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『ハロウィンの花嫁』で学ぶロシア語(その3)

3年前のつづき。降谷・松田・諸伏・伊達はプラーミャと対峙。
絶体絶命の降谷を諸伏が援護。諸伏の銃はプラーミャの右肩に命中。
形成逆転、プラーミャ逃走。
最後のあがきで、遠隔操作によるビル爆破を試みるも失敗。



ハロ嫁関連の前後の記事は、下記マガジンを参照されたい。


『ハロウィンの花嫁』で学ぶロシア語



※ 以下、ネタバレになるので、未視聴の方は先に映画をご覧ください。


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ペストマスクを被ったプラーミャは、しつこい男は嫌いだね・降谷にトドメを刺す寸前まで追い詰める。

しかし、諸伏の援護が功を奏し、降谷を守ると同時に爆弾魔の右肩に大ダメージを与えることに成功。

撤退を余儀なくされたプラーミャは、遠隔操作での爆破を試みる。

亡き萩原の充填サジェスチョンもあり(絶対そばに化けて出ていたと思う。 ※ 個人の感想です)、松田は液体爆弾の無効化に成功。
(ガムを詰めたら止まる!驚!)

遠隔操作も失敗したと悟ったプラーミャは、スマホを地面に叩きつける。



1.プラーミャのスマホ画面



БО́МБА 爆弾

(発音)

IPA(国際音声記号、ロシア語ではМФА)での表記
[ˈbombə]

発音のカタカナ表記
ボーンバ

(語彙)

бо́мба (女) 爆弾



ЗА́ПУСК 起爆

(発音)

IPA表記
[ˈzapʊsk]

発音のカタカナ表記
ザープスク

(語彙)

за́пуск (男) 始動、(ロケットなどの) 打ち上げ、発射



ОШИ́БКА エラー

(発音)

IPA表記
[ɐˈʂɨpkə]

発音のカタカナ表記
アシープカ

(語彙)

оши́бка (女) ミス、エラー



プラーミャのスマホ画面

Пла́мя プラーミャ

(発音)

IPA表記
[ˈpɫamʲə]

発音のカタカナ表記
プラーミャ

(語彙)

пла́мя (中) 炎、火炎、(比喩的に)・・・の炎、火  / 酷暑、熱気

※ その1でとりあげた、爆発したタブレット(オレグの死因)の画面に浮かび上がった文字と同じ。



2.警察学校編に関するロシア語表記


日本国内で上映されたハロ嫁とは直接関係ないのだが、せっかくなので警察学校編関連のロシア語表記を紹介したい。

人名については、ロシア語話者(必ずしもロシア人のみとは限らない。ここでは、ロシア語をコミュニケーション言語として用いるアニメファンを念頭に置いている)の間で表記の揺れがあるが、おおむね定着しているものを拾ってみた。



2-1.コナン、警察学校編のロシア語


Детекти́в Конан 名探偵コナン 

(発音)

IPA表記
[dɛtɛˈktʲif   kɐˈnan]

発音のカタカナ表記
デテクチーフ コーナン

(語彙)

детекти́в (男) 探偵、刑事

Конан (男)(人名) コナン



Полице́йская акаде́мия 警察学校編

   

(発音)

IPA表記
[pəlʲɪˈt͡sɛɪ̯skəɪ̯ə  ɐkɐˈdʲemʲɪɪ̯ə]

発音のカタカナ表記
パリツェーイスカヤ アカジェーミヤ

(語彙)

полице́йская < полице́йский (形) 警察の

акаде́мия (女) 専門大学、学院

Полице́йская акаде́мия 警察学校



Исто́рия ди́кой поли́ции 

Wild Police Story

(発音)

IPA表記
[ɪˈstorʲɪɪ̯ə  dɪˈkoi  pɐˈlʲit͡sɨi]

発音のカタカナ表記
イストーリヤ ジーカイ パリーツィイ

(語彙)

исто́рия (女) 物語、ストーリー、歴史

ди́кой < ди́кий (形)(野生の、ワイルドな)の女性形 ди́кая の生格。

поли́ции < поли́ция (女)(警察、警官)の生格。

Исто́рия ди́кой поли́ции Wild Police Story



2-2.警察学校編の人名、コードネーム


人名については、発音ファイルのみ添付する。
(人名のIPA表記やカタカナ表記は、あまり意味がないように思われるので)

ただし、コードネームの「バーボン」と「スコッチ」については、ロシア語の語義・語感が興味深かったので紹介する。



Рэй Фуруя 降谷零

(発音)


Тоору Амуро 安室透

(発音)


Бурбо́н バーボン

(発音)

IPA表記
[bʊrˈbon]

発音のカタカナ表記
ブルボーン

(ロシア語の語彙)

бурбо́н

(1)研究社露和辞典(1988年)

бурбо́н (男)(さげすんで)無作法ないばり屋(もと、兵士から成りあがった将校)
(関連語) бурбо́нистость (女) 成り上がり者的無作法、粗暴

(2)岩波ロシア語辞典(1992年)
бурбо́н (男)(口)(蔑) 粗野で無学で尊大な男(元来は兵士上がりの将校を指していった)

(3)コンサイス露和辞典 第5版(2003年)
бурбо́н (男)(口、旧) 兵士上がりの将校、粗野な成り上がり者

(4)プログレッシブロシア語辞典(2015年)
なし

(5)増補改訂版 現代ロシア話しことば辞典(2022年)
なし

(6)ウシャコフ『ロシア語詳解辞典』
(Ушаков Д.Н., Толковый словарь русского языка, 1935年)

бурбо́н  муж. (разг. устар.). Грубый и невежественный человек, первонач. об офицере, выслужившемся из солдат. (От имени французской королевской династии Bourbon).
(男)(口、旧) 粗暴で、教養がない人物。当初は、兵士から成りあがった将校を指していた(フランスのブルボン朝の名に由来する)。

(7)エフレーモヴァ『現代ロシア語詳解辞典』(Ефремова Т.Ф.,
Современный толковый словарь русского языка, 2006年)

бурбо́н 
I м.(男①)
1.  Грубый, невежественный, властный и заносчивый человек.
  粗暴で、教養がなく、尊大で、不遜な人物。
2.  Употребляется как порицающее или бранное слово.
  非難、もしくは罵言として用いられる。
II м. (男②)
1.  Сорт канадского кукурузного виски.
  カナダ産のトウモロコシを原料とするウイスキーの種類。
2.  Виски такого сорта.
  そういう種類のウイスキー。


бурбо́н(バーボン)について、研究社・岩波・コンサイス露和辞典には、「粗暴な成り上がり将校」という古い語義が掲載されているのみである。

比較的新しい露和辞典である、プログレッシブと現代ロシア語話しことば辞典には、見出しすら無かった。

ロシア語の辞書をいくつか当たってみたところ、唯一、エフレーモヴァの『現代ロシア語詳解辞典』にのみ、バーボン・ウイスキーの語義が見られた。

ところで、上記の「粗暴な成り上がり将校」という語義は、ウシャコフ詳解辞典によると、仏ブルボン朝の名称に由来するようである。

なるほど。あの公安の地下隔離施設のゴージャスなイスは、やはり玉座だったか・・・(違う)。

玉座に座る、粗暴で不遜なブルボン王朝の成り上がり将校のイメージ?
(なわけないか)



Хиромицу Морофуси 諸伏景光

(発音)



Скотч スコッチ 

(発音)

IPA表記
[skot͡ɕ]

発音のカタカナ表記
スコーッチ

(ロシア語の語彙)

скотч

(1)研究社露和辞典(1988年)
 なし

(2)岩波ロシア語辞典(1992年)
 なし

(3)コンサイス露和辞典 第5版(2003年)
 なし

(4)プログレッシブロシア語辞典(2015年)
 скотч (男) セロハンテープ、粘着テープ / スコッチ・ウイスキー

(5)増補改訂版 現代ロシア話しことば辞典(2022年)
 скотч (男) 粘着テープ(scotch)


(4)のプログレッシブだけ、「スコッチ・ウイスキー」の語義があった!万歳!

諸伏に関するロシア語での情報はごくわずかだった。

また、Морифуси(モリフシ)と微妙に誤った発音の表記の方が、正しい表記の Морофуси(モロフシ)より多く見られた。



Дзимпэй Мацуда 松田陣平

(発音)



Кэндзи Хагивара 萩原研二

(発音)



Ватару Датэ 伊達航

(発音)



なんだか、警察学校編の人名、とくにコードネームのほうが長くなってしまった。

それにしても、ロシア語のバーボンの語義(バーボン・ウイスキーの同音異義語)が「成り上がり将校、粗暴・粗野な人間」とは。

もちろん、ウイスキーの種類をあらわす外来語だとわかるだろうが、ネイティヴ話者は音を聞くとなんとなく別の語義(バーボン・・・ブルボン王朝・成り上がり / スコッチ・・・粘着テープ)をも連想しそう。どうかな。

粘着テープ・・・。しつこい男は・・・あっ。


(※ 2024年5月4日追記)

その後、バーボンを調べていて、そもそもバーボン・ウイスキーの「バーボン bourbon の語源もブルボン朝だと知った。

無知を晒してお恥ずかしい。精進します。