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道中

 雨の抱擁に安らぎを覚える前に、梅雨が明けた。
 明るすぎる道路や、白い壁達から目を背ける。

 隣の市の病院へ行く車内で小説を読もうとしたが、すぐに睡魔に襲われる気がして、鞄の中にしまう。
 妙に現実味の無い感覚に心を預けて、ずっと窓の外を眺めていた。

   自治体の人だろう、道路沿いの花壇に笑顔で水をやっている老人達。
   田んぼの向こうで、脚立に乗って雨樋の掃除をする住人。
          木漏れ日で潤う森の入り口。

  それと同じだけの空き家や、ポイ捨てされた無数の ごみ。
            森の中に住む電化製品。

  それにそれに住処を奪われ、すっかり埋まってしまった獣道。

 思ったより窓の外は、本ばかり読んでいては見えなかった光で溢れていたようだ。鬱屈として思考が狭まってしまうと、どうしても見える世界まで狭くなってしまう。

 ふと視界が曇ったかと思えば、出来立ての夏の街を横断する、海風に乗ってきた水蒸気。それを突き抜けると、油絵から湧き出た入道雲の子供たちが見えた。
 夏の始まりは毎年突然訪れる。忽然と姿を消す気配を確かに感じながら、うだる暑さに悪態を吐いて、くそったれと言いながら今年も汗とアイスをたらして、僕は生きていると無理やり思い込ませる。

 どれほど見飽きた道も、希望と絶望の配合率と季節の混ざり方によってこんなに変わるのだなと、さっきよりも心地よい眠気の中で思った。


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