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不受理扱いの婚姻届

ドキドキしながら婚姻届を提出したことはあるだろうか。
私にはある。

怯えながら婚姻届を提出したことはあるだろうか。
私にはある。

いや、正確にいえば婚姻届を土日に提出するため、万が一の不備を考慮して事前チェックをしてもらうために雨天のなか役場へ訪れた。その時の話をしたい。

「怯えながら?なぜ?」と疑問に思う人が大多数だろう。
私には何年ものの長い間見て見ぬふりをしながらも、心の片隅に抱え込んでいたことがある。
男性でありながら、男性を好きになる。いわば、ゲイであること。

それを役場相手にカミングアウトすることになるのだ。
記入欄の「夫になる人」には私の名前を記入し、「妻になる人」の妻に二重線を引いて「夫になる人」に修正し、そこにはパートナーの名前を記入した。

「婚姻届の提出に来ました。ただ、同性同士のため法的に認められないため不受理扱いになることは承知のうえで出します。同性であること以外で不備がないか確認をお願いします。」と伝えた。
緊張のあまり上ずった声だっただろう。あまりよく覚えていない。

「確認しますので、席におかけになってお待ちください。」
一見、婚姻届の手続きに手慣れているかのように振舞っているものの、少し驚いた様子であった。

待つこと30分。
この間の私の心は感情の渦に巻き込まれていた。
嘲笑されていないだろうか。面倒なやつだと思われていなかろうか。
物珍しさでジロジロ見られないだろうか。噂が広まったりしないだろうか。
平然とスマホをいじり、何か問題でも?と言い出しそうな様子を見せたつもりだがそれとは裏腹にオドオドしていた。
その間の職員らの様子はというと、3人ほどで婚姻届を眺め、担当者が上司であろう人に相談をしていた。取扱いについて話し合いでもしていたのだろう。

そりゃあそうだ。稀に見るケースであろう。ひょっとすれば、初めて取り扱うケースの可能性もある。

スマホゲームの時間が経てば回復するストックも切れ、未返信のLINEもゼロになり、どう暇をつぶそうか。押しつぶされそうなこの気持ちをどう緩和していこうか考えていたところで呼ばれた。

担当者から修正や記入が必要な箇所を付箋で丁寧に教えていただくと同時に
「現在の法律では認められず、市にはパートナーシップ制度もなくて申し訳ございません。」
1週間前からの緊張がいかに無駄だったか思い知らされ、解放感と安心感に包まれた瞬間であった。
担当者はここにいる私を1人の人間として見てくれていた。

そして、土日に提出する際の場所も説明を受け、「宿直者には事前に担当課に話済みであることを伝えてね。受付けてくれないようなら〇〇(担当者名)に電話してと伝えてね。」と最後まで丁寧な対応であった。

この担当者、一瞬にして信頼関係築きあげただと。と感心しお礼を伝えその場を去った。
車に戻ったとき、心の重荷となっていたものが解かれたのか涙が潤んだ。

やっと。自分に正直に生きられるのだろうか。
オープンになるのに4年かかった。いや、セクシャリティに違和感を抱き始めた小学生のころとすれば、約20年間。ずっとずっと抱え込んでいたこの気持ちをようやくさらけ出せるようになれたのか。気が楽になり、やっと自分に正直に生きられる。そう考えるとそれだけで涙がこぼれた。

ゲイなのか。バイセクシャルなのか。自分が揺れ動き始めていた時期があった。
初めて訪れたゲイバーのママ、関わってくれたゲイの方々、たまたま同い年で仲良くしていたノンバイナリー(Xジェンダー)の友人、すんなり受け入れてくれた兄弟、なんでも話せたストレートの友人、パートナー、母親、理解は難しいだろうと思われた父親。小学校来の友人。
4年かけてじっくりとそれぞれにカミングアウトしてきた。自分が信じた人はみな、驚きを見せつつも受け入れてくれた。そんなことを思い返しては、なんて恵まれているのだろうと感謝の気持ちが涙とともにこみ上げてきた。

ずーっとずっとゲイである側面にストレートという偽りの仮面をかぶせていたが、その必要はなくなり、嘘を重ねる必要がなくなったことで晴れやかな気分であった。

土日に提出する婚姻届は不受理となるが、オープンになれる勇気がわいてきた。そして、ゲイであるアイデンティティも形成されてきた。
願わくば、同性同士であっても婚姻届がほかのカップルの同様に受理される時が近い将来であってほしい。


カミングアウトの問題は現時点でも難しいものがあり、した方がいいという訳でもないのが現状である。本人自身の決断をまず尊重するとともに、セクシャルマイノリティーが生きやすい社会へ少しずつ変わっていくことを願ってやまない。



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