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【二次創作】銀時と全蔵【銀魂】

(2008年5月1日、同人誌より再掲)

雨宿り


 月曜から降りはじめた雨は水曜の夜まで止むことはなく。外へ出るのも億劫で、夜通しエロDVDを見つづけた。
 そして木曜の明け方、やっと雨音が聞こえなくなる。
 窓から薄暗い通りを見下ろし、鳴る腹を押さえた。冷蔵庫は昨日から空っぽだ。そろそろコンビニにでも食糧補給に行かなければ、飢えて死ぬ。
 だが、そろそろ朝だというのに空はまだ重い灰色で、日が昇る気配もない。気が滅入るから、外出の口実をむりやりもうひとつ作る。
「ジャンプ……まだ売ってっかな……」
 だがジャンプはなかった。敗北感と疲労感を抱えてとぼとぼ家路に着いたとき、再び雨が降ってきた。
 あわててそのへんの軒下へ駆け込む。通り雨かと思っていたら、叩きつける雨はどんどん強くなってきて、通りの向こうも霞むほどのどしゃ降りになった。
 五分ちょっと全力疾走すれば家に駆け込めるだろうが、徹夜明けでそんな体力はない。
 ぼんやりと口を開けたまま、どうしたものかと考える……でもなく、ただぼんやりと空を眺めていると、背後でなにかが動くのを感じた。
「……!!」
 肌を刺す気配と、覚えのある匂いに、思わず身がまえる。
「……よぉ」
 路地の奥から、ふらりと細い影が現れた。黒い忍び装束の男が、かぶっていた笠をとる。
「てめーか……」
 腰に伸ばしかけた手をだらりと下ろす。いつもは自分が見つけることが多いから、向こうからわざわざ現れるのは奇妙だった。笠のおかげで頭だけは濡れていないが、首から下は川にでも落ちたようにずぶ濡れだ。
「なにしてんだよ」
 息を切らしながら、男は話しかけてきた。
「見りゃわかんだろ雨宿りだよ、日光浴してるようにでも見えますかぁ? てめーこそなんでこんな時間に……」
 勢いで口がすべったことに気づいたときには遅かった。二人同時に「ちっ」と舌打ちし、足元に目を落とす。
「バイトだよ」
「……あっそ。興味ねーけど」
 会話はすぐに終わった。
 すぐに立ち去るかと思えば、彼は壁にもたれたまま荒い息をついている。怪我でもしているのかと思ったが、どこかを庇っているようすはない。ただ休んでいるだけなのだろう。
 雨宿りするなら、それでもいい。だがこの匂いはいただけない。
「……くせえぞ」
「あ?」
 血が染み込んだ着物を濡らしていく雨、その独特の匂い。彼の身体からは、死の匂いがした。
「んな物騒な匂いさせてんなよ、朝っぱらから」
「……てめーは犬か」
 ぐっしょりと水分を含んだ黒い装束は、何色の液体で濡れているのかわからないようになっている。それでも、わかるものはわかってしまうのだから仕方がない。本人に大きな外傷がない以上、それは他人の血だ。
「あー……条件反射っつーの? なんかこう、やなこと思い出しちまうんだよな」
「……………」
 泥にまみれた死体の上に、冷たい雨が容赦なく降り注ぐ……そんな光景が目の裏によみがえる。敵も味方も関係ない。悲しむにはあまりにも殺伐としすぎていた。時代も、自分の魂も。
「……あー、寒ぃー!!」
 さっきから、つまらないことばかり口にしている。寝ていないせいだ、とあさっての方向に責任を転嫁して、がりがりと銀髪をかきまわした。
「ジャンプねーし雨降ってるし寒ぃしヘンな忍者と会っちまうし、もぉ最悪ー!」
「右に同じだバカヤロー……あ、ジャンプは昨日買ったけど」
「マジで!?」
 ざあっと雨が強くなった。これはしばらく止みそうにもない。
「じゃあ明日貸せよ」
「はい? なんでてめーに……」
「今日、風呂貸してやっから」
「な……」
「よし、決まりな!」
 手首をつかむと、相手は反射的に腕を引こうとする。だが小さくため息をついただけで、すぐに力を抜いた。
「……ああ」
 冷えきった指に、熱を持った手は離しがたい。たとえ、人を殺めた手であっても。
「……走れ!」
 走ろうが走るまいがずぶ濡れになるのはわかっているのに、どしゃ降りの中に飛び出した。ぬかるんだ道に足をとられて転びそうになる。
「手ェ離せよ、俺までコケんだろーが!」
「っせえ! 巻き添えだバーカ!!」
 叩きつける雨に負けないような大声で怒鳴っていたら、なんだかテンションが上がってきた。薄暗い明け方に、男二人が雨の中を走っているという図もおかしい。
「なに笑ってんだよ!!」
「てめーこそっ!!」
 用をなしていない笠と、コンビニの袋を振りまわして。
 それぞれに眠らない夜を過ごした二人は、げらげら笑いながら雨の通りを走っていった。


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アニメの声で全蔵にハマったんだっけ。

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