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『流白波燦星』(ルパン歌舞伎)

<白梅の芝居見物記>

 昭和の匂い

 テレビで舞台の裏側が取りあげられたことも、功を奏したのでしょうか。一度は歌舞伎を観てみようという人が新橋演舞場に詰めかけているようで、まずは目出度いと言えるでしょう。
 12月は、歌舞伎座も様々な色合いの演目で三部制が彩られ、劇場が活気に満ちた中で2023年を締めくくることが出来ているということは、歌舞伎ファンとしても、なによりなこととうれしく思います。

 「ルパン歌舞伎」ですが、思った以上に、私自身面白く拝見することが出来ました。
 アニメ自体が、魅力的なキャラクターをバランスよく配して、明るく楽しいストーリー展開で楽しめる娯楽要素の強い作品であり、それが人気を支えた大きな要因でもあったでしょう。声優が醸し出す味わいも含め、一人一人のキャラクターの魅力がそのまま作品の魅力に直結していました。そうしたところが歌舞伎にし易い部分であり、もともと歌舞伎との相性のよい素材であったと言えるでしょう。
 今回の成功の一番の要因は、なんと言っても配役の妙にあったと思います。ルパン・次元・五右衞門・不二子・銭形、それぞれが、非常にはまり役となっており、魅力的に躍動していたことが、一番大きかったと思います。

 ルパン歌舞伎を観て、最近のルパン三世に不満を持っていらっしゃる方が、これこそ「ルパン三世」とおっしゃっていたと聞きます。
 パンフレットを拝読すると1977年からはじまったPart2が、「ルパン三世」の人気の土台を作ったということですが、私の中に残っているイメージも、まさにそれだったのだと思います。今回の舞台は、確かにそれを彷彿とさせるようなものがあったのだと思います。

 大の大人が全力で遊ぶ。パワフルに働き、パワフルに人生を謳歌する。そんな夢に溢れた昭和的な雰囲気が、舞台に溢れ、テーマソングとともに懐かしく思い出されていたような気もします。
 「猛烈」な時代よろしく、発端から序幕は、詰め込むだけ詰め込んで芝居を展開していくのが、いかにも昭和的な芝居作りとも言え‥。1時間20分余りの長丁場に少し疲れを感じてしまう程でした。二幕目の通人・萬望軒の観客に語りかけて場つなぎをするような場面に、ほっとしてしていたのは、私自身、年を取ったということでしょうか‥www

 平成時代を、失われた30年などという風潮もありますが、昭和的な活気を思い起こさせる作品が、老若男女を問わずに明日への活力を与えることが出来ているのであれば、それはそれで誇らしいことのように思われます。

 職人達の創造性

 今回、脚本と演出を担当された戸部和久氏が、「古典歌舞伎」を書くつもりでこの作品に取り組んだとおっしゃっています。
 彼があまり「古典」「古典」と言うと、「古典とはなんぞや」などと、余計なことを言ってしまいそうになる、昭和な人間ですが‥
 そうした話は別の機会にゆずりましょう‥。

 多くの観客が、「古典歌舞伎」を観たような、本格的な歌舞伎芝居の一端に触れたように感じて下さったのであれば、それはそれで悪くはないとも思います。
 そして、それは多分に役者の皆さんの「功」であることは言うまでもありません。

 片岡愛之助丈と尾上松也丈が、実力と華を兼ね備えた存在感で舞台を引っ張っていたのが魅力の第一だったことは言うまでもありません。
 その上、市川笑也丈、市川笑三郎丈がその脇を芸の工夫と安定感をもって支えていたことも、大きかったと思います。若手には出せない味わいで、歌舞伎的色合いを濃くしたのは、成功の大きな要因だと思います。

 市川中車丈は、原作が彼をイメージして書いたのではないかと思わせるくらいのはまり役で、出てくるだけで「ルパン歌舞伎」の世界観をつくり出していたように思われました。(ただ心配なのはこの流れで、初春歌舞伎の堀部安兵衛に入っていって頂いては‥ということ。老婆心ながら、年末年始は精進潔斎くらいして、安兵衛に挑んで頂きたいなどと思う次第です‥)

 中村鷹之資丈の若々しく楷書的な芝居が、百戦錬磨の先輩方のなかで、初々しい魅力を放っていました。
 尾上右近丈が、美しく、五右衞門とのくだりでは、松也丈との息も合い、琴線に触れる芝居も見せてくれました。ただ、気の毒なのは、早変わりに慣れていない観客が多く、また、余り極端に変わったためか、伊都之大王は誰が変わって演じていたのか‥と、話をしている観客がいたこと‥。奮闘の割に効果的ではなかったの残念です。かえって女形のままで変化させても良かったのではないかと思えました。

 再演や続編を望む声もあるようですが‥
 とにかく、ある意味詰め込み過ぎていた感は否めません。「二匹目のどじょう‥」ということもあり‥。かなり、しっかりした内容にしないと‥。などと、心配の方が先にたってしまいますが‥。

 序幕の詰め込み過ぎの一方で、二幕目や大詰めのバランスがとってつけたようにあっさりしすぎていたりもして、突っ込み所は満載ですが‥
 和楽器を使ったテーマソングはもって多用されてもよかったようにも思え、和楽器の使い方にとても魅力がありました。
 機械仕掛けのような立回りも非常に面白く、見応え十分でした。
 衣装がとても魅力的で、全体的に一つ一つの「仕事」がとても光っており、注目すべき点がたくさんあったと思います。

 松本白鸚丈が、歌舞伎役者は「芸術家」であるより「職人」であるべきとの考え方をされますが、こうした芝居を観ていると、舞台芸術は総合芸術であり、それは職人達の力の結集であることを実感します。
 昭和な多くのスタッフ達の、職人気質とも言える「工夫」の上に、この芝居が出来上がっていることを誇らしく思うとともに、歌舞伎を支える職人達に対しても、観客側が常に意識を持っていたいものだと、改めて考えさせられました。

 脚本募集などで、オリジナル性がよく重要視されますが‥
 遊び心のなかから、創造性というのは生まれるのではないかと、この頃、さらに強く思うようになりました。
 大の大人が大真面目で、全力で遊ぶ姿を見せる‥。そんなことも、次の世代に引き継いでいくべきことなのかもしれない‥。
 そんなことを考えさせられる舞台でした。
                       2023.12.22

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