【掌編】彼女が飛び降りない理由
会社のビルの屋上。柵の向こう側で彼女は、半身をこちらに向け、虚な目で僕を見た。
遅れて入った昼休み、日差しを浴びながら弁当でも食べようとたどり着いたそこで、まさに飛び降りようとしている彼女に遭遇したのだ。
「やめろ、馬鹿な真似はよせ」
僕の呼びかけにも、眉ひとつ動かさず、ただただじっとこちらを見つめている。今にもその視線がぷつりと途切れ、その身体を宙に投げ出してしまうのでは、という危うさがあった。
「飛び降りちゃいけない」
「どうして」
ただ黙ってこちらを見ているだ