通して聴く機会は新鮮な喜びを耳に与えてくれますね。

久しぶりにじっくり味わってデビュー曲「ひとり咲き」からの変遷を聴いているので、書きたいことが頭に次々と浮かんできます。
これまで私はかなり気まぐれに曲を選びつつ、歌詞についてをこのnoteに書き残していたので、『VERY BEST〜』におさまっている曲は名曲揃いなのに取り上げていないものがいくつもあるなぁと、改めて自分の気まぐれさにがっかりしています。

今日はなんとなく、備忘録としても1979年、私と同じ年に誕生したデビュー曲「ひとり咲き」について書き残しておきたくなりました。

「ひとり咲き」については、古くからのファンの方が見てきた景色と重ね合わせた方がうまく語れると思うのですが、私の中にビビッドに残っている記憶というのは一つしかなく、すなわち高速道路のサービスエリアで、いわゆるデコトラのボディに「燃えて散るのが花 夢で咲くのが恋 ひとり咲き」と達筆な筆文字で描かれていたのを目撃し(おおっ…!)となったことですね。

古い日本的な情念、ワードセンス、リズム感。「ひとり咲き」はこれらのコンボです。

しかし1979年は随分と昔のように感じるけれども、実はシティポップの隆盛期であって、ASKAさん自身がのちに当時のことを振り返って ”シティポップでは埋もれてしまう” とデビューのため戦略的にこの路線をとったことを語ってらっしゃいます。そう、戦略的に古風な曲調を選んだのでしたね。

私といえば昨年、CHAGE and ASKAがデビューのきっかけを掴んだ「つま恋」に偶然にも宿泊したのですが、ポプコンの会場となったであろう場所は今のフェス慣れしている感覚からすると案外狭く、このステージに緊張しながら上がったのか…と感慨深く思ったものでした。

ポプコンコーナーが設置されていました。チャゲアスが無いのがっかり。


今はありがたいことにYouTubeに重要な資料がたくさん上がっており、ポプコン出場時の動画もアップされています。これを見ると、チャゲアス全盛期には気づけなかったような発見がゴロゴロ転がっていますね。これは必聴ものですよ。一度聴いてみてください。

しっとりとしたピアノで始まるイントロ。あの泣きのエレキで始まる大仰なイントロとは大違いです。

そして全体的にシンプルな(しかしデビュー前のミュージシャンが考えたにしてはかなりの工夫が施された)アレンジだからこそ、CHAGE and ASKAが実力で上がってきたミュージシャンであることが明確にわかります。
ASKAさんはメディア出演時には非常に謙虚に、”実績がないままデビューしてしまい後で困った”と各所で語られていますが、いやいやそんなことはありません。この「ひとり咲き」は、デビュー曲にしてはとても複雑な構成をしていますし、さらに、お二人の声の美しさ。ビジュアル的にもASKAさんの美しい目と長い足が目立ちますね(CHAGEさんももちろん素敵です。しかしこのポプコンバージョンはCHAGEさんの目立つ箇所があまりにも少ない…)。立ち姿にすらスターへのポテンシャルを秘めた華がある、当時のASKAさん。

さて「ひとり咲き」の複雑な構成とは、J-POPの定番であるAメロ、Bメロ、サビの繰り返しという形を取っておらず、メロディのブロックがポン、ポン、と置かれ、しかもそれがなだらかにつながっているという点です。

<A>
とぎれとぎれの話はやめてよ
あんたの心にしがみついたままの
終りじゃしょうがない
あたいは恋花 散ればいいのよ
あたいはあんたに夢中だった
心からあんたにほれていた

<B>
燃えつきてしまった恋花は
静かに別れ唄歌うの
疲れたまんまで
二人で心あわせたけれど
大きな夢を咲かせすぎた

<C>
燃えて散るのが花
夢で咲くのが恋 ひとり咲き

<B'>
あたい恋花 実は結べないわ
あたい恋花 枯れても また咲くだけ
あんたと心重ねたけれど
ずれてゆく ずれてゆく こわれてゆく

<B>
燃えつきてしまった恋花は
静かに別れ唄歌うの
疲れたまんまで
二人で心あわせたけれど
大きな夢を咲かせすぎた

<C>
燃えて散るのが花
夢で咲くのが恋 ひとり咲き

<C'>
燃えて散るのが花 夢で咲くのが恋
燃えて散るのが花 夢で咲くのが恋
ひとり咲き

このように、冒頭の印象的な歌い出し<A>パートは曲全体の中で一度しか現れず、あとは<B>と<C>およびその変調の繰り返しになるのですが、それでも緊張感を失わず最後までたっぷり聴かせてくれるという謎の引力を持った楽曲です。

そして「ひとり咲き」といえば2箇所で聴かせる ”チャゲと飛鳥” の絶品ハーモニーです。「燃えて散るのが花」の「花っ!」と、「二人で心あわせたけれど」の「けーれーどーーーーーおーーーー」ですね(文字化むり)。
これがなんと、ポプコンの初期アレンジでは半分しか聴けない、つまりなぜそうなったのかわからないが出し惜しみされてしまっているのです。

さらにポプコンバージョンのさみしいところを挙げると、ASKAさんに場慣れの機会がそれほどなかったためか、まだ歌唱に豊かな表現力が加わっておらず(超人的に上手いことは確かなのですが)、全体的に朴訥と歌っているために、聴かせどころの<B'>パートが際立たないところですね。
ここの歌詞には、グッとくる一工夫があります。他では ”心あわせてきた" のが「二人」であると表現しているのですが、<B'>パートだけは「あんた」と、個人的な会話に聴こえるようなワードチョイスを敢えてしているのです。
しかもここを、枯れ果てたような心情を込めて歌うのが「ひとり咲き」のドラマ性なのですが…ポプコンバージョンは少しだけ、ほんの少しだけ残念ですね。
別れに「枯れ」や「疲れ」を連想イメージとしてくっつけて、深く傷ついた本心を隠しながらなんでもないように振る舞う男女の様子を、歌の表現力で見事に演じるのがASKAさんの魅力でもあるのですが…この頃は当然ながら、そのスキルがまだ開花していないようです。

そんなシンプルアレンジだったからこそ、プロデビューにあたって瀬尾一三さんが施した、湿度高め、ケレン味たっぷりのアレンジが光るわけですね。

まるで歌舞伎役者の登場のように、せり上がってくる舞台にぴったりのイントロ。思わず「よっ、待ってました!」と声をかけたくなりますね。
そして二人のハーモニーを生かす箇所はふんだんに残されています。出し惜しみが全くないアレンジですね。

最後の<C'>も特徴的です。デビュー盤では転調しますが、ポプコン時に転調は見られません。しかもポプコン版はちょっと短く、これはコンテストの尺に合わせたのかもしれませんが、デビュー盤と比べると物足りない感じがあるのです。この曲のケレン味が苦手な人にとっては、ポプコンアレンジの方が聴き心地が良いかもしれないですけどね。ここは好みが分かれるところでしょう。

また、瀬尾さんは<C'>以降のアウトロまで続く展開をコードの使い方で明るい印象に変えていますが、ポプコン版の最後はマイナーな響きで幕を閉じています。瀬尾さん版はじめっとした「怨歌(えんか)」調とも取れる歌詞を明るく変えてくれているようにも思えますし、そもそもASKAさんの書いた歌詞にある「夢で咲くのが恋」というフレーズ、この抽象的すぎて解釈が難しいがなんとなく明るくも取れてしまう語感の魅力を、アレンジの力で拡張しているようにも受け取れます。


…と、ここまで正式デビュー盤のアレンジを言葉だけで勢いよく書いてしまいましたが、一度聴いてみましょうかね。私が最も気に入っているのは、「SAY YES」ブレイク直前のライブテイクです。ASKAさんは歌の中の人物に歌いながら憑依していくスキルが素晴らしい、ミュージシャンの枠を飛び越えた表現者ですが、このテイクはそれがずば抜けていますね。たった10年でこの表現力を身につけた飛鳥涼、やはりただ者でない。ライブを旺盛に重ねてきたCHAGE and ASKAだからこそ、辿り着いた域なのではないでしょうか。


…うーん、素晴らしい。

しかしながら今日ここに書いてみるまで、私の中にこんなにも「ひとり咲き」への愛が育っていることに自分自身でも気づいていませんでした。「ひとり咲き」が発売された当時に私はこの世に存在していなかったため、「この曲について語れる器ではない…」と控えるような気持ちもあったのですが、なんだか勇気が出てきてしまいました。初期の曲をサブスク解禁をきっかけによく聴くようになっているので、また他の曲についても思いついたら書いていきたいですね。

・・・・・

『VERY BEST ROLL OVER 20TH』収録曲について、過去に書いた記事です!


ASKAさんの作曲の不思議について突き詰めてみたマガジンはこちら。


チャゲアスを変わらず愛している人たちの実像に迫ってみたマガジンはこちら。


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