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仕事と結婚と、子供について悩み始めた人に知ってほしい「ブライダルチェック」のススメ。

当記事はより多くの人に届いて欲しい目的から、全文を無料公開しています。

「子供、いつか産むのかなぁ」

当時20代半ば。定時をとっくに過ぎた薄暗い静かなオフィスで、わたしは不意に天井を見上げた。張り付いていたキーボードから手を離すと、仕事の締切に追われながら酷使し続けていた体がついにギシりと鈍い音を立て、いよいよ溜まった眼精疲労と肩こりがあまりに酷いことに気がついた。

手元のタンブラーに残っていたミネラルウォーターを手に取ると、それを一気に飲み干してそそくさと帰り支度を始めた。会社を出ると飲み会帰りのサラリーマンで街は賑やかだった。仕事脳のままの私は人混みを避けるように、足早に家路へと歩みを進めた。

家に着くと、荷物を玄関に投げ捨ててそのままベットに座り込む。整理が追いつかない部屋をボーッと見つめながら、不意にオフィスで独り言のように浮かんできた疑問が再浮上してきた。

(まだ結婚もしていないというのに、子供という疑問が降って湧いてきたのは何故なのだろう。)

仕事上がりのクタクタの頭ではそれ以上の深い思考に潜ることは叶わなかったが、今思えばそれは「こんな働き方、いつか出来なくなるよな。」という、腐っても女性である自分のキャリアに対して生まれ始めた素朴な疑念と不安だったのかもしれない。

そんな当時の私や、まだ子供が欲しいかどうか自分の気持ちも分からないと不安に思うワーカーホリックな男女に伝えたい「ブライダルチェック」という検査について、今回はわたしの実体験を元に実情をお伝えしたいと思う。

思考停止していた当時の盲点

わたしは元々、典型的なワーカーホリックと言われるような働き方をする女性だった。職種はデザイナー、業界はITということもあり繁忙期には連日深夜過ぎまで会社にいるのも全く厭わないタイプの人間だった。

それが27歳ぐらいの頃から「子供を持つのか」を急に意識し始めたのだ。

詳しい経緯は前回の記事も読んで頂ければと思うが、当時彼氏はいたけれど結婚するかもまだ分からない。なのでとりあえず仕事に打ち込む、という非常にマイペースな状態であった。

それでもいわゆる「いつか結婚して子供を産み、温かい家庭を築きたいです★」みたいな感情は1mmも持ち合わせておらず、むしろ自分の生き甲斐とも言えるキャリア意外で優先するものなどないだろう、と冷ややかな目線を送っていた方の人間であった。

しかし一方、強い確信を持って「子供はいらない」と言い切る自信もなかった。

まあいつか、気が乗ったら?みたいなフワフワとした希望的観測をベースとしたまま、わたしは当時の彼とそのまま結婚をした。子供のことはまだ考えたくないと意思を伝えておいたので、わたしはそこから3年間もの間「考えることをやめる」という、いわゆる臭いものに蓋をする戦法をとったのだった。

しかし、もしいま当時の自分へ声がかけられるのなら伝えたいことがある。それは「とりあえず、ブライダルチェックを受けとけ。」ということだ。

最終的に子供を持つかどうかはどっちでも良い、それは未来の自分に託せば良い。それでもなるべく若い時に、できるなら20代後半のうちにこの検査を受けておいて全く損はないと今になって強く思う。

何故なら自分自身の「子供が欲しいか」という希望と、実際に「子供が作れる体なのか」が全く別問題であるということを、当時のわたしは何も知らなかったからだ。

妊娠はそこそこ奇跡、という事実。

よくよく調べてみると、実は妊娠するということがいかに奇跡的な事象なのかがよくわかる。

例えば、排卵された卵子の生存時間はおよそ24時間と言われている。これは「思ったより短い」と感じた方も多いのではないだろうか。一方で精子の生存時間は48時間から72時間と少々長めだが、膣内に射精してから卵子に到達するまで約12時間かかると言われている。

つまり理論上では受精の成功タイミングは月に一回、1日あるかないか程度のバッファしかなく、排卵と射精のタイミングが数時間でもズレればその分だけ妊娠の確率は下がっていくのだ。個人的に、これは「そこそこ奇跡」と言って遜色ない確率のように思えた。

しかし、これはあくまで「男女ともに心身が健常な状態の人」の話である。これらにさらなるハードルが加算されてくるのが「不妊」という実態だ。

実は10年ほど前まで「10組の夫婦のうち、1組は不妊治療を受ける」といわれていたが、近年では「6組に1組」とまでいわれるようになり、現代人にとって不妊治療は全く珍しくない事象となっていることをご存知だろうか。

親族や親しい友人から不妊治療における辛い話を聞いているような場合を除いて、普通に日々の仕事に没頭している現代ワーカーは不思議と「子供が欲しくなったら動けば良い」と思いがちだ。それよりも目の前の仕事や昇進の方が必死で、妊娠は誰にでもできることで、自分のタイミングである程度はコントロールできるものだと都合よく思い込んでしまうのだ。

実際に、わたしもその楽観的な一人であった。

またネットを見ていると、近年では30代後半から40歳過ぎの芸能人やブログで情報発信をしている個人が妊娠出産をしたという話も、そこまで珍しくなくなった。それを何となく見流していると「現代医療があれば、高齢出産も全然できるんだな」というご都合主義のポジティブ思考に陥ってしまうのも無理はないのかもしれない。

そうして男女ともに30代後半から40歳前後まで妊娠や出産を後回しにし、仕事に打ち込んでキャリアを積み上げ、いざ夫婦で「そろそろ子供を…」と思ったタイミングで不妊症が発覚して焦り、不安と後悔を抱えながらものすごく高額で不確実な不妊治療に何年も向き合うことになるというケースが後を絶たない。

30歳で知った「ブライダルチェック」というもの

夫婦で子供のことを話し合った30歳の夏、相方は当時33歳だった。そうしていざ妊活することにした我々夫婦は夜の営みを始める前に「ブライダルチェック」と呼ばれる事前検査を夫婦で受けた。

これは何故かというと、実はわたしは学生の時から生理不順に地味に悩まされており、当時の婦人科の先生から「妊娠したくなったら病院に行ってね」と言われていたからだ。

当時の症状としては1ヶ月のうち4週間ぐらい生理が起き続けるという、非常に迷惑な常時生理状態であった。そして原因は何かと検査をした結果、なんとわたしは先生から「更年期の女性並みに女性ホルモンが少ない」と言われたのだ。

当時ピチピチの19歳、それが60歳ぐらいの女性ホルモン量しかないと言われて「どうりで男っぽい性格なわけだ」と変な納得したのは良いものの、ようは女性ホルモンが少なすぎて「体が生理がまだ来ていない!」と脳が勘違いしてしまい、生理を起こすために誤った命令が飛んで不正出血が続いているということであった。

その時はお尻から注射で女性ホルモンを注入され、どうにか平均して7〜9日の生理が来るように落ち着いたが、生理周期は通常の人の28日より長い35日前後というのが30歳になるまで続いていた。

だから自然と「妊活するならとりあえず病院へ」と思っていたのが、わたしにとっての不幸中の幸いであったのかもしれない。それと同時に「男性側に原因があるタイプの不妊」も視野に入れつつ、自然と前向きに向き合ってくれた相方には改めて感謝しかない。

妊活して数年経っても中々授からないと悩んでいた夫婦が、まず奥さんが検査を受けても何も見つからず、検査を渋った男性側から数年後に問題が見つかるというケースもよくあるそうだ。

不妊は女性特有のものではなく、男女に等しく可能性としてあり得るものなのである。

またブライダルチェックは大まかに「一般婦人科」「産科併設の不妊外来」「不妊専門クリニック/生殖医療センター/リプロダクションセンター」といった施設で受けることが出来る。

その中でも不妊専門クリニックなどの専門機関は検査結果が不妊症だった場合でもそのままスムーズに本格的な治療へと移行できることが相方調べでわかり、私たちはあえて自宅から20分ほど時間がかかる不妊治療専門クリニックを選んだ。

そして結果的に、私はこのブライダルチェックという妊娠前検査を通して「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」という不妊症の一種を抱えていることを知ったのだった。

検査内容と費用について

まず女性であるわたし2回に渡り、妊活パックという二種類の検査内容がセットになっているメニューを受診をした。内容はクリニックによって多少の差はあると思うが、一つの目安としてご参考いただければ嬉しい。

①ホルモン採血検査

・LH:黄体化(黄体形成)ホルモン
・FSH:卵胞刺激ホルモン
・PRL:プロラクチン 乳腺刺激ホルモン
・E2:エストラジオール 卵胞ホルモン

②超音波検査

・排卵・着床にかかわる卵巣、子宮の性周期内の状況把握
・妊娠に関わる子宮・卵巣の病疾の有無の検索

どちらも大きな身体的な負担もなく、いわゆる健康診断でされるような検査感に近い内容で済ませられるのは非常にありがたかった。

ちなみに1回目の検査では、生理が始まった日を1日目として2~5日目に来院する必要あり、2回目の検査では生理が始まった日を1日目として、10~13日目に来院する必要があったのは地味に歯痒く、すぐに検査を受けたいと思ったのにも関わらず実際に受診できたのは1ヶ月後であったことも注意しておきたい。

検査費用は22,000円。

さらに上記の妊活パック(22,000円)に加え、わたしはアドオンでの血液検査や感染症、抗体検査なども行った。

・感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV)
・クラミジア抗体
・甲状腺ホルモン
・風疹抗体
・貧血・凝固検査
・AMH(抗ミューラー管ホルモン)
・抗精子抗体
・ビタミンD欠乏症

追加費用は31,120円。先ほどの基本検査と合わせて合計53,120円となった。

正直お財布は痛んだが、各検査の必要性を調べるのもいちいち面倒で「この際だから全部調べとこ」ぐらいの軽ノリで受けたのが本音だ。

ぶっちゃけ詳しい人からすると過剰に見えたり、全てをやる必要もなかった項目もあるかもしれないが、結果的にこの追加検査項目のうちの一つである「AMH(抗ミューラー管ホルモン)検査」で私は自身の不妊症を知ることとなったのだからあまり馬鹿にできないとも思う。

個人的には妊娠初期にかかると胎児へのリスクの高い①風疹抗体検査に加え、不妊症の原因としてよく上がる②AMH検査、③抗精子抗体検査の3つは検査することをオススメしたい。

男性の検査内容と費用について

男性のブライダルチェックは女性と同じく採血を中心に行い、男性特有の検査としては精液検査が挙げられる。私たちが利用したクリニックは朝イチでパートナーにおたまじゃくしをプラスチックケースに採取してもらい、女性パートナーが自分の2回目の検査通院に合わせて病院に持ち込むスタイルであった(もちろん男性自身が持っていっても良い)

クリニックによっては採取部屋が設けられ、男性におかずコンテンツが提供されその場で出すという形式のものもあるそうだ。ここは男性パートナーの気持ちも踏まえて、病院選びをしてもいいかもしれない。

①ホルモン採血検査

・LH: 男性ホルモン産生機能
・FSH:精子形成に関する精巣機能
・Zn:亜鉛濃度
・T:男性ホルモンの測定
・PRL:乳汁分泌ホルモン

②精液検査

・精液の量
・精液の濃度
・精子の運動率

男性の検査料金は27,500円
夫婦で合わせると8万円を超える出費となったが、後述する国からの助成金などの活用で半額以上の負担を軽減をすることができる。

背に腹は変えられないし、私自身も「子供が欲しいのか」を生々しく考える一つのキッカケになったので基本的には納得しているが、これを20代で出そうとするには金銭的なハードルがかなり高いようにも思う。

結果的に、我が家では相方の血液検査からは特に異常は見つからなかった。そしてお恥ずかしながら精子検査はお互いのズボラがたたって提出を放置してしまい、検査を受ける前に妊娠が発覚したので実は検査を受けていない。

いくら検査とはいえど、忙しい日々の中で「明日病院行くから、これに出してね!」と伝えるのもまあ気恥ずかしかったので、この辺はまだまだ取り扱いが難しいなあと感じるのが正直なところだ。

料金や検査内容もクリニックによってまちまちだと思うので、まずはお住まいの地域で「ブライダルチェック」というキーワード検索をしたり、受診したい機関の検査内容を調べてみて欲しい。

当たり前じゃないからこそ、知っておく勇気。

「正直、驚いています。」

それはブライダルチェックを一通り終え、数ヶ月の自然妊娠による妊活を経て、病院の検査で正式に妊娠が確定した際に主治医がわたしに放った一言だった。それを聞いて、ああ、本当にこれはまぐれというか、ものすごく幸運なことだったんだなと、わたしはその短い言葉に含まれるメッセージを噛み締めていた。

わたしが抱えていた「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」という不妊症は女性のうち5~10%ほどに起きる症例だ。簡単にいうと卵子の在庫数は多いものの成長が遅く、重症化すると自力で受精できる正常なサイズまで発育することができず、排卵がされなかったりで自然妊娠が限りなく不可能になるものだという。

症状はグラデーションで、人によっては治療が必須ともなるものだが、幸いにも私は比較的不育が浅い方で、自力で卵子が成長し排卵されることをエコーで確認することができた。ただ、普通の人に比べると排卵も受精も不安定であることは間違いがなかった。

恥ずかしながら、こんな状況になってようやく「自分は、子供が欲しいかもしれない。」と多少の覚悟を持つことができたのは事実だった。

私は自身の不妊症を知った時点で、タイミング法(エコー検査などで卵子のサイズを監視し、受精できるタイミングを医師から促してもらう方法)やホルモン促進剤などを打つ覚悟はしていた。それが半年続くのか、何年もかかるのかは見当もつかなかった。

しかし幸いにもこの不妊症を知ったのが妻30歳、夫33歳であったことが、私たち夫婦を大きく下支えしていた。この年齢からちゃんと取り組めば、授かる可能性は高いので焦らずのんびり行きましょうと主治医がフォローしてくれたのも精神的にかなり助けられた。

それでも「本当にできるのだろうか」という疑念はずっと拭えなかったし、毎月生理が来るたびに落ち込む日々はまるで受験の合格発表のようで、精神的には中々に堪えるものがあった。

これがもし、わたしが30代後半だったら。もっと不育症状が重かったらと思うと今でもゾッとする時がある。

実際にそういう経験をしている人たちのブログや発信はネットをググればいくらでも出てくる。たらればを言ってはキリがないが、私だって何かがかけちがっていたらそちら側だったかもしれない。もっと不安な日々を過ごして、大きな後悔をして、夫婦仲も悪くなっていたのかもしれない。

残酷なことに、もし夫婦のどちらかに不妊症が発覚したとしてもやはり本人が若ければ若いほど子供を授かる確率が高く、同様にリスクも少ない。しかし若い人でブライダルチェックを受ける人はまだまだ少なく、晩婚化が進む現代では総じて30歳をだいぶ過ぎてからの受診が多いように見受けられる。

いくら仕事が好きとはいえ、自分が「子供が作れる身体だ」と知った上で過ごした20代後半から30代前半と、あらかじめ「子供ができにくい身体だ」と理解した上で選んだ20代後半から30代前半では覚悟も後悔も何もかもが変わってくるように思う。

もしそういうリアルな「可能性」を知った上でキャリアを考えられていたら、多少は答えのないモヤモヤの中にも自分の気持ちを見出し、人生の設計がしやすかったのではないかと今になって思うのだ。

とはいえブライダルチェックにはお金もかかるし、時間も手間もかかる。

それでも、1mmでも子供について迷う気持ちがあるのなら、わたしは若いうちに検査を受けることを男女共に勧めたいと強く思う。夫婦ならとりあえずお互いの身体状況を知った上で先送りにすることは非常に有益だと思うし、独身の方でも生殖機能に問題がある人は先回りで治療したり、若くても精子や卵子の在庫が少ない人はいるため、今から凍結保存をして備えることは未来の選択肢を残しておくことに繋がると思う。

人生の選択肢が増え、キャリアの柔軟性が上がった現代人だからこそ思い悩む「子供を持つ」という一つの選択。

私自身も「まだ考えたくない」と極端に蓋をしてしまい、日頃から入ってくる情報がご都合主義に偏ったまま30歳へと突入したうちの一人だ。今回はたまたま運のよい結果になったとはいえ、この「もしかしたら」は誰にでも起きえることだという事がより広く認知され、不本意に思い悩む人が少しでも減ればと思い筆をとった。

人生の幸せのあり方は、その答えは人それぞれだろう。

子供がいない人生も楽しいだろうし、その逆もまた然りだ。その上でこのわたしの経験談が、今キャリアを思い悩む誰かにとって、ひとつの視点と可能性を増やすキッカケとなれば嬉しい。


おまけ:助成金について

今回紹介したこれらの検査は全て保険適用外なので全額自腹なのはかなり痛いが、東京都在住で婚姻関係がある夫婦(もしくは事実婚を証明できるカップル)は特定の条件を満たせば一部の検査について「不妊検査の助成金(最大5万円)」が申請すれば補助される。

各自治体によって助成金の内容や条件は違うと思うので、ぜひ調べて使えるものがあれば活用してみてほしい。

また2022年4月から本格的な不妊治療が保険対象になることになったそうで、細かい問題はまだたくさんあるだろうが着実に国からの支援も充実し始めている。

子供が欲しいなと思ったら、ぜひ夫婦で最新情報を調べてみることをオススメしたい。

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