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【創作小説】ノベライズ桃太郎

(2009年6月29日、ライティング練習)

文章の練習として「桃太郎」を小説っぽく書いてみたテキストを見つけたので供養。
奇をてらわずスタンダードな筋を追うことを心がけましたが、行間を埋めるのが意外に難しくて力尽きたようです。

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『桃太郎』


 昔、とある村のはずれに老夫婦が住んでいた。貧しいながらも仲睦まじく暮らしてきた二人だったが、子宝には恵まれなかった。
 ある日、いつもそうしているように夫が山へ柴刈りに出かけたあとで、妻は家の近くを流れる小川に出て洗濯をはじめた。よく晴れた夏の日だったから、川の水の冷たさは老婆の手にも心地よかった。
 貧しい二人の洗濯物など、そう多くもない。さっさと仕事を終えてふと川上を見やった媼は、なにかが流れてくるのに気づいた。石かと思ったが水に浮いているようだし、それに近ごろは大雨もない。あまり目がいいとはいえない老婆の前に、それはのんびりと流れてくる。
 だが見えたからといってその正体がわかるとは限らない。媼がまさにそうだった。
「おや、まあ……」
 それはひとつの桃だった。ただし、一抱えもあろうかという巨大さだ。もちろん、媼は長い人生の中でそんな異様なものに出くわしたことはない。
 媼は呆然と見送りかけ、はっと我に返って水の中にばしゃばしゃと入っていった。桃のほうも媼を見つけたかのように近づいてきたから、媼は意外なほどあっさりとその桃を捉えることができた。
 みずみずしい桃は重い。その巨大な桃もまた例外ではなく、川べりへ押し上げたところから岩のように動かなくなってしまう。媼は洗ったばかりの衣を桃に掛けると、濡れた身体を拭くのもそこそこに、連れ合いの助けを借りに山へと走っていった。

 老夫婦は、狭い小屋の上座を占領して座り込んでいる薄紅色の果実を眺めていた。どれほど首をひねったところで、これがなにかはわからない。
 翁は、あれこれと考えを巡らす男ではなかったが、見上げたことにそんな己の性分を自分でも知っていた。翁にわかるのは、これがどれほど大きくとも桃であること、そして桃は食べ物だということだけだ。
「食ってみよう」
と翁は言い、
「とんでもない」
と媼は首を振る。しばしの押し問答のあと……昼過ぎということもあったのだろう……翁は自分の意見を通すことに成功した。
 しかし、包丁の刃が桃に触れるかいなかのところで、桃はひとりでにぱっくりと割れた。
 と同時に、けたたましい泣き声が小屋に響きわたる。二人の老人は腰を抜かして、割れた桃を呆然と眺めていた。
 桃の中には、種の代わりに人間の赤ん坊が入っていた。

 大きな桃から子どもが生まれるという事実はかんたんに受け入れられるものではないが、とにかく目の前にあるのだ。媼はまず赤子をあやし、そして育てることをその場で決めた。翁もそれ以外の考えが浮かばなかったので従った。
 割れた桃は、人を成すものだと知ってしまった今はとても口にできるはずもなく、裏山へ埋めて塚を立てた。そうして桃にできうる限りの礼を尽くすことで、老夫婦はどこからともなく現れたこの子どもを、天からの授かりものと思うことにしたのである。
 その子は桃太郎と名づけられ……そう、男の子だったのだ……老いた両親の元ですくすくと育っていった。育ち方にも怪しいところはまるでなく、彼は村の子どもたちと少しも変わらない少年になり、そしてもの足りないほどにありきたりな青年になった。力が強いわけでもなく、不真面目ではないが特別よく働くわけでもない。年老いた二親にとっては孝行息子であったが、村の中ではひどく地味な存在だった。
 桃から生まれたという経緯を知る村人は、いつ彼に人ならぬ徴があらわれるかと、恐れよりも好奇と期待多めで待ちかまえていたが、いっこうにその気配はない。やがて、桃太郎に興味を持つ者もいなくなった。
 それでも、翁と媼、そして桃太郎は幸せだった。

 桃太郎がそろそろ大人たちの仲間入りをしようかという年のことだった。
 海からやってきた鬼たちが、あたりの村を荒らしはじめた……そんな噂が流れはじめた。噂はやがて確固とした情報となって、商人たちからもたらされるようになる。海から遠いこの小さな村にも話が届くということは、すでに鬼たちは近くまでやってきている。村人たちは恐れ、明日にも攻め込んでくるかもしれない鬼に怯えた。どんな姿をしているのかもわからないというのに。
 だれが言ったのかはわからない。だが、だれかが言った。
「桃太郎なら、なんとかできる」
 そうだ、この村には桃から生まれた桃太郎がいる。彼こそは、この村を救うために天から遣わされたにちがいない。なぁに、普段はああして非力なふうを装っているが、いざとなれば千人力よ。なんといっても、人ではないのだもの……。
 その話が広がって村はずれの小屋に人々が押しかけるまでに一日もかからなかった。
 桃太郎は驚いて、そんなことはむりだと言った。鬼の話は当然知っていたが、他の村人と同様にただ怖いと感じただけなのだ。自分がその鬼と対峙できるなどとは、夢にも思わなかった。
 老いた親たちも反対した。たとえふしぎな力を持っていたとしても、恐ろしい鬼のところへ我が子をやるわけにはいかない。翁と媼は村人たちを説き伏せようとし、それがだめだとわかると土間へひたいをこすりつけて頼んだ。我が子はただの人なのだから、どうか勘弁してくれと。
 だが、村人たちは老夫婦を身勝手だと詰るばかりで、だれ一人その願いを聞こうとする者はなかった。
 二親の身も危ないと感じた桃太郎は、仕方なく村人たちの前に進み出る。
「わかった、行くよ」
 歓声の中、翁と媼は這いつくばって泣いた。

 村人は桃太郎のために刀と具足をこしらえた。それが親切心からではないと知りながら、桃太郎は礼を言わねばならなかった。両親は小屋にこもったまま悲しみに暮れている。こうなった以上は、一刻も早く村を出たい。桃太郎は結局だれよりも出立を急いだ。
 旅支度を調えた桃太郎が両親の元へいとま乞いに行くと、媼が握り飯といっしょに黍の団子をくれた。桃太郎は別れを惜しんで泣きながら、村人たちに追われるようにして旅立った。
 鬼がどこにいるかなど桃太郎にはわからない。そもそもどうやって倒したらいいのか、見当もつかなかった。このまま逃げて、姿をくらましてしまおうか。鬼に負けて食われてしまったことにすればいい。だれにも真実などわかりはしないのだ。それに、ほんとうに鬼が村を襲ったとしたら、桃太郎を責める者もいなくなる。
 そこまで考えて、桃太郎は頭を振った。村人を、父母を鬼の襲撃にさらすことはできない。やはり桃太郎は鬼を倒すしかないのだ。供の一人さえなく、鬼どころか人を殺すすべも知らぬというのに。
 重い足取りで歩いていくと、道の向こうから犬が歩いてきた。野犬のようだったから桃太郎はわずかに身構えたが、よく見れば足取りもおぼつかないようすで、ふらふらとよろめきながらこちらへやってくる。そして、桃太郎の前でついに力つきて倒れた。
「おい!」
 思わず駆け寄った桃太郎に犬は低くうなったが、がりがりに痩せこけていて噛みつく元気もないらしい。ぐったりとした犬に、桃太郎はふと思いついて母からもらった黍団子を取り出した。それを犬の口に入れる。
 野犬は団子を飲み込むと、しばらくじっと動かなかったが、やがてすっくと立ち上がった。その四肢にふらついたところはもうない。
 犬は桃太郎に向き直り、まっすぐ見上げてきた。
「助かったぜ、大将。この恩は忘れねえ」
「それはよかった。じゃあ、おれはもう行くよ」
 そう言って歩きだした桃太郎の後ろを、犬がついてくる。まだ団子がほしいのだろうか。桃太郎は振り返って、犬に語りかけた。
「おれはこれから鬼を退治しにいくんだ。いっしょにいたら危ないよ」
 だが犬は離れようとはしない。犬は桃太郎を見上げて言った。
「なに、こう見えてもあんたよりは強いつもりさ。少しは力になれると思うぜ」
「でも、どうして」
 言い募る桃太郎に、犬は不機嫌そうにうなった。
「恩は忘れねえって言ったろ」
 それ以上口を聞く気配はなかったので、桃太郎は痩せこけた野犬を供に連れていくことにした。

 山を越えると、海が見えた。桃太郎は海を見たことがなかったので暫しその光景に見入っていたが、その先に鬼が待ちかまえているのかと思うと、晴れやかな気分ではしゃぐことなどできなかった。
「少し、休もう」
 桃太郎は道端に座り込み、母からもらった握り飯を取り出した。犬には、先ほどの黍団子を分けてやった。
 ふいに、藪が音を立てる。びくりと身を震わせて、桃太郎はあたりを見回した。兎か、狸か。猪ならば少し厄介だ。それでも、鬼ほどではないだろう……。
 藪の中からなにかが飛び出してきた。茶色い影は犬の鼻先をかすめ、そのまま木に駆け上がった。
「猿か!」
 木の上で、大きな猿が満足げに黍団子を手にしている。
「おい、おまえの飯だぞ!」
 桃太郎は思わず犬を怒鳴ったが、鼻先で食事を奪われた犬はさほど悔しがっている様子もない。闘争心もないとは、やはりこの痩せた犬になにを望むこともできまい、と桃太郎はひそかに思う。仕方なく、犬の代わりに猿に向かって拳を振り上げた。
「返せ、それはおれがこの犬にやったんだ!」
「だが今はオレサマのものだ」
 猿はせせら笑うと、黍団子をぽんと口の中に放り込んだ。
 次の刹那、猿は目を丸くして動きを止める。団子を喉に詰まらせたのかと桃太郎が思っていると、猿はゆっくりと木を下りてきて、桃太郎の前に頭を垂れた。
「なんのまねだ……」
 驚きいぶかしむ桃太郎に、犬が愉快そうに答える。
「こいつも、鬼退治についていくとさ」
 猿は両手を地面について、犬を睨みつけた。
「てめぇ、知っててオレサマに団子を食わせたな」
「勝手に盗っていったのはそっちだろ」
「……待て待て、どういうことだ」
 睨み合う犬と猿のあいだに割って入った桃太郎は、二匹から怪訝なまなざしを受ける。
「この団子に服従の呪をかけたのはあんたじゃねえのか」
 青年は今まででいちばん驚いて、地面にへたり込んだ。
「そんなはずは……」
 猿はにやにやと笑っている。
「あんた、ほんとうに人かい? 変わった親やら変わった生まれやらを持ってはいないかね」
 桃から生まれた桃太郎は、はっと胸を押さえる。なにひとつ村人たちと差異のなかった自分だが、知らぬうちにそのような力を持っていたのか。
 犬は猿よりはまじめな顔で、桃太郎を見上げた。
「とにかく、山犬の大将と山猿の大将を手に入れたんだ、鬼退治とやらもなんとかなるかもしれねえぜ」
「大将だって?」
 桃太郎が二匹を見ると、痩せこけた犬は胸を張り、大柄な猿は肩をいからせた。
「この山の猿どもは、皆オレサマの言いなりよ。なに、海の鬼に苦しめられてるのは人だけじゃねえ。ちょうどいいや」
「そうだ、やつらは山の獣たちを楽しみで殺す。そろそろなんとかせにゃと思ってたころさ。山を下りれば、狼にも負けねえおれの手下が待ってる」
 桃太郎は呆然と二匹を眺めていたが、やがてくすくすと笑い出す。
「こりゃあ、心強い」
 そして、黍団子をもう一つずつ犬と猿へやった。二匹は苦虫を噛みつぶしたような顔を見合わせて、しかしなにも言わずに団子を食べた。

 里へ下りる手前の野っ原で、桃太郎は自らの兵隊と対面する。きぃきぃと騒ぎ立てる猿の軍団に、のどを低く鳴らしてうなる犬の群れ。どちらも百は下らない。たしかに、心強い味方ではある。
 しかしこの獣たちをどうあつかったらいいか見当もつかない。桃太郎は二匹の供がどこまで自分に服従するのかも知らないのだ。
「桃太郎さま、桃太郎さま」
 思案に暮れていると、背後から声を掛けられたような気がした。振り向いたがなにもいない。
「こちらでございます、足下をご覧ください」
 小さな声は、草むらの中から聞こえてきた。桃太郎が身をかがめると、一羽の雉が首を出した。雉は礼儀正しく頭を下げ、高い声で言った。
「桃太郎さま、わたくしにも黍団子をくださいませ」
「え……」
 桃太郎の名も、黍団子を持っていることまで知っている。
「しかし、この団子には呪が……」
「ええ、存じております。ですからわたくしもあなたさまの家来にしていただきたいのです」
 犬を従えたのは偶然だった。猿は犬の計略にかかった。だが、この雉は自ら供になりたいという。
「気持ちはありがたいが……」
「このような小さな雉一羽では、お役に立てぬとお思いですか。猿や犬のように頭も群れも持たぬ雉は役立たずだと?」
 たしかにそのとおりなのだが、桃太郎は雉の真摯な気持ちを無碍にすることなどできなかった。青年は黍団子を雉へやった。雉はもらった団子をその脚でつかんで翼を広げた。
「かたじけのうございます。それでは、暫しお待ちを」
 再び頭を下げると、雉はすっと飛び立っていった。
 半時ほどして、大きな羽音に犬と猿たちが騒ぎ出した。桃太郎の眼前に大きな鷲が舞い降りる。鷲は力強い翼をたたみ、凛とした声で桃太郎に告げた。
「鬼の悪行は我らの目にも余る。翼ある者はすべて御大将に味方しようぞ」
 空にはあらゆる鳥が舞い、地に降り木に止まっては少しずつその数を増やしている。この鷲が連れてきたことは明白だった。いかにも鳥の王らしい風格の鷲を前に、だが桃太郎は真っ先に尋ねたいことがあった。
「あの雉はどうした?」
 鷲は輝く目玉でぎろりと桃太郎を睨みつけ、忌々しげに呟く。
「我の腹の中よ。黍の団子とともにな」
 桃太郎は息をのみ、雉の覚悟に涙した。小さく力なき雉は、その身に代えて桃太郎の力となったのだ。
 それまで己の運命をもてあまし、途方にくれていた桃太郎だったが、今あの小さな雉のために、必ずや鬼を退治することを決意した。些細な偶然とはいえ、鬼を憎む獣たちが味方になってくれるのだ。もはや恐れも絶望も薄れていた。
 草むらを、鳴きわめく獣たちの声が勝鬨のように渡っていった。

 鬼の住処である島は、海辺からそう遠くはない。舟は海辺で朽ち果てていた一艘を手に入れただけだったから、犬や猿でも泳いで渡れそうな距離であることは僥倖だった。
 尖兵のカモメがもどってきて、鬼たちが酒宴の最中であることを鷲に伝える。
 桃太郎は犬の大将と猿の大将を自らの舟に乗せ、舳先に鷲を止まらせると、獣たちに海を渡るよう命じた。いきり立っている獣たちに多少の波など恐れるほどのことでもない。犬と猿は器用に水をかいて進み、鳥たちはもっと手っ取り早く、島めがけて飛んでいった。
 さて、酒宴を開いていた鬼たちは、獣の群れが島を目ざしていることなど少しも気づかなかった。
 鬼たちには角も牙もない。彼らはかつて水軍であった。戦が終わり用済みになった彼らは、海を御する力と武器を扱う技とで、平穏な村々から略奪することを覚えた。彼らには敵などなかった。ゆえに、島の外からの侵入者には気を配らなかったのだ。
 桃太郎は山の民だったから、舟を操る術は知らなかった。猿に野次を飛ばされながら、桃太郎は必死に舟を進めようとしたが、泳いでいく犬や猿たちにたやすく追い抜かれた。
 だから桃太郎が島へついたときには、戦いはすでにはじまっていた。いや、たけなわといってもよかった。
 まず目に入ったのは、山犬に喉笛を食いちぎられた鬼の骸だった。凄惨さに目を背けると、何匹もの猿にたかられて爪で切り裂かれている男がいる。小さな鳥たちは嘴で刺し、力のある鳥は石を落として兜ごと鬼たちの頭をかち割る。
 鬼たちとて、獣にただやられているだけではない。羽虫のように鳥たちが射落とされ、鬼よりも多くの犬や猿が刀で斬られ槍で貫かれ、折り重なって死んでいく。
 足が震えて動けないでいると、猿がどんと背中を叩いた。
「おい総大将、しっかりしてくれよ」
「でも、おれは戦どころか喧嘩もしたことがないんだぞ!?」
 犬も鼻先で桃太郎の腰を押す。
「敵の大将をしとめるんだよ、そうすりゃ一気にカタがつく」
「そんなこと言ったって……」
 鬼の大将ともなれば、どれほど強く恐ろしいのか想像もつかない。縮みあがる桃太郎の前で鷲が舞い上がり、そして肩に止まった。
「腹の中で雉が騒ぐのだ。敵を倒せと」
 猛禽の爪が食い込む肩が痛かったが、雉のことを思い出して我に返る。万が一にも負けるようなことがあれば、雉の死はむだになる。雉だけではない。目の前に転がる獣たちにも申し訳が立たない。
 桃太郎は、一度も抜いたことがない長刀を鞘から引き抜く。我が身かわいさに村人たちが押しつけたものだが、だからこそ必死で作られた刀だ。桃太郎は鈍色の光に祈った。
「……行くぞ!」
 三匹の家来は、主人を囲んだまま満足げに鳴いた。

 刀の柄が血ですべる。何人斬ったかわからない。
 桃太郎は自分が戦場の中でまだ立っていることが信じられなかった。
 だが、ほんとうはその理由を知っていた。桃太郎に斬りかかろうとする男があれば、猿たちが一斉に飛びかかる。物陰から射ようとする青年があれば、鳥たちが羽ばたきで目をくらませる。なりふりかまわずつかみかかってくる鬼にも、犬たちが食らいつく。獣たちの助けを借りて、桃太郎は屍の山を築いていた。恐ろしいなどと思う間もない。
 肩で息をしながら、血まみれの桃太郎は鬼の砦の奥まで獣たちとともに踏み込んでいった。
「総大将、あれが鬼の頭じゃねえのか」
 猿が赤く染まった手を挙げて指さす。たしかに、獣たちに翻弄される鬼の中で、他の鬼たちを盾にして獣たちを容赦なく射殺している大柄な男がいる。
「あれを殺せば終わりだ」
 犬が今にも飛びかかっていきそうなうなり声を上げた。桃太郎も刀を握りなおす。
 ふと、その男がこちらを見た。訳のわからない敵の中にたった一人の人間を見つけ、この襲撃の中心だと悟ったのだろう、まっすぐこちらへ矢を向ける。
 獣たちがそれに気づくのが、一拍遅かった。
 矢は空を切って桃太郎を狙う。
「桃太郎さま!」
 凛とした声とともに、茶色い羽根が舞い散った。
「おまえ……!」
 翼を射られた巨大な鷲が、桃太郎の足下に落ちる。あわてて抱き起こす桃太郎を、鷲はどこか自嘲を込めて見上げた。
「我ではない……あの、忌々しい雉よ……」
「……おまえ、たち……」
 羽根を震わせて痛みに耐える鷲をそっと地面に下ろして、桃太郎は残った二匹に目くばせをする。犬も猿も、心得たようにうなずいた。


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すごい打ち切り感。

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