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猿若祭 十八世中村勘三郎十三回忌追善 夜

『猿若江戸の初櫓』『すし屋』『連獅子』 <白梅の芝居見物記>

 猿若江戸の初櫓

 初世である猿若勘三郎が江戸で初めて幕府の許可を得、櫓をあげてから四百年。猿若役を弱冠12才の勘太郎丈にまかせての祝儀幕。
 新しい猿若の誕生を福助丈、芝翫丈ほか若手役者たちが顔をそろえて、明るく賑々しい一幕となっています。 
 十七世も十八世も泉下でさぞ喜んでいらっしゃることと思います。

 そんな祝儀幕に対して欲張りとは思いますが、歌舞伎の弥栄を願って、さらなるブラッシュアップは出来ないものかと思ってしまいました。 
 17世紀の始まりとともに一世を風靡したお国のかぶき踊りは、天下に平和がおとずれ人々がそれぞれの「生」を謳歌できる活力に溢れた時代が到来したことを象徴するものだったでしょう。
 衆人の中で輝きを見せたその踊りは、天鈿女命が披露した舞のごとく、人々に明るい未来の幕開けを約束し、力を与えてくれるものだったのではないかと思います。

 お国かぶきの魅力は、おそらく柳腰の女性が男装をし茶屋遊びをする趣向と、男装のかぶいた女性たちの群舞にあったのだと思います。
 それを、お国の踊りだからといって女形が着流しでかぶき踊り的な群舞を今の歌舞伎で見せても、今ひとつ魅力に欠けるように私にはどうしても感じられてしまいます。

 今回魅力を増した七之助丈の踊りを見ていて、女形として発展させてきた身体芸を生かしてこそ、今の歌舞伎ならではの色も華もある踊りとなるように私には感じられます。
 せっかく成長著しい若衆方を並べても、踊りとして見応えがあるまでに生かし切れていないのが、歯痒く思われてなりませんでした。

 義経千本桜 すし屋

 「木の実」から見せる片岡仁左衛門丈の練りに練った「すし屋」を現在進行形で堪能している観客としては、まだまだ舞台の魅力を見いだすまでには至らない、中村芝翫丈のいがみの権太でした。
 上方とは違った江戸前の権太の魅力が少しでも見いだせるような舞台であれば、今後の期待につなげていくことも出来たでしょうが。江戸前の魅力が生かされているとも言い難く、大変残念に思います。

 渡辺保氏が評されているのを拝読してなるほどと思ったのですが、まず芝居以前に身体の動きにキレがないということは、芸としての面白さを感じることが出来なかったという点で、見過ごすことの出来ない大きな要因であるように、私にも思われます。
 六代目尾上菊五郎は踊りの名手であり、その系統を引いた二代目尾上松緑丈の権太が、芝翫丈の目指すところとしてあるのかと思われますが、やはり舞踊で鍛えた肉体あってこそ光る芸とも言えることを、今更ながら実感せずにはいられません。

 芝翫丈が「妹背山」の鱶七や児雷也などで存在感を出していくことが期待されるなかで、そうした役にとっても歌舞伎役者としての鍛えられた肉体、歌舞伎役者としての台詞術‥、どれをとってもまだまだ修行が足りないように思えてしまうのは、実に残念でなりません。

 回りを、歌六丈時蔵丈又五郎丈に支えていただきながら、もう少し芯をつとめる役者としての自覚が感じられてもいいように思えてしまうのは、大変残念です。
 芯が目指す歌舞伎がしっかり定まっていないが故に、この一幕全体としても、まとまりが感じられず、一役一役の間での相乗効果で芝居が面白みを増していくことがない。いわば、指揮者を欠いた一幕のように、私には感じられてしまいました。

 芝翫丈が今後どんな魅力を持った役者を目指されるのか、具体像を持った上で、さらなる芸の研鑽が必要であるように思えてなりません。

 連獅子

 ここ何年か、毎年複数回上演が重ねられている『連獅子』ですが、それぞれに比較の出来ない魅力があり、毎回堪能させていただいています。
 間狂言を挟み、前後で異なった趣きの踊りで楽しませてくれる上に、やはり邦楽としても魅力があるからなのでしょう。
 見ている側も、決して飽きることがありません。
 
 今回も今までにない面白さを感じさせていただきました。
 今までに感じなかった点としては、仔獅子が幼かったり子供の域を出ていなかったりすると特にですが、どうしても仔獅子の方に興味が引かれがちになってしまいます。
 しかし、今回初めて親獅子の勘九郎丈から目が離せないほど、踊りとしての魅力に溢れた舞台を見せて頂きました。

 仔獅子に見せる親獅子の厳しい背中、親獅子としての存在感の大きさ、そして厳しい中にもそっと包み込んでいる親獅子としての大きな温かさ。
 それがあるゆえ、その父に一生懸命くらいついて行こうとする、長三郎丈の子供らしいかわいらしさのある仔獅子の姿が、ひときは健気で愛おしく感じられました。
 小さな身体に緊張感を張り巡らせた勘太郎丈との『連獅子』も、大変素晴らしいものでしたが、兄弟でこんなに違うものかと思われる程の違いで、今回も魅力的な『連獅子』を拝見することが出来、忘れられない一幕となりました。
                          2024.2.16

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