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錦秋十月大歌舞伎 文七元結物語
<白梅の芝居見物記>
文七元結物語
山田洋次脚本、演出の文七元結。大変、面白く拝見しました。
舞台装置の工夫が大変よかったのは、一番の見所でした。
また、古典として、ある意味完成しているとも言える演し物を、別の見方で描こうとする試みは、演者にとっても、観客にとっても、大変よい経験であると改めて感じました。
歌舞伎を見慣れている方にとっては、不満の残る部分が多くあったかもしれません。でも、批判を恐れていては、新しい試みなど出来ないことを思えば、果敢に古典に挑戦していく姿勢も、容認されてしかるべきではないか。創造の世界では、決して意味がないことなどない、ということを今回、強く感じました。
実を言えば、私自身、突っ込みどころをいくつも感じながら、拝見していました‥。もっと素直に舞台を楽しめばいいのに、と頭の片隅では感じつつ‥
新しい試みが成果をあげていないとは、私も言いたくありません。
ただ、古典となっている芝居が、どれだけ舞台として高度に発達しているのかを、改めて考える機会になった‥、と感じたのもまた事実です。こんなことを申し上げるのは、大変失礼かとも思いますが‥
今回、再確認したことの一つに、歌舞伎が培ってきた台詞術がいかにすぐれているかということです。
日常会話に近い形で、心情をそのままストレートに舞台で表現しようとすると、感情が先走った時に台詞がツマッてしまう。「気持ち」の表現を優先させると、それはどうしても避けられないであろうことが、今回の舞台を見ていてよくわかりました。
そうしたことを避けられるよう、世話物の写実的な作品であっても、歌舞伎では、長年の工夫により練り上げられてきた台詞術というものが、型として出来上がってきているのだということを、今回改めて感じました。
そうしたことはさておき、山田洋次氏の作品としてこの演目を少し考えて見たいと思います。
この脚本が、山田氏の意図をどこまで反映さた歌舞伎脚本となっているのか。書き直しが行われているとしたら、どこが書替えられているのか。私としては、かなり気になっています。
山田氏の意図がよくつかみきれないところがあり、面白く仕上がっているとは思うのですが、消化不良の部分が残ってしまったからです。
それは、まだ作品として未完成な部分があるからなのか。なんらかの理由により、それが描ききれないまま上演するしかなかったからなのか‥
脚本家や演出家の意図が、どこまで作品全体にいきわたっていたのか。
いいかわるいかは別として、役者の演技が重きをなし、役者の演技が見る側にとっても印象を大きく左右させてしまう歌舞伎の一座において、山田氏の意図したところがどこまで表現出来ていたのか‥。
今回の作品の見所として、女優の寺島しのぶさんの存在がまず注目されることになりましたが、それが芝居作りをさらに複雑にしてしまっていたのかも‥。などと考えてしまったり‥、これは私の勝手な推測ですが‥
今回、登場人物として一番印象に残ったのは、お久でした。
それは、文七元結の新しい見せ方として、家族関係に注目させるための鍵となる人物だからでしょう。そのため重要な役どころとして丁寧に描こうとしたのではないでしょうか。
これは、やはり山田氏ならではの視点から生まれた描き方で、そこが新鮮で面白く感じたところでもあります。
家族の結びつきに大きなポイントがあればこそ、長兵衛が文七に大金を与える行為が「神が降りてきた」という表現でしか説明がつかなくなる‥
そういうことなのかも知れませんが‥
ただ、そこに持って行くには、お久のやむにやまれぬ行動を起こさせるだけの、家族の危機が滲み出ていなければならないのではないか‥
そう思うと、お兼と長兵衛の間の緊張感があまりにも弱いように感じます。
お久が突然姿を消した事に対するお兼の動揺と長兵衛との緊張感。お久の行動に対する長兵衛の驚きと改心への強い思い。お久を苦界に身を落とさせないため決意をした直後の、無分別とも言える文七に対する慈悲心。お久の行動に対するお兼の思いと、その大切な金を見ず知らずの男に投げつけて来たと言い張る夫への怒り‥
こう考えてくると‥。
”人情噺”を近代的な人物解釈や人物の描き方で舞台にのせることの難しさを実感せざるを得ません。
どこかで飛躍しなければ舞台として成り立たないことに、今更ながら気づきました‥
そう思えば、そんな疑問を持つことなく、楽しんできた歌舞伎の『文七元結』の完成された面白さを改めて感じます。
長兵衛に獅童を指名した、山田氏の思い。
それは、獅童の描く長兵衛に垣間見ることは出来ました。
日本人の琴線に触れてきた、”男はつらいよ”シリーズの寅さん。
山田氏には、歌舞伎版の寅さんをいっそ描いて頂きたいなと思いました。
歌舞伎座の舞台で女優が共演するという、話題に関して‥
このことに関しては、別の機会に考察したいと思います。
今回は、まとまりがつかず、とりとめもないまま筆をおきますこと、お許しください。
2023.10.26
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