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掌編小説

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2021年8月の記事一覧

【掌編】彼女が飛び降りない理由

会社のビルの屋上。柵の向こう側で彼女は、半身をこちらに向け、虚な目で僕を見た。 遅れて入った昼休み、日差しを浴びながら弁当でも食べようとたどり着いたそこで、まさに飛び降りようとしている彼女に遭遇したのだ。 「やめろ、馬鹿な真似はよせ」 僕の呼びかけにも、眉ひとつ動かさず、ただただじっとこちらを見つめている。今にもその視線がぷつりと途切れ、その身体を宙に投げ出してしまうのでは、という危うさがあった。 「飛び降りちゃいけない」 「どうして」 ただ黙ってこちらを見ているだ