学会発表に向けた抄録作成について

はじめに

今回は学会等での事例報告の抄録作成について私が注意していることをまとめました.

対象は,
学会での事例報告などに挑戦しようと考えているけど抄録作成に慣れていない初学者の方,
抄録の書き方について学んだことがない方,
抄録の書き方について学ぶ機会に恵まれなかった方です.

私自身は作業療法士ですので,作業療法関連での学会発表しか経験がありません.
それ以外の職種の方には一部参考にならない箇所もあるかも知れませんのでご了承ください.

また,私は抄録作成のエキスパートといったような実績はありません.
あくまで現段階で私が抄録作成の際に個人的に気をつけているポイントをまとめたものです.
これが正解というものでは無いと思いますし,結構長文になってしまったので真似できそうなところがあれば少しパクってみるかというスタンスでゆるくご参照ください.

まずは,
職場でのプリセプターからの指導やガイドラインや書籍などを参考にされることをオススメします.

上記以外でもう少し具体的なことをきいてみたいなーという方は下記をご参照ください.

事例報告を行うメリット

最初に事例報告を行うメリットについて整理しておきましょう.
これを知っているかいないかで抄録作成に取り組むあなた自身の動機づけも結構左右されると思うんですよね.

事例報告は極端に言ってしまえば自分の学びや気付きを他者へシェアする行為という意味合いが強いと考えています.
自分が得た学びをシェアすることで誰かの臨床が明日から少しでも好転したら嬉しくないですか?
それによってCLの健康と幸福に寄与できるならとっても嬉しいと個人的に考えています.

さらに,事例報告をまとめることは自分の日々の実践を振り返る機会として役立っていると考えています.
普段は無意識で行っていたことを改めて振り返り言語化する.そういった過程を経ることでロジカルな思考が可能になったり,今まで無意識で行っていたことを次回は意識的に使用できる可能性が高くなるような感覚があります.
言葉にすることで改めて気がつくことって結構多いんですよね.

また,専門分野が増えるとまではいきませんが,得意な分野についての視野が広がるような感覚を得られます.
事例報告にあたって先行文献や研究論文などにある程度目を通す機会が多くなると思いますので,報告のテーマに沿った分野について最新の情報を得ることが出来るようになるかも知れません.
私個人も現在興味をもっている分野の多くは事例報告などを通して先行研究を調べた経験が基盤になっているように感じます.

まず行うこと

最初に行うべきことであり抄録作成において私が一番重要だと考えていることはここです.
先ずは目的から考えましょう!
学会等での発表を通して相手に何を伝えたいのか?
これがはっきりとしていないと抄録の方向性が定まらない可能性が高くなります.
リハビリテーション実践でも目標が定まらないままに介入を開始してしまうとあまり良い結果になることは少なくないですか?

何のために発表を行いたいのか?
発表を行うことで誰に何を伝えたいのか?
凄く詳細な目的をしっかりと決めることは必ずしも必要では無いかも知れませんが,ある程度具体的な目的を設定した方がそれ以降の作業が明確になりやすいのでおすすめです.

目的の決め方や文章の書き方等について参考になるものが欲しい方には以下がおすすめです.

前のところでも少しだけ触れましたが,事例報告のメリットや自分なりの目的を明確にしておかないと抄録を作成している途中で嫌になってくるかも知れません.
自分は何ためにこの作業に取り組んでいるのか?本当に取り組む価値があるのだろうか?こういったことはなるべく明確にしておいたほうがモチベーションの維持のために大切になると思います.

PCを立ち上げる前に

目的が明確に出来たので、さぁ書きはじめよう!とPCを開くことはあまりおすすめしません.
せっかくやる気になっていただいたのに水をぶっかけるような真似をしてしまって本当にすみません.

先ずは手書きで書き出してみましょう.
手書きの方が全体を見渡すことが容易に可能です.
最初からPCを開いて打ち込みはじめると思考が息詰まることをよく経験しました.
白い紙にばばーっと書いて全体を見渡しながら必要に応じて内容を修正し,
PCには完成したものを打ち込むだけという感じにできると効率的な抄録作成が可能になると思います.

そういえばプレゼンで世界的に有名だったあの方も先ずは紙とペンからはじめているという記述がありましたね.

私も毎回紙に書くことからはじめています.
まずは紙とペンからはじめましょう!

手書きでどんなことを書くか?

紙とペンはありましたか?それじゃ書き出してみましょうね.
先程決めていただいた目的をほんの少し意識しながらですが
最初は思うことを全て書き出してみても良いのではないかと考えています.
まずは質より量です.
ある程度書き出したら最初に設定した目的と照らし合わせて関連の薄いところ目的のために不要なところなどを削っていきます.
削ると言っても,質疑応答の時などに直ぐに答えることができるよう準備はしておきましょう.

具体的にどんな内容を書くかについて次で説明していきましょうね.

書く順番

一般的な抄録の様式では
【はじめに】
【事例紹介】
【作業療法評価】
【リーズニング】
【目標】
【介入】
【結果】
【考察】
の順番になっていることが多いかと思います.

書きやすいところから書き出して構わないと思いますが,
個人的にオススメなのは以下の順番で書くことです.
①結果
②考察
③介入
④評価
⑤事例紹介
⑥リーズニング
⑦目標
⑧はじめに

既に得られた【結果】や今回のCLとの関わりを通して自分自身が学びになったことや伝えたいことを【考察】として書き出すと筆が進みやすいことを多く経験しましたので今のところはこの順番で落ち着いています.
【はじめに】から書いていっても全然構わないのですが,【はじめに】から順番に書いていくと途中で息詰まり頭を悩ませている方が結構多い印象です.

各項目の関連について

各項目の内容はそれぞれが関連するように記載すると書く方も読む方も情報が伝わりやすくなります.
例えば【評価】で心身機能のことを中心に記載していたのに【結果】で作業遂行のことを中心に記載してしまうとチグハグに見えてしまってもったいないですよね.
私がよく気をつけて記載している箇所としては,
【結果】と【目標】【評価】の内容が関連するように
【考察】と【はじめに】が関連するように
他の項目でも言えることかも知れませんが,各項目の関連性を意識しながら書くことで記載内容の整合性が図りやすくなるかと思います.

リーズニングについて

従来の抄録の様式では【リーズニング】についての記載は必須ではないことが多いですが,作業療法士自身がどのようなクリニカルリーズニングを辿ったのかが分かるように記載があったほうが読者にとっても有益かと考えます.

私の場合ですが,作業療法評価を踏まえてどんな目標や介入をしていこうか,支援する作業にはどんな意味があると考えたのかなどを考察とは別で【リーズニング】に記載することが多いです.

クリニカルリーズニングについて更に学びを深めたい方には下記がオススメです.

作業療法士のためのクリニカルリーズニングに特化したツールも開発されています.

文献や先行研究について

リーズニングや考察で素晴らしいことが書けても「あなたがそう思っただけですよね?それが妥当だと考えたのはどのような根拠なんですか?」と尋ねられるとちょっと困りますよね.
どんなに当たり前と思っていることでも先ずは文献や先行研究を調べてみましょう.
引用文献や参考文献を上手に使えると根拠やエビデンスに基づいた抄録作成が可能になるかも知れません.

なんとなく皆さん知ってると思っていましたんで…は結構危険な場合が多いのでおすすめしません.

文献検索はどんなツールを使ったら良いの?という方は以下をどうぞ.

日本作業療法士協会の会員であれば学術データベース無料で使用できます.
個人的には協会に入会する最大のメリットのひとつだと思います.


はじめにで何を書くか?

【はじめに】は一番最後に書くことが多いです.
報告の目的を明確にして,【考察】や【リーズニング】で先行研究などを使用しながら今回どんなことを自分は考えたのか?などを言語化して,その考察を説明するために他の項目の情報を埋めていってという書き方をしているので結局最後に手を付けることになります.
しかも【はじめに】は読者が演題名の次に目にするところですから,ここで如何に相手を惹きつけられるのかも決まってくるかも知れません.
そういった意味で【はじめに】は最後に結構気合を入れて書き上げています.

よく「〇〇を経験する機会を得たので以下に報告する」という書き方をしている方がいます.不正解というわけではありませんが個人的にはあまりオススメはしません.
では【はじめに】ではどんなことを書くのか?

基本的には,この抄録にはどんなことが書いてあるのかを分かりやすく記載するのが【はじめに】の大きな目的であるように考えています.
具体的には,
①その研究分野で広く前提として言われていること
②今回の報告に関連する分野での先行研究で言われていること
③今回自分が行ったこと
という順番で大・中・小のように書くと良いよということを教えていただき重宝しています.

例えばですが,
「脳卒中後の片麻痺患者に対して〇〇の有効性が示されている.回復期病棟では△△を使用した先行研究が多い.そこで今回は☓☓を使用したことで□□を得ることが出来たので以下に報告する.今回は◎◎の目的で報告を行う.」
こういう感じで書いてみると抄録の内容が理解しやすくて読んでいる方に優しいのではないかと考えます.

この場合も報告の目的が明確でないと分かりやすい記載が困難になるかと思いますので,先ずは目的を明確にすることが重要になりそうです.

ご本人への同意などの倫理的配慮も【はじめに】で必ず記載しましょう.

事例の全てを書かなくても良い

ここまで書き進めたら抄録が結構なボリュームになっていそうですね.
沢山書けたことは本当に素晴らしいことだと思いますよ!
0から1を作り出すのは本当に苦労するので沢山かけた自分を先ずは褒めてあげましょう!

さて,そんなことばかり言っていられないので本題に入りましょうね.

様々な角度から考察できる事例報告などは大変素晴らしいと思いますが,抄録には文字制限が必ずあります.
学会によって規定の文字数は異なりますので演題を出したい学会の演題登録規定をよく確認してくださいね.

制約のなかで何を特に伝えたいのか?そのためにどんな情報を必ず記載しなくてはいけないのか?どんな情報は削ってもいいのか?などの取捨選択を行わなければなりません.
あまりに情報過多だと伝える方も聴講する方も疲れてしまいますので,そういった意味でも報告の目的を明確にして伝えるべき情報をシンプルにする必要があると考えます.

目的や伝えるべきことが明確であれば,あとはその内容に関するところを重点的に記載して余分なところを削っていく作業になります.
0から1を生み出す苦労を経験されたあなたであれば,伝えたいことがシンプルに伝わるように抄録の内容を磨き上げていく作業はそんなに苦労しないと思いますよ.

個人的にこの過程が毎回ちょっと大変でもあり凄く楽しいところです.
言葉を磨いていくって楽しいですよね.

また,削った箇所だからといって無かったことには出来ません.
学会発表の際に抄録から削った情報について質問があるかもしれませんから,抄録には記載していないけど質問されたら直ぐに答えられるように準備しておくと安心かも知れません.(さっきも似たようなことを書いていましたね)

演題登録のその前に!

抄録が完成しました!!
本当にお疲れさまでした!!!
それでは学会のホームページを開いて早速演題登録ー!!!

その前にちょっと話を聞いて下さい.(何度も水をぶっかけて本当にすみません)
一通り完成したらPCの前から離れて抄録を寝かせるというのが結構効果的です.
カレーの話じゃありません.本当に抄録を一度寝かせましょう.
PCを閉じてお散歩でも映画でもお酒飲みにでも行っちゃいましょう.
頑張って書いている時には気が付かなかったことも一旦寝かせて距離を置き,後日改めて見直してみることで修正箇所に気がつくことがよくあります.
真夜中のラブレター症候群なんて言葉もあるくらいですからね.
私も勢いで書き上げた抄録を後日見直したらとんでもない内容になっていて一人でめちゃくちゃ恥ずかしくなった経験が大いにあります.

思考を寝かせることの重要性については下記が参考になります.

一旦寝かせることを想定すると演題登録の期日よりも余裕をもって抄録を作成した方が良いかも知れませんね.

人によっては,寝かせた後に抄録を印刷して声に出して読んでみるというのも良い方法だと思います.

ひとりで書かないこと

初めて抄録を作成する方にとっては勇気がいるかもしれませんが,可能であれば他者からのサポートを受けることをおすすめします.
(こういう大事なことは一番最初に書くべきでしたね)

学会の抄録集や論文などを精読すれば用語の使い方や言い回しなどはある程度ひとりでも上達可能かと思いますが他者からの教えてもらうことで効果的に上達できると思います.
他者に見ていただくことで自分では見落としていた新たな気付きを教えていただけることがよくあります.
サポートって具体的にどのように依頼したらいいのだろう?と悩んだら,まずは自分なりに書いてみた抄録を見てもらいアドバイスをもらうだけでも十分です.
出来れば,事例のことを全く知らない他部署の方,その分野のエキスパート,学会発表等の経験が豊富な方などに依頼するのが理想的かと考えますが,事例報告は個人情報の塊である可能性が高いので普段から指導を受けているプリセプター等ではない方にサポートを依頼する場合には必ず職場の上長に確認してください.

最後に

学会発表のための抄録を書くために大前提として日々丁寧な臨床を行っていることが必要になります.
事例報告などを通して多くの方々に価値があると思った気付きや学んだことを伝えたいなと思っても日々の記録や評価などを疎かにしていると経過を振り返って抄録にまとめるという作業にとても苦労します.
日々の業務の中で必ず行う評価などを予め決めておくことや一定の期間になったら事例報告を行うかどうかは一旦置いておいて事例についての情報をまとめることなどを習慣的に行っていると良いかもしれません.

実際に抄録作成を行いたい方のために

具体的な書き方のお手本が見たいという方や抄録作成のサポートを受けたてみたいという方がいらっしゃいましたら下記がおすすめです.

私自身は湘南OT交流会さんのメンター制度で数名の作業療法士の方の初めての学会発表をサポートさせていただきました.
私自身にとっても非常に学びの多い貴重な経験となりましたので今後も可能な限り参加させて頂く予定です.
個別での相談も可能ですのでご興味があればコメント欄にご記入ください.

抄録作成は学会発表の最初のハードルであるようなイメージですが挑戦する度に自身の成長を感じられることができる貴重な経験になりえると感じます.
私なりに抄録作成の際に気をつけているポイントをつらつらと書きなぐってみました.少しでも抄録作成の参考になれば幸いです.

また,みなさまが抄録作成の際にどのようなことに気をつけているのかなども教えていただけると大変嬉しいです!
よろしかったらそちらについてもコメントをお願いします.

気がつけば6000字を超えていました.
こんなに長文になるとは自分でも想定しておらずびっくりです!
長々と駄文失礼致しました.最後までお付き合いありがとうございました.

抄録だけでなく,スライドやポスターなどの作り方もいずれ機会があればお話してみたいですね(^^)


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