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長土呂のサイレン

1980年当時、長土呂工業団地が存在した。
現在残っている会社は千曲錦酒造1社となったが、かつてその周辺にはたくさんの中小企業が建ち並んでいた。
当時住んでいた実家からは北西の方向にあり、終業時刻になると、大きなサイレンや白鳥の湖の音楽が聞こえてきた。
夕刻という時間帯もあるためか、そのサイレンや白鳥の湖は寂し気であり、不気味な断末魔の叫び声のように聞こえた。
サイレンや白鳥の湖に恐怖を感じながら過ごしていたある日の深夜の出来事だった。
夜中にも関わらずいつものサイレンが鳴り響いたのだ。
だが、そのあとに続くはずの白鳥の湖の音楽は一向に流れてこない為、一度は気のせいだと思った。
不思議に思いながらも私は再び寝ようとした。
するとまたすぐにサイレンが響き渡る。
さすがに気になり始めた私は外の様子を確認することにした。
窓を開けてみても、真夜中のため真っ暗で何も見えない。
しかし長土呂工業団地で、その上空を無音のヘリコプターが数機ホバリングしているようだった。
ヘリコプターからサーチライトのような光が工場団地を照らしていた。
まるで映画を撮影しようとしているような感じにも見えた。
不思議に思っていると、北の方角から強烈に光る雪印のマークが工場団地上空に飛来してきた。
雪印マークは3つ飛来し、その上空を無音のヘリコプターと一緒に回転しながらホバリングしていた。
3つの雪印は長土呂工業団地を包み込むようにぐるっと一回転するとそのまま消えてしまった。
ただただその不思議な光景に私は見とれていた。
3つの雪印の後に無音ヘリコプターたちも姿を消した。
何が起こったのかわからない私はしばらくボーッとしていた。
そして数年後、現在長土呂工業団地は完全に閉鎖されてしまい見る影もなく廃虚となった。

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