M&Aドキュメンタリー - 目線が高すぎるメディアの売却

事例

今回取り上げるのは、あるwebメディアの事業売却の物語。数年前に高いバリュエーションで業界を賑わせたwebメディア事業、今なお、売却のニーズは高く、買収ニーズも一定数存在している。

ドキュメンタリー

今年はじめ、コロナウイルス感染が騒がれて間もない冬のある日、一人の男が事務所を訪ねてきた。彼は、ある会社の役員。聞いたところ、会社の一事業となっているメディア事業の売却をすることとなり、会社から名を受けて売却先を探しているという。

「メディアの売却」。そう聞いて、現代のM&Aブティックで乗り気になる者は多くないだろう。そもそも、大きな価格のつくディールにはなりづらい。とはいえ、買い手が多くつくことには変らない業種であるため、”薄利多売”で動くディーラーにとっては手の付けやすい案件でもある。

持ち掛けられた案件は、ファッションやコスメ、美容、トレンド等のさまざまな情報を発信する女性向けwebメディア。ひと昔前によく流行ったジャンルだ。広告も付きやすく、なにより記事を書けるライターが多いため、運営をしやすいというメリットもある。webメディアは女性が多く見る傾向が強いため、女性向けというのはキーワードの一つとなる。

「数年前からこのメディアを運営し始めたが、今はあまり手をつけておらず放置気味なんです。このまま続けても収益が上がらないばかりか、手間ばかりかかってしまうので、今の段階で売っておきたいんです」

よくある売却理由を話ながら、”私は別に売り急いでいません”とでも言うかのように、余裕を持って話す売主社長。大抵、売るからには何か裏がある。それを最後まで隠し通そうとする売主は、交渉がうまくいかないものだ。

話を進めていくと、その事業はもう採算がかなり悪化しており、なるべく早めに手放すよう会社から言われているものだった。年間で1,000万円の利益が出ているメディアだが、これを5,000万円で売りたいらしい。破格の値段だ。メディアの売却相場が月次利益の18ヶ月分がせいぜいであること、人付きでなければ買い手が付かないこと、そして、SEO対策がホワイトハットでないとかなり怪しまれることを説明する。

「今は手を付けていないだけで、SEO対策を直せば伸びます。人は付けられませんが、業務委託で化係ることはできるし、過去は数千万円以上の利益が出ていたのでそれくらいの価値はあるはずです」

ここまでかたくなに条件を変えない売主には、買い手から直接言ってもらうことが一番良い。いくつか買い手を紹介し、とりあえずマッチングを進めることにした。

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その後、いくつかの買い手との交渉は想像通りのものだった。

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