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[カヌレクエスト]その8 阿字観

毎日とても便利にオーブンレンジを使っている。もはやターンテーブルが回るようなこともなく近代的にごはんなどを解凍して毎日大活躍だ。

しかし、液晶に難が出たりはしていたが何故まだ使えていた先代オーブンレンジを捨て、そして粗大ゴミ収集前にマンションのエントランスに出していたら速攻で盗まれ、そして買い替えたのか? うっかりすると忘れそうになるが、カヌレが全然うまく焼けなくて、いろいろ実験してみた結果、先代のオーブンレンジがポンコツだから、という結論を出したからだった。しかし、あれからそれを使って一度もカヌレは焼かれていない。

なぜならば、もしもここでカヌレがうまく焼けてしまったら、ここでカヌレを焼く楽しみは終了だ。実は、わたしはカヌレがそんなに好きではないから、焼けるようになったとて、その後たぶん好んでは焼かないだろうなと思っている。とにかく、昔からご飯をつくるよりもお菓子を作る方が好きなのだ。しかも、工程が面倒ならば面倒なほど良いと思っている。その理屈にとても合うのがカヌレであり「カヌレ焼けた! 終了!」となってしまうのがもったいないと思ってしまったのだ。

しかしながら考えてもみよ。本当にいままでの失敗の理由はオーブンなのだろうか? 新しいオーブンで焼けば、うまくいくものなのだろうか? その保証は全くない。もしかしたら、本当の失敗の理由はただ単に「腕」かもしれないじゃないか。そうだとしたら、去年の夏に繰り広げた、オーブンの癖を掴み、レシピとオーブンの相性をはかる、みたいなことをもう一回新しいオーブンでやらなければならないのかと思うと、それはそれで非常に厄介である。これは面倒の種類が違う。失敗する面倒と成功する面倒は、面倒の質が違う。

そして、去年は年初から私は幸運と理不尽に交互に襲われ、夏には「パトラッシュ もう疲れたよ……」という状態になっていたのもある。本当にもうこれ以上のヤレヤレもよろこびも遠慮して静かに暮らしたくなり、カヌレの失敗や成功でも身にこたえたのだ。そして、とにかく手が止まった。そこから今日までの間で再起動をしようかと思って型に蜜蝋をひき直したこともあったけど、その時も焼くには至らなかった。

型に蝋を引いてジップロックにいれてあった。

急にまたやりだしたのは「やらないの?」と言ってくれた人がいたという単純な理由である。それに、思えば4万円のオーブンレンジである。もったいない。というわけで、以前につかってたレシピがわからなくなったので「カヌレ レシピ」で一番上にでてきたものをプリントアウトして、しばらくキッチンの壁に貼っておいた。なんか1週間くらいそのプリントアウトを睨みつけているだけだった。あまりに睨みつけすぎて、阿字観のようになり悟りがひらけてしまうんじゃないかと思ったくらいだった(うそ)。

そして、数日前にようやく生地を作り始めた。