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【短編Tale】雨音を聞いている


雨音を聞いている。
微々たる音が、肌を撫でて、風が運ぶ冷ややかな湿り気が耳に届く。
ふと思いたち、使い古したキャップをかぶり、適当なジャケットを着て外に出る。
一段と強くなる雨音の無邪気さに、少しワクワクする鼓動が熱を帯びる。
気取って、ポケットに手を入れ、頭の中では、しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん、なんて言葉が巡って、唇でそれをなぞる。
肩を叩くしとしと雨は微笑みの様に軽やか。
時たま落ちるため息みたいに重いポトリ。
薄く張った水たまりを抉って走る車の音は、あくせく働く人の洪水。
ドッドッド。
ヒュるり、雨粒を巻き込んで遊ぶ風の子が、キャップのつばを掴んで持っていこうと、いたずらをする。
とっさに手で抑えて、焦りににやけた口から、吐き出された息は、やれやれと白く揺蕩っていた。
しばらくの間、この音の冒険を楽しむ。
そしてこの指の先が、ぎりぎりと出来の悪いブリキの玩具になり始めた頃、空の何処かで色が弾けた音がした。
これはちょっとやばい。
急いで踵を返して、キャーキャーと逃げ回る風をかき分けて進む。
轟きと色の爆発が体の芯を揺らすのを感じながら、体表の冷たさ、幹の熱さのちぐはぐに息を荒くして、なんとか土砂降りは回避した。
玄関を抜けて、濡れた服を全て柔らかな部屋着に着替え終えた頃、窓の外は暴雨の音で満たされていた。
流石にこの雨の中、外で歩き回るのはキツい。
風邪をひいてしまう。
またちょうどいい雨の日にでも散歩したいな、なんて想いながら、ココアを作ろうとカップ等を用意する。
その時のカチャカチャという音が何処か特別に聞こえて、耳に心地よかった。

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この作品は別の所で最初の一文をお題でいただき、そこから書いたものです

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